◤電子コミカライズ配信記念SS◢ ゲームのヒロインの末路(※シャロン視点)
『後悔してる』って、ご勝手にどうぞ! あなたがいなくて、こちらは幸せですから
をお読みくださり、誠にありがとうございます。
連載当時、たくさんの応援をいただいたことで、この作品が漫画という形に生まれ変わることができました。
電子コミカライズは、集英社 異世界マーガレット様から 2025年1月1日にリマコミ+で配信開始されました。それを記念してSSを投稿いたしました。
本作品のSS投稿は久々なので、とても緊張していますが、楽しんでいただけると幸いです。
屋敷の中を従僕たちがドタバタと足音を立てながら走り回っている。これがかれこれ1週間も続いていた。
その原因は「領地が台風で被害を受けた」という知らせが入ったからだ。
お父様が現地へ確認に向かったが、所詮大袈裟に言っているだけだろう。
数年に一度は台風の話は出てくるが、その度にお父様が駆けつければ、小川が氾濫したとか、やぎを飼育するためのさくが壊れたとか、とりとめのない被害しかない。
どうせいつものことでしょうと思っている私とは裏腹に、いちいち真面目に反応する屋敷の者たちが騒がしくてイライラする。
不愉快な音で顔を歪ませていると、メイドが部屋を訪ねて来た。
「ご主人様がシャロンお嬢様とお食事を摂りながらお話をしたいようです」
「お父様は、いつ領地から戻っていたのよ!」
「たった今戻られたばかりですが、一番にお嬢様と過ごしたいとのことです」
「そ、そうなのね」
そばかすが目立つ地味な顔のメイドには、そっけなく返したが、内心にんまりとした。
ルーカス様との婚約話があったにもかかわらず、すぐに白紙に戻ってしまったのだ。
それをお父様は怒っていると思っていたが、存外そうではなかったようだ。安心した。
まあ今ごろ、ルーカスも私との関係修復を望んでいるはずだ。
侯爵家を継ぐ人物に婚約者がいないのは問題だし、アリアナと寄りを戻すことはあり得ないのだから。
喜ばしい反面、あの日の屈辱が蘇り、悔しさからぎゅっと拳を握る。
アリアナとブライアン様が恋人同士であるというのは、許しがたい。
おそらく建国記念の夜会でブライアン様に屋敷まで送り届けてもらったアリアナが、色目でも使ったのだろう。
でも所詮、そんないっときの感情でブライアン様を引き留めても、長くは続かないわよ。
アリアナとブライアン様がうまくいかないように、侯爵夫人になる私が邪魔してあげるわ。
そう考えながら、お父様が待つ食堂まで向かった。
◇◇◇
「お父様、お待たせいたしました」
そう言って、食堂に入ると食卓にはスープだけが置かれていた。
準備なんてできてないじゃないと、内心ムッとしたが、笑顔を取り繕う。
「ああ、待っていたぞ」
少しだけやつれた姿のお父様が、嬉しそうに歓迎してくれた。
チョロすぎるおじさん。私が笑顔を作るだけで喜ぶんだから、愛される娘でいるのも容易いものよね。
視線を変えた先に見える質素すぎる食事について、一応、気にしない素振りで椅子に腰かけてみたが、後ろに控える従者が、これ以上何かを運んで来る気配もないため、ゆっくりと言葉を口にした。
「あの~、今日の晩餐はこれだけですか?」
「そうだ」
「で、ですが、これではお腹いっぱいになりませんわ」
「そうだろうな」
「それなら」
「領地の小麦が壊滅した。今年の税収は一切期待できないから、これ以上の贅沢はできない」
「そんなっ!それは隣に領地があるバーンズ侯爵家も同じですか?」
「いいや。バーンズ侯爵領とクロフォード公爵領の小麦はすでに刈り取り、王都まで運び込んでいるから一切の被害はない。多大な損害を受けたのは、うちとゲルマン侯爵領だけだ」
