『後悔してる』って、ご勝手にどうぞ! あなたがいなくて、こちらは幸せですから
最後までお読みいただきありがとうございます。
第10話。ここにて完結となります。
途中たくさんの応援をいただき、感謝申し上げます。
窓に掛かる私のお気に入りの白いレースのカーテンが、風を受けて、ゆらゆらと揺れている。
吹き込む空気が冷んやりするのを感じると、ブライアン様に出会ってから、季節が変わったのを実感する。
ブライアン様と王都へ戻り、既に3週間が過ぎた。
私が領地を出発した翌日から丸2日。ゲームのシナリオどおり、台風は本当にこの国の東側をゆっくりと通過した。
そうなれば、この世界。起きる事象は、ゲームと同じと断言できる。
長く居座る台風によって、幼い頃から馴染みのある領地一帯は被害を受けた。
だけど、私はその全容を、まだ知らない。
お父様も、兄も領地の対応に追われ、しばらく姿を見ていない。そして、ブライアン様の姿もだ。
そのせいで、全く情報が入ってこない。
ブライアン様がどうしているのか不安で、夜も眠れない私は、どうやらソファーでうたたねをしていたようだ。
気が付けば、時計の針が1時間ほど進んでいた。
「あっ。お嬢様、起きられましたか? お嬢様に来客があったんですよ」
「そうなの? どなたがいらしてたの? 起こしてくれれば良かったのに」
「馬鹿男ですよ。ですから、お嬢様を起こす必要はないですもの。彼、お嬢様との婚約解消を泣きながら『後悔してる』って騒ぎ立てるから、うっとうしくて仕方がなかったですよ」
「まさかエリー、あなた……」
公爵様相手にも動じないエリーなら、碌でもない事をやり兼ねない。
白い目でエリーを見ると、胸を張ったエリーが勝ち誇った顔をした。
やっぱりだっ! 相変わらず、暴走している。
「ご安心ください! お嬢様に代わって、婚約指輪を投げつけておきました」
「そんなことをしたら、仮にも彼は侯爵家の嫡男よ……。どうなるか」
嬉しそうに話す侍女は、以前から、それをしたくて仕方なかったのだろう。私は呆れて、ため息が出た。
「問題ありません。ご主人様と、クロフォード公爵様が、ゲルマン侯爵家が領主なら小麦を売らない、と譲らないみたいで、どうやら領主交代するらしいですよ。もう、何も言ってこれません」
「そんな事になっていたの。やっぱり、被害は大きかったのね」
ブライアン様、お元気にされているかしらと、ますます心配になってくる。
「お嬢様の婚約指輪のお下がりを、くるくる頭の男爵令嬢にくれてやれとお伝えされたら、あの男爵令嬢、経済援助を願い出た、隣国の資産家の元へ既に嫁いでいるみたいです。あ~、悔しいわ。お嬢様の美しい花嫁姿を、あの令嬢に見せつけてやりたかったのに」
それって、あの変態おやじのこと?
どうしてシャロンが?
あの夜会、シャロンは目に付くことを、何かしていたかしら? 覚えがないわね。
……だがしかし。侍女の言葉も気に掛かる。
この侍女ならシャロンの名前を知っているのに、適当なことを言ってもおかしくない。
くるくる頭。……確かに、そんな髪型だけど、侍女が言ったら不味いでしょう。
「ちょっと、エリーがそんなことを言って、本当に大丈夫だったのかしら」
エリーを助長させたのは、愚痴を聞かせた私かもしれないと、手のひらで自分の顔を覆ってしまった。
「それを伝えたのは、クロフォード公爵様ですよ。お嬢様の目が覚めたらお会いする約束で、お待ちしていますから。じゃあ、ご案内してきますね」
「はぁぃ? どうして起こさないのよ!」
バッと顔を上げてエリーを睨みつけたが、全く動じることなく、にこにこしながら消えていった。
「お嬢様。入りますよ~」
エリーがブライアン様を、私の部屋まで連れてやってきた。
久しぶりにお会いするブライアン様。流石騎士団長、多少の忙しさでも輝きは以前と全く変わっていない。
「ブライアン様。まさかいらしているとは思わずに、申し訳ありません」
「気にすることはない。婚約指輪を渡したくて、突然来たのは私だし、あなたの侍女からアリアナの話を教えて貰っていたから丁度良かった」
「私の話……?」
「そう、アリアナの好きなものとか……」
それを聞き、耳まで熱くなったのが分かる。それ以上言われたら、恥ずかし過ぎて顔を見られなくなる。
「いや、大丈夫です! それ以上、何も言わなくてもいいですから!」
エリーがブライアン様に伝えた、私の好きなものなんて聞かなくても分かる。
彼の香りが好きだの、声が好きだの相当恥ずかしいことを、毎日言い続けている自覚はある。
私が好きなのは、甘いマスクのブライアン様以外に、パッと思いつきもしない。
「私も、アリアナがあの階段から落ちた夜は、不安で全く眠れなかった。今も、寝てると聞いてあの日を思い出し、怖くてたまらなかったんだから。愛してるよ、アリアナ」
ブライアン様がスッと、私の左手に婚約指輪をはめてくれた。
それは、以前のものと比べようのない美しい石が輝いている。リング全体に施された見事な細工。ブライアン様は相当前から頼んでいたのだろう。
「嬉しい、2人の瞳に似た石が付いてるわ。お忙しかったのに、こんな素敵な指輪をいつの間に頼まれていたのかしら」
「ここでアリアナと会って直ぐに。あの日、私にはアリアナしかいないと、もう逃す気はなかったから」
喜びの感情が溢れ、涙が、次から次へと落ちてくる。
……お母さん、嘘つきって言ってごめんなさい。
優しくした分がちゃんと返ってきて、私の指で輝く指輪が変わったもの。
目の前で頬笑む彼の愛が、嬉しくてたまらない。
だって、彼との未来は、絶対に幸せだと、既に決まっているから。
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最後までお付き合いいただいた感謝を込めて、完結。





