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異次元パッカー  作者: 東雲ののし
3/8

3.始まりの前の刻

「那由多、じゃあ直樹の事よろしくね」

「あぁ、気をつけていってらっしゃい」


俺は、玄関でそんな挨拶を交わしつつ、お見送りをしている。


「直樹、ちゃんとお兄ちゃんの言う事聞くんだよ」

「うん」

「ゲームばっかりしないで、ちゃんと勉強もするんだぞー」

「うん、多分する」

「今度テストで0点とったらゲーム没収ね!」

「わかった、0点"は"もうとらない!」

「30点"は"がんばれ!」

「30点"を"頑張る!」

「とりあえず元気でね、ご飯ちゃんと食べてお兄ちゃんの言うことも、ちゃんと聞くんだよ」

「うん、母さんもご飯ちゃんと食べて元気でね」


いや、そこ30点でいいんかい。

昔はテストの点数も良かったのに。

0点を取った日を境に、そこからテストの点数が悪くなった。

実際のところ、姉もテストの点数なんか気にしていない。

仲の良さを見せつけられただけだ。


「じゃあ行ってくるね」

「「行ってらっしゃい」」


部屋の外へ出て、姉が見えなくなるまで、手を振り続けた。

それにこたえるように、姉も手を振り続けながらエレベーターが閉まり見えなくなった。

凄絶なる別れを交わした俺たちは、部屋の中へ戻った。


大袈裟に別れを表現してみたが、姉が仕事で、ひと月ほど出張に行くだけである。

姉の一人息子である、直樹を、最強職についた俺が、責任を持って預かるというお仕事だ。

最強職と言うのは、言わずもがな無職である。

そう、こういう物語の主人公、定番の最強職だ。

だがしかし、仕事を与えられてしまったため、無職ではない。

もし街で逆ナンでもされて「お仕事は何をされてるんですか?」なんて、質問があった時には「ええ、教育系の仕事をちょっとだけ、かじっております」なんて返答ができてしまう。

最強職では、なくなってしまったが、最強職の唯一の弱点属性である【風属性】に対して、これで抵抗を持つことができた。

ふふふ、今の俺は、風当たりにも強い最強職の上位に位置するかもしれない。


そんな、厨二病満載な妄想をしている俺をさて置き、直樹は座布団の上で胡座をかき、右手にコントローラー、左手に【世界の神々】と書かれた本を持ち、画面と本を交互に睨めっこしている。

これは、間違いなく俺の甥だ。


「そんな本読みながらやるのが楽しいのか?」

「実在するモデルから得られるヒントもあるんだよ」


直樹がやっているゲームは有名な【レジェンド・オブ・ファンタジア】というゲームだ。

あらゆる謎が散りばめられ、初見では取りこぼし不可避なアイテムや、武器、召喚獣が必ずあるという。

そして、このゲーム最大の謎は、脚本から監督までを務めた人物が、ゲーム完成とともに謎の死を遂げてしまい、もはや本当に伝説となっている。

ゲームの完成試写会の打ち合わせ日に現れず、連絡もつかないため、不審に思った担当マネージャーが自宅へ駆けつけたところ遺体として発見された。

遺体にはなんの外傷もなく、ベッドで寝ているのかと思い、起こそうとして体に触れた瞬間、自分の体温との違いに気づき、やっと異変に気づいたらしい。


「綺麗に魂だけ抜けたようだった」と担当マネージャーが泣きながら会見していたのが記憶にも新しい。

この事件が起きたのは1年ほど前で、最近行われた一周忌後の会見による発言である。


その会見の言葉に因んで、ネット上では、作中の最終章【反魂事変】で、ラスボスが主人公の仲間五人の魂を抜き取り、反魂させ操られたことから「反魂事変だ!」などと騒がれている。


反魂とは違う気がするが、ネット民はお祭り騒ぎがしたいだけなのだろう。


さて、話はちょっと戻るが、部屋を出てエレベーターがあると言うことに「さては金持ち?」と、お思いでは無いだろうか。


実はここ地上41階建てのタワマンなのだ。

他の物語の主人公であれば、テッペンに住んでいるのだろう。


ふふふ、だが俺は違う、32階だ!

しかも賃貸だ!


