悪夢のような現実
絶対に連載が続くことはないだろう・・・
さあ、まずは自己紹介から始めよう。
俺の名前は・・・って個人情報はダメだな。
それじゃああんまり自己紹介にもならないかもだが、やっぱり形式的にもあったほうがいいよな。
俺はその辺にいる男子高校生。趣味は映画鑑賞。特にヒーローものが大好きで、主人公がバシバシと敵を倒してく姿には憧れるよな~。
頭はそんなにいいわけじゃないけど悪いわけじゃない。
スポーツはそれなりにできるくらいな本当にどこにでもいる高校生だ。
「さて、それじゃ学校に行きますか」
俺は靴を履き、自転車のカギをとり玄関を開けた・・・。
広がる青い空。澄んだ春の空気。ひらひらと舞う桜の花びら。
そんないつもの光景が目に入ってくる。
ことはなかった。
「え?」
現実は、多くの家から立ち上る黒煙。いたるところに火の手が回っている真っ赤な世界。そして、徘徊する肌の変色した人たち。
「・・・ゾンビ?」
これは現実か?
頬をつねってみるが、夢が覚めるわけではなく帰ってくるのはこれが現実であると示す痛み。
「・・・これは、まずいぞ」
両親はすでに出勤していて姉はすでに家を出て登校している。
俺はまず、近くに住んでいる祖父母にあわなければと考え、自転車に乗った。
「頼む、全員無事でいてくれ」
俺がこの夢としか思えない現実を認めているのは、映画のヒーローにあこがれているからだろうか。
そう考えながらペダルを踏んだ。
「そうだ!警察」
「警察に電話しないと」
片手で自転車を運転しながらもう一方の手でスマホを手に取り110番を入れ込んだ。
プルルルルルル
電話のかかる音を聞きながら、警察に通報する人が危険運転してるなんて、と思いつつ早く出てくれと祈った。
プルルルルルル
あまりにも遅い、そう思いスマホを見ると圏外になっていた。
「クソッ、電波が」
通報できないのは困るが、今はそれよりも祖父母の安否確認が優先だ。
スマホをバックパックに戻し、自転車のスピードを上げた。
この角を曲がったら見える。もうすぐだ。
「頼むなんともないでくれ!」
祖父母の家にはまだ火の手が回っていないようだ。
俺は鍵をかけるのを忘れるほど乱暴に自転車を止め、インターホンを力強く押した。
ピンポーン
しかし、祖父母は出てこない。
埒が明かないのでドアをたたこうかと、玄関に近づいた瞬間、異変に気づいた。
窓ガラスが割れている。
俺はすぐさまその窓に駆け寄り、靴も脱がずに家の中に入った。
「じいちゃん!ばあちゃん!返事してくれ!」
・・・どこからも声が聞こえてこない。
俺はリビングから寝室へ移動している最中に、変な音を聞き取った。
くちゃ、くちゃ
咀嚼音のようなその音のするほうへ歩みを進めると、人影が見えた。
「じいちゃん!そこにいたんだ!今何してるんだい?外が今大変なんだ、だから僕と一緒にきてよ」
クチャ、クチャ
「・・お、じいちゃん?」
祖父がこちらへ振り向いた。
「ウウウゥゥウゥ」
唸り声をあげている祖父は、口が血で汚れていて肌も変色していた。
そして祖父の下で食べられていたのは、すでに肌が変色し始めている祖母だった。
「・・・おい、じいちゃん、うそ・・だろ・・・?」
「ウアアアアァアァアアア」
そこにはもう、俺の知っている祖父はいなかった。
いるのは、襲い掛かってくる二体のゾンビだった。
「うわああああぁあぁ」
俺は恐怖でおかしくなりそうだったが、すくむ足を奮い立たせて一目散に逃げた。
入ってくるのと同じ経路を最短距離でたどり、割れた窓ガラスから出て自転車にまたがった。
鍵をかけてなかったおかげで素早く乗ることができたので、数分前の自分に感謝した。
全力で自転車をこぎ、目に映る記憶と現実とはかけ離れた光景を見て、涙が出てきた。
それでも必死で自転車をこぎ一心不乱にこの町から出ることだけを考えた。
二分ほど自転車をこぎ少し疲れてきたところで、
ゴンッ
「うわぁ!」
大きな音を立てて俺は自転車から転げ落ちた。
しかし、目の前を見ても障害物は見当たらなかった。
再び自転車に乗り進もうと試みてもまるで、見えない壁でもあるかのように進むことはできなかった。
「一体、なんなんだよぉもぉおお」
「もしこれが映画ならヒーローが助けに来てくれたっていいじゃないか!」
「どうして逃げることすら許されないんだよぉ!」
「もしヒーローがいるなら、今たすけてくれよぉ!」
俺はみっともなく大声で泣き叫んだ。
音でゾンビのような、あいつらが近づいてくることなんて少しも考えずに、ただこの非常な現実に対して無力な俺は泣き叫んだ。
「ッハハ、君面白いねぇ」
気づけばそこに真っ黒な鎧のようなものを来た男が立っていた。
・・いや、男と同じ鎧を着た人たちが軍隊のように統率の取れた動きでそこにはいた。
「ここにはヒーローはこないけど、俺たちでいいなら、君を助けよう」
男は、俺にとってヒーローのようなその人は手を差し伸べながらそう言った。
そのあとは意外とあっさりと片が付いた。
SF映画に出てくるような見たことのない重火器でゾンビを圧倒していった。
俺は丸裸にされ、肌に変色がないことを確認されると生存者としてかくまわれた。
かくまって護衛をしてくれた軍隊のような人たちにゾンビのことを聞くと
「あぁ、あいつらはゾンビって認識でいいよ。間違ってない」
と答えてくれた。
そのあと俺は思い出したかのように
「あのっ、ゾンビの中に俺の祖父母がいるのですが助けていただけますか」
こう尋ねると、悲しそうな顔をして
「すまないが、一度ゾンビになったものは今のところは元に戻ることはないんだ」
「あのままゾンビとしてこの町を徘徊させないためにも残念だけど殺さないといけない」
「そう・・ですか」
「君はつらかっただろう、この後は俺たちに任せてもう寝ていなさい」
そういうと彼は麻酔のようなものを僕に打ち込んだ。
俺はこの現実から逃れたい一心でそのまま目を閉じて眠った。