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燎原の森エルフ ~外れスキルをレベル999に育てて調子に乗ってるやつらがむかつくので、当たりスキル【火魔法】をレベル999に育てて焼き尽くす~  作者: 住之江京
第五章:【生活魔法】のエドワルド

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5-1. 外れスキル四天王のエドワルド

本日より五章投稿開始です。

宜しくお願いいたします。

 薄暗い半地下に小さな丸テーブルが置かれた狭い一室を、4人は「円卓の間」と呼んでいた。


 筋骨隆々、白兎を禿頭(とくとう)に乗せたヒュームの中年男性、カルロス。

 波打つ髪も肌も服も眼鏡の縁も茶系色の、ヒュームの女性、ツグミ。

 着流し姿で大きな耳を垂らした、老齢の犬耳獣人男性、テッサイ。

 全身生傷だらけながら、清潔な身形(みなり)のヒューム男性、エドワルド。


 円卓を囲む4人には、一見して共通点が見当たらない。

 しかし、彼らは2つの同じ事情を抱えた集団だった。

 1つは、全員が元奴隷であること。

 もう1つは、彼らが皆、外れ(・・)スキル(・・・)の持ち主であること。



 外れスキル四天王。それが彼ら4人の自称する名だった。



「今日、お前らに集まって貰ったのは他でもねえ。

 例の噂(・・・)についての話だ」


 【心変わり】のカルロスが口火を切ると、残りの面々も興味深げに視線を集中した。

 【口下手】のツグミが軽く手を挙げて相槌を打つ。


「あっ、そういえば私も4日前に新しい靴を買いに、領都の南地区の喫茶店の向かいの路地に入って、2本目の交差点を右にしばらく進んで、左手に古本屋がある場所から少し戻った所にある靴屋さん、靴屋さんって言っても鞄も売ってるし、鍵屋さんも同じ建物にあるんだけど、私は靴屋さんにしか行かないから靴屋さんって呼んでるんだけどね、その靴屋さんに行こうと思って家を出たら、その日は午前中からずっと雨が降ってて、もう止んだかなと思ってたんだけど、私が家を出ようとした時にちょうどまた振り出してね、本当にね、一度は止んでたから私は悪くないと思うんだけど、また振って来たから、それでやっぱり出掛けるのはやめて、家にいたんだけど、靴は明日買おうかなって思って、家の掃除とか夕飯の準備とかして、あ、あと洗濯もしたかったんだけど、雨が降ってたでしょ? だからどうしようって思ってたらモナさんが、ツグミちゃんいるー? って家に来て、あ、家にって言っても家の中じゃなくて、家の前から声を掛けて来たんだけど、大きな声なら部屋にいても聞こえるんだけど、寝室だと聞こえないけど、台所は聞こえるんだけど、その時は台所にいて、それで聞こえたから玄関まで出て行って、モナさんと雨が大変だねーって話をして、あとその噂を聞いたんだけど、あ、例の噂(・・・)ってそれと同じ噂かな? モナさんが言ってたのは何だっけ、何とかの何とかが出たから気を付けなさい、みたいな? 違うかも? あ、モナさんって言うのはね、隣の家の人で、月に2回か3回くらい煮物とか分けてくれて、私の話も全部聞いてくれるいい人だよ」


 残りの3人はしばらく聞いた言葉を心中で咀嚼し、


「何を申しておるのか判らぬ」


 と【行者ニンニク】のテッサイが真っ先に匙を投げ、片手に生み出したギョウジャニンニクを、生のまま齧った。


 そして【生活魔法】のエドワルドが、


「≪追想≫、≪翻訳≫……要はツグミも隣人から噂を聞いたけど、カルロスの言ってる噂と同じかはわからない、って話だろ」


 と情報量ゼロの言葉を魔法で解読してみせる。


「そうそう! そう言いたかったの!」

「で、その噂ってのは、あれだろ?

 例の、『外れスキル狩り』っていう」


 ツグミの肯定を受けたエドワルドは、ゼロだった情報量に1を補足した。


 それでようやく、会議は動き始める。


「おうよ。何の目的かは知らねえが、俺達と同じ外れ(・・)スキル(・・・)持ち(・・)を狩り回ってる奴がいるらしいぜ」

「ちぃっ、また当たりスキル持ち共の横暴かッ!」

「あ! そうそう、その『外れスキル狩り』が出るから襲われないように気を付けてってモナさんも言ってたよ! それで私もそうなんですねーって言って、それじゃあ靴はいつ買いに行けばいいのかなってなって、モナさんに靴はどうしましょうって言ったら、靴って何のこと? って聞かれて、靴を買いに行こうと思ってたんですーって私が言ったら、そうなの、困ったわねってモナさんが言って、困りましたねーって言ったらカールさんが、それじゃあ俺が代わりに買ってきてあげようかって言ってくれて、」

「畜生、『外れスキル狩り』の野郎め! 俺達外れスキルに何の恨みがあるってんだ!」

「当たりスキルの連中が我等から奪うのは常のことよ……しかし! 今の我らには力がある! 誰からも奪われないための力が!」

「あ、カールさんはモナさんの旦那さんで、あ、旦那さんってお店の旦那さんのことじゃなくて、お母さんにとってのお父さんみたいな、そういう人のことで、モナさんはカールさんのことをうちの旦那がねーとかって言うから、私もカールさんのことを他の人に言う時はモナさんの旦那さんって言うんだけど、カールさんはモナさんと一緒にうちの前まで来てて、」