ニートでこんなとこ賃貸でも住めないが、俺には現在不労所得がある。


18歳の時から社会人を始め、限りなく、いや、べらぼうに漆黒な不動産系会社で、去年まで死に物狂いで、社畜をしていた。


堅実に、地道に、最強職への道を歩いてきたのだ。

現在ではマンションを4棟持ち、好きなだけ寝てても生活ができるのだ。

もう二度とあんな仕事はしたくないが、思い出しただけでも溜飲が上がってくる。


「直樹、今日、二駅先の、お祭りで、フリーマーケットやってるんだけど、行くか?」

「行く」


秋になると、二駅先で銀杏並木の道にフリーマーケットが乱立するお祭りがある。

圧巻の景色で歩いているだけでも十分楽しめる。

お祭りは雰囲気だ、ただフラフラするだけでも楽しい。


「30分後に出るから準備しといて」

「うん、もうできてる」

「早いな、準備するから待ってて」

「うん」


実は、去年も直樹と一緒にこのお祭りへ行っている。

元々、今日このお祭りに行くとわかっていて下準備していたのだろう。

ソファの横に、リュクサックが立てかけられている。

まぁ、二駅先だから手ぶらでもいいんだけど。


俺は去年のフリーマーケットで、一目惚れして購入したバックパックへ荷造りを始めた。

このバックパック、質感や色感、サイズ感、全てが素晴らしい。

見た目は、高級感溢れる黒い皮で、バケツ上の形をしており、頭を紐でキュッと結ぶタイプだ。

だがしかし、見た目に反してとても汎用性が悪い。

重く、中に物が少ししか、入らないのだ。

だがしかし、気に入っているから使っている。


水と財布を入れ、鍵を入れたところで、もうパンパンである。

ホントなんだよこれ。形状通りであれば、あと3倍近く入ってもいいだろ。もっと収納力あってもいいだろ。

まぁ、これ以上持っていく物もないからいいけど。


準備も終わり、ひょいっとバックパックを背負う。

あぁ、重てぇ。

このサイズでなんでこんな重いんだよ。

気に入っているが、今日、お前はクビになるかも知れない、すまない。


クビにすることを考え、このバックパックを売っていた、胡散臭いオッサンを思い出す。


「おぉ、いいな、このバックパック」

「ガハハハ、兄ちゃんそのバックパックに目をつけるとはセンスがいいな」

「センスだけはいいんです」

「そのバックパックは手作りだ、丈夫だぞ」

「なんの皮で作ってるんですか?」

「ガハハハ、俺の皮だ」

「気持ち悪いんで、やめておきます」

「じ、冗談だ、サービスするからどうだ?」

「まぁ、一目惚れしちゃったんで買います」

「いい目をしてるな、まいど」

「はっ、思ったより重いな」

「兄ちゃん、似合ってるぞ」

「どうも」


今年もいるのかな、あの胡散臭いオッサン。

準備も整ったし、そろそろ出発するか。


「おっけー、行くぞ」

「うん」


家を飛び出し、電車に揺られ、ガタゴトと7分。

改札を抜けると、黄金色に靡いている銀杏並木。

並木道を歩いていると、ポツポツとフリーマーケットの露店が乱立し始める。


「いい景色だな」

「今年も綺麗だね」

「なんか欲しい物あったらプレゼントしてあげるよ」

「いいの?」

「あったら遠慮しないで言えよ」

「ありがとう」


いいお兄ちゃんだな、俺。

いや叔父さんか…

まだ叔父さんと呼ばれる覚悟はできていないが、叔父さんなんだよな。

初見で会った人の風姿判断では、「お兄さん」と、まだ、呼ばれる。

おじさんの境界線は年齢じゃない。他人にどう呼ばれるかなのだ。という事にしとこう。

まだなのか、もうなのか、わからんが、27歳だし、年齢的にもセーフだろう。

並木道を歩きながら、物思いに老けていると、まさかの逆ナンをされてしまった。


「お兄さん、そのバックパック格好いいですね」


まじか、俺にもとうとう春が来たか、秋だけど。

バックパックっていう部分は建前であり、本来付けたくなかった、照れ隠しの部分なんだろう。

その証拠に、あんなに眩しい笑顔で、俺の事見てくるし。


背景の銀杏並木に同化するほど、黄金色に輝く艶やかな頭髪に、負けじと黄金色に輝く瞳。その端麗な顔立ちをした美女に、俺は今、逆ナンをされている。


「ですよね。重くて、収納力なくて、汎用性悪いけど気に入ってます」


だが俺は紳士だ。

その言葉通りの返答を行うのが礼儀である。

いやぁ、とうとう来たか。

この国では、時代が俺に追いついてなかったんだろう。

その証拠に、国境を超えて来ちゃったよ。

しかも、絶世が付くほどの美女に。


「そのバックパックにこのチャーム付けませんか?絶対に似合いますよ」


まーた。


素直に俺に付けて欲しいって言えばいいのに。

まぁ、もう買うのは確定してる。

ただこの一時を、大事にしたいのさ。


「へぇ、綺麗な玉ですね」


ふふふ、お分かりだろう。

玉は俺の照れ隠し。

君がやった事を俺もやる。

知ってるかい?

