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燎原の森エルフ ~外れスキルをレベル999に育てて調子に乗ってるやつらがむかつくので、当たりスキル【火魔法】をレベル999に育てて焼き尽くす~  作者: 住之江京
第八章:【魔王】のドルガンドス

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8-2. 茶飲み話をするエリー

「べーっすわ。王族全滅っぽいっすわ」


 エリーがパースリー子爵邸でローズマリーとお茶を楽しんでいる所へ、子爵家の密偵がそんな報告にやってきた。


「どういうこと?」

「や、あれっす。【魔王】とかいう角生えたおっさんが、魔物連れて王都ボコして、王宮グチャして、直系王族皆殺しっす。ちゃべぇー怖ぇー」

「【魔王】ですって!?」


 横で聞きながら、何だか物騒な話だな、とエリーは思う。

 エリーの地元でも王宮倒壊&王族皆殺し事件は起きたことがあるが、ヒューム国家はエルフの里とは規模が違う。ヒュームは繁殖力も強いし、王族も大勢いただろうに、それが皆殺しとは。


「また何かわかれば報告を」

「おっつ、失礼しゃーしたー」


 密偵はその場でジャンプして天井の隠し扉から退出した。

 すごいジャンプ力だな、とエリーは思う。


「王族が全滅すると、ヒュームの国ではどうなるの?

 エルフの里だと適当なハイエルフが、適当に新しい王様になるんだけど」

「他国は知らないけど、うちの国も似たようなものよ。

 フルリニーア王国法では直系王族が全滅した場合、王家の血を引く家の嫡子以外の子の中から、王国貴族家当主らによる選挙を以て新しい王を選ぶ、と定められているわ」

「ロゼちーは王様になれる?」

「一応、パースリー家の3代前にも、3代前に王族の血が入った侯爵家の血が、2代前に入った伯爵家の血が入っているから、薄い(うっす)ーい血は流れてるわ。法的には絶対に不可能とは言えないわね」

「なるの?」

「うちより上位の貴族が全滅したらね」


 ローズマリーは鼻を鳴らしてお茶請けの菓子を口に運ぶ。

 王家が滅んだと聞いても大して慌てることのないローズマリーは、王位にも興味がないらしい。

 それより彼女が気になっているのは、【魔王】の話だ。


「【魔王】……ついに動き出したというわけね」

「【魔王】ね。私もたぶん間接的に迷惑かけられてるんだよね」


 かつて会った【催眠】のアートというテロリストが語ったことには、【魔王】なる者が外れスキルの持ち主をスカウトして、“先生”なる者に預ける役割を担っているらしい。

 “先生”がレベル999に育て上げた外れスキル保有者は、野に放たれると、大体が盗賊かテロリストになる。

 たまたまエリーが遭遇した者にはその場で対処しているが、面倒だし危険だし、更には『外れスキル狩り』などという不名誉な二つ名を付けられてしまった。


 なお、ローズマリーはかつて別の未来で【魔王】に街を焼かれた記憶があるので、「【魔王】ね。なんか邪魔くさいよね」程度の印象しか持たないエリーより、遥かに恨みが深く、警戒心も強い。


「あの未来とは少し時期がズレるけど、この街に攻めてくる可能性が高いわね」

「戦争になるの?」


 エリーは尋ねた。


「戦争なんて起きないわよ。起きるのはテロと鎮圧」


 ローズマリーはそう答えた。


「相手が国家として成立していないので、これは戦争とは言えないわ。

 国民、領土、政府、外交能力。それが揃わないと国とは呼ばない。

 国民と領土はあるのかもしれないけど、政府は怪しいところね。

 戦争を外交手段の1つとしたって、何の勧告もなく侵略してくるのは外交にならないでしょ」


 エリーには政治がわからないので、「へー。そんな感じなんだ」とだけ返した。

 ローズマリーは「そんな感じなのよ」と軽く頷いて、続ける。


「例えばの話、【魔王】が死ぬだけで崩れたり、トップが変われば条約も貸し借りも全部リセットされるような集団は、国とは言わないのよ。実際はどうだか知らないけど、今ある情報の限りじゃ、単なる無法者の集団ね。

 国の要件を満たしてないんだから、“魔王”じゃなくて、せいぜい魔盗賊団の魔親分ってとこじゃない? 盗賊団と戦争する国なんか何処にも無いわ」


 エルフの里は村程度の大きさでも王国を名乗り、里長は王を名乗ることが多いが、一応制度として政府は存在する。

 里同士や、か細いながらも異種族国家との外交は存在するし、国家間条約も律儀に守る。何千年も前の条約を律儀に守って、滅んだ国の跡地にできた新興国の異種族に攻め込まれ、後手に回って里が滅ぼされることも間々ある。

 勿論、一般エルフであるエリーは、自分の里がどんな政治形態で、どんな外交をおこなっていたか等、詳しい話は知らないが。


 何はともあれ、友人が随分と苛立っているのはわかる。


「とりあえず、何か来たら返り討ちにするよ」


 エリーは軽い調子でそう提案した。

 友人のためということもあるし、愛着の湧いて来た街を守る意思もある。

 何より、どうせ嫌でも自分が遭遇するんだろうな、という気もしていたのだ。

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