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まさかの公爵様ルート突入。拒絶すればするほど裏目に。

ブックマークと評価、いいね! を頂き、ありがとうございます。

とても嬉しいです。

 エリーに着せられたチュニック。毛玉のお陰で、一番肌馴染が良いと気に入っている。

 だからエリーはこれを選んだ気もするが、こんなもの、人様に見せていい格好ではない。


 出来ればもう一度着替えたかったのに、どうしてこんなことになったのかと、茫然自失に立ち尽くす……。


「お嬢様、ご案内してまいりました。入りますよ」


 本当に来たっ!

 気が動転して青ざめる私を余所に、エリーは軽やかな声を出してクロフォード公爵様の入室を促す。

 

 その瞬間、清潔感のある爽やかな香りが、ほんのりと部屋に広がる。

 彼が使っている香水だろうが、それは、まるで彼が放つオーラのように部屋の空気を変えた。


 明るい金髪。引き込まれそうな深い青色の瞳。

 見目麗しい彼の全てが、あまりにも尊く、眩しい。

 (みなと)がお金をつぎ込んでまで攻略したかった、憧れの存在だ。


 ……そのせいで、湊の感情が大興奮を起こし、自分の心臓が煩すぎる。


 放心状態の私は、本来すべき礼も、すっ飛ばし、ただただクロフォード公爵様の姿に見惚れてしまった。


 そんな私のことを、気に留める様子もなく、クロフォード公爵様は穏やかな表情で、目の前に立っている。

 昨日、私を運んだ彼は、これまでの功績を示す章飾が付いた騎士服を纏う姿。王城の騎士団長のクロフォード公爵様にとって正装であることに間違いない。


 ……それなのに、恩を受けた私の方は毛玉付きの部屋着姿。重ね重ね、情けない。


 直前まで、クロフォード公爵様だと教えてくれなかったエリーに、「やってくれたな」と、皮肉たっぷりの視線を送る。

 すると、何を勘違いしたのか、にこりと笑い、私とクロフォード公爵様を2人きりにして立ち去った。

 侍女の余計な気遣いが、私の羞恥心に拍車をかけ、頬に熱を感じ始める。


「良かった……。昨日、何度声を掛けても意識が戻らなかったから、アリアナ嬢の目が覚めて安心した」


「クロフォード公爵様、ご挨拶が遅れて申し訳ございません。バーンズ侯爵家のアリアナでございます。ご無礼をお許しください」


「気にすることはない。今日は私が謝罪に来ただけだ。昨日、君たち3人が、階段の傍で言い争うのに気付いていながら、騎士である私は、アリアナ嬢が階段から落ちるのを防げなかった。むしろ、それに責任を感じている」


 それを聞いた私は、ホッと胸を撫で下ろした。

 そんなことは起きるはずないと思っていたが、私が階段から落ちたことで、ヒロインのシャロンを差し置き、私が彼のルートに突入したのかと、内心冷や冷やしていたのだ。

 でも実際は、警備責任者でもあるクロフォード公爵様が、仕事の一端として私の容態を確認に来ただけだった。


「私が階段から落ちたのは、全ての責任が私にありますから、クロフォード公爵様が責任を感じる必要はありません。それに、こうしてピンピンしていますから」

 前世で見たことがある、両肘を曲げるボディビルダーのポーズを真似て見せた。

 こんな仕草で何を証明しているのだと言いたげに、クロフォード公爵様がプッと笑い出す。


「それはどういう意味? 君の友人から聞いたアリアナ嬢の話と実物は、随分違うようだな」


「まあ印象は、人それぞれですから」

 私を嫌うシャロンから、何か聞いていたのだろう。

 だが、くだらないことに突っかかる必要もないと、当たり障りなく聞き流す。


 クロフォード公爵様も、無駄な雑談をする気はないようだ。

 笑顔から一変、これが本題と言いたげに、真面目な表情に変わった。


「申し訳ない話だが、アリアナ嬢が次の夜会に出席する際、私が警護役として付きたい。昨夜、倒れた君の脚が僅かに見えただけで浮かれ立つ男や、質の悪い輩の姿もあった。次回、事件に巻き込まれるのは困るから」


 クロフォード公爵様からの、心底不要な申し出にざわっと身震いが起きた。

 そんなことをされては、今度は他の令嬢から何を言われるか分からない。新たな面倒事はご免被る。


「そんな気遣いは不要です。それなら、社交界に顔を出す気は私にはありません。母から出席を命じられても、ドタキャンで逃げとおしますから、お気になさらず」

 焦る私は、即行で断りを入れた。


「……ドタキャン?」

 クロフォード公爵様が呟くと、怪訝な表情を浮かべた。


 ……やってしまった。

 私は目を逸らし言い訳を必死に考える。

 日本で普通に使っていた、「土壇場でキャンセル」の略語なんて、この国で通じるわけもない言葉をさらりと出してしまった。

 湊の記憶が戻ったせいで、これまで培った令嬢としての言葉遣いが、破綻しつつあるのだ。


 泡食う私を置き去りに、クロフォード公爵様が大きな笑い声を上げた。


「くくっ、公爵である私の申し出を、全力で拒む令嬢がいるとは思わなかった。……面白い。それでは、アリアナ嬢の警護ではなく、正式なパートナーとして名乗りを上げればよいのだろうか?」


 そっちはそっちで違うから!

 私はもう、貴族の世界には懲り懲りなのだ。

 湊は、お金の計算も、料理も得意だった。

 私は、平穏な食堂計画を練る矢先だ。

 もう、こうなれば四の五の言う場合じゃない。


「クロフォード公爵様。私は昨日、お慕いし続けた元婚約者から婚約破棄を受けた身です。直ぐに他の殿方と並ぶ自分が想像できません。それに、階段から落ちて醜態を晒した私をパートナーに据えては、クロフォード公爵様にご迷惑が掛かります。本当に私のことは気にしないでください。……昨日のことで貴族の社交場が怖いので、むしろ迷惑です」


 少し考え込むようなクロフォード公爵様が、おもむろに口を開く。


「信じられない、……迷惑。ここまではっきり言われたのは初めてだ。だとしたら、アリアナ嬢を気に入った私は、当主へ正式に婚約の申し出をすればいいのだな」


「はぁい? 突然そんなことを言われても困ります。何をおかしなことを言い出すんですか! 私はクロフォード公爵様のことを何も知りませんし、お慕いできません」


「くくっ。では分かった。アリアナ嬢が私を知ってから、もう一度答えが欲しい。花の祭典、それなら私と一緒に行ってくれるだろう。まさか、もう元気だと言い張るあなたが、貴族の社交場でもない場所への誘いを断る、何てことは出来ないだろう」


「……承知しました」


 もう、逃がさないとでも言いたげな視線を向けられ、打つ手のない私は、渋々ながらに承諾した。

 2週間後にある、花の祭典。国が国民を労うために開催されている祭りだ。

 毎年、ルーカス様と参加し、去年までは彼と笑って過ごした時間だった。


 今日、シャロンと海へ向かったのであれば、ルーカス様に会うこともないだろう。



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