ミラーリング効果って言うんだぜ?


「弟さんとお揃いでどうでしょう、一つ千円のところ、二つで千円に、サービスしますよ」


そう来たか。

さすが、俺の時代へ到達した、お方だ。

まさかもう、行く末の義兄弟へ、親睦を深めにきたか。

俺が追いつけるか、不安になってきたぜ。


「直樹、どうする?このチャームお揃いでつけるか?記念にプレゼントするぞ」

「ほんと!?これ欲しい!付けたい!」


良かった。弟(甥っ子)の反応も好感触のようだ。

親族関係も問題無さそうでなによりだ。


「じゃあ記念にお揃いで付けようかな、きんた…金色のやつと、銀色のやつください」


危ねェー!

気持ちが先走っちまった。

あれ程略すな、と念押ししただろう。


「ありがとうございます。でも、同じ色にした方がお揃いでよくないですか?」


わかるよ。

弟にも、君と同じ色を付けて欲しいんだろう。

しょうがないやつだ。

ここは一つ、ストレートに言ってやろう。


「その色だけがいいんですよ」


決まったな。

君の瞳に乾杯。

俺は今、満塁ホームランで手を振りながらベースを周回中さ。


「同じ色の方が絶対いいですよ。同じ色の方が、きっと、より絆が強くなるんですよ!」


決めに行きすぎたか。

若干、取り乱しているようだ。

それほど、お揃いの色を付けて欲しいなら直樹に交渉だな。


「直樹、金色のお揃いの玉付けよう。絆が強くなるみたいだぞ」

「えー、やだ。銀がいい。兄ちゃんが銀に揃えればいいよ」


交渉決裂だ。


選択肢が10通りあるが、一つの選択しかない時があるのさ。

直樹もあと10年も経てば、その正解が導き出せるさ。


「すみませんね、お互いに譲れないみたいなので」


だが、これで俺の揺るがない意志が伝わったはずだ。

君の瞳には、一本の芯が通った男が映っているだろう。


「そうですか…わかりました」


君の弱い部分は俺だけに見せな。

なんか、しんみりしてるし、話題変えるか。


「お姉さん、外国人ですか?この玉のように綺麗な金髪してますね」


俺は、君の事をよく知らないんだ。

君の事、教えてくれるかい。


「ええ、一応外国人になるんですかね」


一応ってのは何だ?

在日的な感じ?

確かに、流暢な日本語喋ってるよな。

愛に言葉の壁は関係ないから、気にならなかったな。


「お名前なんて聞いてみたりしてもいいですか?」


純粋に気になってきた。

どっちよりの名前なんだろう。


「ええと…ルカです」


こっちよりか。

ちょっとタメを入れたのは、より記憶に残るようにしたんだろう。


「和のテイストを垣間見る、いいお名前ですね。私は教育系の仕事を少々かじってるんですよ」


聞かれてないが、もう自分から言っちゃう。

ガンガンいこうぜ。


「それは素晴らしいお仕事をなされてますね。ではお二つどうぞ」


そうだろう。

やはり、最強職の上位に位置するのが、今の俺だ。


「サービスまでしてもらっちゃって、ありがとうございます」


サービスは二人だけの秘密だろ?

言わないでくれ、わかっている。


「よろしくお願いします」


急激な展開に鼓動がでかくなる。

それは俺から言う台詞だろう?

完全に、やられちまったぜ。


満面の笑みを作り、両手にチャームを持ち、直樹と俺へ差し出される。


改めて、同じ言葉を返そうと、チャームを手に持った瞬間、目が眩むほどの、眩い閃光がチャームから迸った。


それと同時に、俺は意識を失った。

長所と短所に同じ事書く人いますよね。この主人公は両方にポジティブっていうワードが入りそう。

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