「……我が家とルーカス様のところだけ」
そんな話をアリアナが聞けば、高笑いをするに決まっている。
いつも余裕ぶっている女の笑う顔が脳裏をよぎり、感情的になった私は思わず立ち上がると、机をバシンッと叩いた。
「どういうことですか‼」
「クロフォード公爵様が台風の情報をいち早く掴み、対処したそうだ」
「なぜ、我が家とゲルマン侯爵家には教えてくれなかったのでしょうか?」
まさか、花の祭典で出会ったときのことを恨んでいるのかと、顔をしかめたのをお父様に気づかれた。
「半信半疑の情報だったため、親しくしているバーンズ侯爵家にしか伝えなかったそうだ」
「じゃあ、小麦を譲ってもらえばいいじゃない」
「その両家は、我が家とゲルマン侯爵家には一切の援助をしないと宣言したんだ。意味がわからなかったが、お前に何か原因がありそうだな」
ひゅっと音を立てて息を呑んだ。
クロフォード公爵家に睨まれてしまえば、この国では生きていけない。
「まさか……。滅相もありませんわ、お父様。オホホホー」
何よ。どうしてアリアナばかり、都合よく生きているのよ。絶対に許さない。
「そこでだ。シャロンの幸せを考えて、この国の外の人間と縁談をまとめた」
「それは……どんな方ですの?」
「事業をやっている者であれば名前を聞いたことのあるくらい、名の知れた資産家だ」
それを聞いて、一気に気持ちが華やいだ。
ルーカスより断然に好条件じゃない。
毎日スープだけの生活より100倍ましだもの、私ってばツイてるわね。
にっこりと笑ってお父様へ伝えた。
「分かりました。お父様が決めてくださった縁談を喜んで受けますわ」
◇◇◇
そうして1週間後、ハエック男爵家の前に豪華な馬車が停まり、私を迎えに来たのだ。
その馬車の持ち主は乗り合わせていないが、本当に豪華な馬車である。
会うのが待ち遠しく感じ、頬を赤く染めて、目を細めた。
「うわぁ~、お父様が仰っていたとおり、凄い資産家なのね。アリアナもあとで私の結婚を知って悔しがればいいんだわ」
上機嫌で乗り込み馬車で移動し数日──。
彼の屋敷に到着してすぐのことだ。
脂ぎった男が私を強引に部屋に押し込め、ロープで縛りあげたのだ。意味がわからない。
「ぎゃぁ──! お願い、私を帰してぇぇぇえ~」
という悲鳴と、泣き叫ぶ声が屋敷中に響き渡るように出してみたが、誰も助けにきてくれない。
こんな屈辱的なことをさせられるなんて、聞いてないわよ!
「やだ、やめて──」
そう言うと、気持ち悪い男が、殊更嬉しそうにニヤリと笑った。
そんなシャロンの悲鳴は、監禁された部屋から、しばらく絶えることはなかったという。
最後までお読みくださりありがとうございます。
このエピソードを考えていたときは、投稿が元日になるとは思っていなかったのです(苦笑)。
まさか……まさかの、ざまあ回収の悲鳴で2025年の幕開けになるとは……。
今年は嬉しい悲鳴をあげながら、激しい活動ができるといいなって思っています!
アリアナとブライアンのラブラブ!!
それは是非とも漫画で楽しんでいただきたいという思いもあります。
漫画家 朝葉ゆき先生が、アリアナとブライアンの愛の世界を、新たなストーリーと共に美しく、情熱的に描いてくださいました。
まさに、キュンがいっぱい詰まった作品になっております!!!!
リマコミ+にて数話無料で配信中ですので、是非お立ち寄りください。
広告バーナーの下にリンクを貼っておきますので、是非ともお楽しみください。よろしくお願いします。
改めまして、日ごろから瑞貴の作品を応援くださり、誠にありがとうございます。
本年が皆様にとって幸せが溢れる年となることを、願っております。
2025年も引き続き、よろしくお願いいたします。
瑞貴 2025年元日