突然の婚約破棄。隠れキャラルートの出現
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「アリアナ侯爵令嬢。君との婚約を破棄する。金輪際、僕とシャロンに関らないでくれ」
私が「ルーカス様」とお呼びし、婚約した8年前から今に至るまで、ずっと変わらず敬愛し続けている婚約者。
侯爵家の嫡男、ルーカス・ゲルマンが突然そう切り出した。
私は婚約者から、これまで見たこともない凍てついた眼差しを向けられている。
私にとっては、まさに青天の霹靂。
何のことやら、状況が全く理解できないのだから。
取りあえず、やれる事と言えば、それまで彼に送っていた笑顔。
それを、たちどころに消すくらいだろう。
私たちがいるのは、王城の夜会。彼は私をエスコートするパートナーだ。
この直前まで、互いに微笑みを送り合い、優雅にダンスを踊った。
何らいつもと変わらないルーカス様の雰囲気。直前の彼に、少しもそんな素振りはなかったのだ。
たった今、私はルーカス様に促されるまま、会場内にある階段を登り切った。
……そこへ、まるで待ち合わせのように居合わせたのが、私の幼馴染かつ親友。シャロン・ハエック男爵令嬢だ。
シャロンはいつも、無難なデザインの青か緑のドレス。その2着を着回していた。
だが、そんな彼女が今日に限っては、私が初めて見る豪奢なピンクのドレスを着ている。
そのかわいらしい色合いが、シャロンの愛くるしさを更に引き立て、いつも以上に庇護を求める存在に見える。
彼女が、これ見よがしに着けている大きなアクアマリンのネックレス。
その色合いはまるで、私の婚約者、ルーカス様の瞳と同じだ。
ふたりを交互に見て、……私は、そういうことかと理解した。
血の気が失せた私の横から、ルーカス様は迷うことなくシャロンの横に立つ。
するとシャロンが、さも当然のように彼の腕に、自分の腕を回した。
……シャロンのドレスも、見たことのないネックレスも、ルーカス様が彼女に贈ったのだろう。
建国祝いの夜会では、婚約者からドレスを贈られるのが慣例。
それが私に届かないのは、倹約家のルーカス様らしいと思っていた。
……だって、今までルーカス様が私に贈ってくれたのは、私の誕生日に花束だけ。
3年前、ドレスのことを聞いた私に、「いっときを着飾るものより、領民たちのためにお金を使いたい」そう言ったルーカス様。その言葉に私は、心打たれたのだから。
10歳の私は、ルーカス様と婚約を結んだことが嬉しくて、誇らし気に親友のシャロンに話していた。
当時の子どものような恋も、今ではすっかり深い愛情に変わり、彼を大切にしたいと願い続け、尽くしてきた。
急に婚約を解消されても、……私はまだ、お慕いしていたルーカス様に向ける気持ちを失うわけがない。
「どっ、どうして……。そんな……突然」
「お前の傍若無人な態度に、うんざりだ。また、シャロンを虐めていたのだろう」
「虐めて……、なんていないわ」
「嘘を吐くな。シャロンのことを、また、平然と突き飛ばしていただろう。僕が何度注意しても止めないその行動。お前への気持ちは、もう何年も昔に冷めていた。いい加減気付いたらどうだ」
「だから、それは2人を守るためなの、何度言ったら分かってくれるのよ」
「お前の戯言にはついていけない。2度と、その適当な言動を僕たちに聞かせるな」
「うふふっ。ルーカスは明日、あたしと海に行くのよ。ね~、ルーカス」
――ジッジジ――。ジッジジジジ――。
その瞬間、私の中に映像が飛び込んできた。
……またこれだ。
ルーカス様とシャロンが向かうのは、古城を見渡せると有名な海岸。その帰り道、……盗賊に襲われる。
シャロンを必死に守った彼が、大怪我をする生々しい鮮明な映像。
ルーカス様の苦痛に満ちた表情が、あまりにもリアリティがある。そのせいで、映像を見る私の背筋が、ゾクリと冷えた。
「海には、絶対に行ってはいけないわ。止めて、お願い、考え直して」
「もう、お前から何も言われる筋合いはない。この夜会に来る前、バーンズ侯爵の当主へ、お前との婚約破棄の申し出を済ませた。僕たちの関係は、既に終わったんだ! 僕はシャロンと婚約した。君の性悪な行いに、これ以上耐えられない、2度と僕たちにまとわりつくな! とんだ嘘つきめ」
――え……。何故、信じてくれないの……。
――ジッジジ――。ジッジジジジ――。
疑問を問いただそうと思った瞬間。まただ……。
今度は違う映像が流れてくる。
ルーカス様が王城内の階段を、大きな音と共に真っ逆さまに転げ落ちる映像。
それは、いつの話だ? そんなことを考える余地もない。
間違いなく、この直後に起きる出来事だ。
今、私たち3人は、フロアが分かれている王城の大ホールの上階、階段付近にいるのだから。
私が傍にいる限り、そんなことは起こさせないと心に誓う。
固唾をのんで、注意深くルーカス様を見守ると、……それは、思いのほか直ぐに起きた。
ルーカス様の足が、1歩後退した。
……危ないっ! そう思った私は、あなたを階段から落とすまいと、必死に彼の腕をぐいっと引っ張った。
今までも、こんな映像が頭を過り、ルーカス様とシャロンに危機が迫ったときは、必ずそうしてきた。
でも今回ばかりは、警告直後の出来事。脳内で解決イメージが十分に出来ていない段階だ。
まずいな……。
どうやら、私自身まで守れそうにない。
勢い余った私の体は、体勢を戻せないまま、床の縁を踏んでしまった。
……その瞬間、ガクンと私の体が傾く。
「良かった、ルーカス様が落ちなくて……」
そう言って、彼に笑顔を向けた直後。
私は、夜会の会場中にドドドッと響く大きな音を立てながら、階段の下まで速度を増しながら、落ちていった。
階段から落ちる直前。
ルーカス様は、目を丸くして驚いた顔を見せた。
これまでも、私は2人に嘘は言っていない。
けれど、……結局、信じてもらえないまま、愛していたルーカス様に婚約破棄を告げられた。
元婚約者と親友のことを考えながら私は転げ落ち、最後にドンッと、一際大きな音が鳴った。
頭を強く打った私の記憶は、そこで途切れた――……。
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