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燎原の森エルフ ~外れスキルをレベル999に育てて調子に乗ってるやつらがむかつくので、当たりスキル【火魔法】をレベル999に育てて焼き尽くす~  作者: 住之江京
第五章:【生活魔法】のエドワルド

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5-6. 【生活魔法】のエドワルド

 エドワルドは、かつて地元の同年代と共謀して強盗行為を繰り返し、逮捕後に犯罪奴隷に落とされた元奴隷だった。


 成人の儀式で授かったスキル【生活魔法】。

 その基本効果は「地水火風を始めとした各種属性の魔法を、日常生活用途の範囲で操る」という物。


 調理や灯火としての火、飲用や洗浄用としての水。

 術者の日常生活用途の範疇であれば万能だが、つまり日常生活の中で当たり前に出来ていることを、わざわざ魔力を使って再現するだけのスキルとも言える。

 何の役にも立たない外れスキルだとされた。


 実家の商店は上の兄弟が継ぐため、外れスキル扱いのエドワルドには特別な教育も施されず、何の期待も持たれなかった。

 エドワルドは似たような立場にあった同年代の少年少女と徒党を組んで遊び回り、いつしか遊ぶ金欲しさに窃盗に手を染め、空き巣や強盗を繰り返すようになる。

 何かと小細工の上手いエドワルドは仲間内でも重宝され、グループのリーダー格となった。分厚い金庫も【生活魔法】で鍵を生成すれば短時間で突破できる。十分な成果品を得た後は、家主を遊び半分で水責めにしたり、景気づけと称して魔法で放火したり。

 そんな日々を続けている内、それが彼の日常生活(・・・・)だと精霊に認識されたのか、【生活魔法】の効果範囲も犯罪寄りに広がっていく。


 最終的には官憲に捕まり、グループ全員が犯罪奴隷に落とされた。


 全ては成人の儀式のあの日、外れスキルを授かったせいだ――とエドワルド自身は思っている。


 奴隷商人の馬車が横転した隙に、同じ境遇の3人と逃げ出したエドワルドは、しばらく不遇な暮らしを送っていたが――何の因果か、突然そのスキルが覚醒(・・)する。


 いつの間にかレベル999になっていたエドワルドは、外れスキル四天王として、世界への復讐を決めた。





「相手は【火魔法】の、しかもエルフだぞ。どう考えても、1対1で勝てるわけないだろ……っと、いてて……」


 悪態をついた拍子に傷が痛む。

 四天王会議で3人に痛めつけられた傷だ。


 痛みや苦しみが常態化すると、それも日常生活の一部と見做される。そこで【生活魔法】スキル内の感覚操作系魔法を応用すれば、他人に同じ痛みを与えることができる。

 状態維持の魔法≪ミニマムスタンダード≫により死ぬことはないし、敢えてされるがままになっていたが、もう十分だろう。

 これまではエドワルド自身が日常的に抱いている憎悪の感情を、感情操作系魔法で四天王メンバーに与えて暴行を煽っていたが、それも今日で最後だ。死なないと言っても、痛い物は痛い。


 後は定期的に他人にこの痛みを与えていれば、それが新しい日常(・・)になる。

 そうして少しずつ日常を変質させ、肥大化させ、日常生活の範囲が十分に広がった所で、行動を起こす。


 そんな風に、今後の計画を練っていたところ。


「よーし、次はこっちの方に行ってみようか」

「キュー!」


 エドワルドは、四つ足のドワーフに跨ってフラフラしている能天気なエルフを発見した。


「……何だあの化け物は?」


 ドワーフの異常性を除けば牧歌的とも言える光景。

 それを見ながら、エドワルドは背筋に冷たい物が走る感覚を覚えた。


「俺の日常生活(・・・・)の範囲を、遥かに凌駕してやがる」


 ドワーフの方はともかく、エルフはスキルの対象に取ることができない。

 つまり、あのエルフはエドワルドの日常生活(・・・・)では考えられない、並外れた力を持つ存在ということになる。

 「自身がレベル999であり、またレベル999の3人とほぼ毎日行動を共にするエドワルド」から見て、だ。


「間違いなく、あれが噂の『外れスキル狩り』だろうな」


 ソロと聞いてはいたが、ここは街中。配達者の仕事もオフのはず。

 ソロ配達者といっても、何も休日まで常に単独行動しているわけではなかろう。


 勝てない相手に殺し合いを仕掛けるメリットが浮かばない。

 危険な『外れスキル狩り』を狩ることで、今の生活が守れる。そう言われても、返り討ちに合えば何にせよお(しま)いだ。


「あ、露店で梨売ってるよ。イタチって梨食べるっけ?」

「キュー?」

「いや、ヒタチマルの種族自認がイタチじゃないのは知ってるけどさ」

「キュイッキュー!」

「全然わかんないけど、普段のご飯は何でも食べるから大丈夫かな」


 ドワーフの様子は明らかに異常だが、エルフは非常に楽しそうに見える。

 当たりスキルのお陰で、伸び伸びと、歪むことなく育ったお陰かもしれないが。


 何とは無しに、目が惹かれる。


 足も惹かれて、歩み寄る。


「おい、そこのエルフ」


 口も惹かれたのか、つい、声を掛けてしまった。


 声をかけた後、エドワルドは何を言えば良いのか困った。

 特に用事もないし、安全を第一に考えるなら、今すぐ逃げ出した方が良い相手なのだ。


 エルフとドワーフは、エドワルドをじっと見つめている。


 何か言った方が良いのだろう、しかし何を言うべきか。

 お前は『外れスキル狩り』か、とでも聞けば、こちらの素性を怪しまれる。そして外れスキルとバレた時点で狩られる(・・・・)。他の選択肢を考えねばならない。

 普段の生活には起こり得ない状況に、エドワルドは妙に動きの鈍い頭を必死で回そうとした。


 そんなエドワルドを見かねてか、エルフが口を開いた。


「迷子ですか? ナンパですか?」


 2択の選択肢だ。

 エドワルドは2つの選択肢について、可能な限り早急な精査を試みた。


「あっ、と、迷子じゃなくて」


 思考から零れた声に「ナンパでもなくて」と続ける前に。


「うーん……ナンパなら、あっちに出逢い酒場がありますよ」


 エルフは繁華街の方向を指差しそう告げる。

 思わず、妙な笑いが漏れた。


「何ですか、その笑い方は」


 エルフは不機嫌そうに眉を寄せると、跨るドワーフを駆って、振り向きもせずに立ち去った。

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