 動いた所で、何処かに進み始める訳でもなかったが。


「ぷぅぷぅ」


 カルロスの頭上のウサギと、エドワルドの目が合う。

 このまま黙っていても良かったが、性分でもあるのだろう。エドワルドは続けて、自分の集めた情報を付け加える。


「『外れスキル狩り』は【火魔法】スキルの女エルフ。ソロの配達者だそうだよ」

「【火魔法】だと!? やっぱり当たりスキルか! 畜生、ぶっ殺してやる!」

「いかに【火魔法】と言えど、こちらはレベル999! 圧倒的な力の差を見せつけてやるわ!」

「強い方が、絶対じゃないけど、強いよ!」


 血気に逸る3人を引き留めるべく、エドワルドは更に付け足した。


「慢心は駄目だろ。『外れスキル狩り』が狩ってるのは、どれも高レベルの外れスキルホルダーなんだってさ」

「高レベルだあ? 俺達より高レベルな訳ないだろうが!」

「そーだそーだー!」


 カルロスはエドワルドに掴みかかる勢いでそう訊いた。

 エドワルドは訊かれたことに、そのまま答えた。


「ほとんどの相手は死んでるけど、何人かは生きたまま捕縛してる。【鑑定】スキルで見たらレベル999だったらしいよ」


 それを聞いた3人は、言葉に詰まった。


 レベル999。自分達と同じ数値だ。


 裕福とは言えない家庭で育ち、スキル授与の儀式で外れスキルを与えられてからは人間関係も変わり、家庭内でさえ露骨に軽視され、それぞれの理由で一度は奴隷の身に落ちた4人。

 奴隷商人の馬車で輸送中、大事故にあった機に生き残り4人で逃亡し、それから徒党を組んで生き延びて来た。

 スキルのせいで真面(まとも)な仕事にも就けず、犯罪にまで手を染め、どうにか命を繋いできた彼らは――ある時から急に、自分達がレベル999になっていることに気付いた。



 それからの暮らしは変わった。



 この「円卓の間」で襤褸切れを敷いて寝泊まりしていた4人の弱者は、力を得た。

 当たりスキルの持ち主から奪うことで、今や、それぞれ家を借りて住むことすらできるようになった。

 必死で稼いだ僅かな小銭すら当たりスキルの破落戸(ごろつき)に奪われていた身から、逆に奪い返すだけの力を得た。

 食べ物を買い、服を買い、靴を買うことさえ出来るようになった。


 力を得たからだ。力があるからだ。

 しかし、『外れスキル狩り』はそれを上回る力を持っている可能性があるという。


「畜生! その外れスキル狩りってのは一体何がしたいんだ!?」

「折角力を得たというに、まだ我等から奪う気か!」

「そーだそーだー!」

「落ち着いてよ。あっちはソロ、こっちは4人。いくら【火魔法】が当たり魔法で強くたって、勝ち目はあるでしょ」


 エドワルドの制止に、錯乱しかけていた3人は我に返る。

 そして立ち上がり……エドワルドの周囲に集まった。


「てめえっ、エドワルド! 末席の癖に何リーダー面してやがる!」

「エドワルド君は四天王でも最弱なんだよ!」

「そもそも此奴(こやつ)が外れスキル四天王を名乗るのが気に食わぬ。全属性の便利魔法を使える【生活魔法】の、どこが外れスキルかッ!」


 そして突然、殴る蹴るの暴行を加え始めた。


「くぬっ、くぬっ! あの馬車からの誼で末席に置いてやってはおるが、本来なら真っ先に血祭りに上げておるところよ!」

「このっ、このっ! 薄汚(うすぎたね)え当たりスキルめ! これはてめえの腐った心を叩き直す愛の鞭だ!」

「えいっ、えいっ! 外れスキルってどういうスキルかっていうと、当たりじゃないスキルなんだと思うけど、私は【行者ニンニク】ってレベルが上がれば食べ物が出せちゃうから当たりスキルだと思ったけど、テッサイさんはハズレだって言うし、だから自分がハズレだって思ったらハズレなんだと思うけど、私は今まで、あ、今までって言っても本当に今じゃなくて、スキルを貰った時からレベルが999になるまで、だから少し前まで、【口下手】が当たりだと思ったことはないけど、レベル999になったら使い方が少しわかって、凄い強いなー、もしかしたら当たりなんじゃないかなーって思って、だから本当は外れスキルじゃないのかもしれないけど、エドワルド君はレベル999になっても弱くて、火も爆発とかしなくて、水も洪水とか起きなくて、私達の中で一番弱いから、あ、あと風も涼しい風が吹くくらいで、四天王でも最弱なんだよ! あと土もお皿が作れるくらいだし!」


 ツグミの長台詞が終わる頃に、エドワルドは(ようや)く理不尽な暴力から解放された。

 目が霞み、心臓が唸り、口の中が切れている。

 まあ、最近ではいつものことだ。


「……≪ミニマムスタンダード≫」


 エドワルドがぼそりと唱えた呪文が、【生活魔法】の魔法を呼び起こす。

 淡い光が浮かび、うっすらと傷が塞がり、視界が戻り、呼吸が安定する。

 エドワルドに最低限度の生活が送れる程度の健康が取り戻された。


「ほら、座れ」


 カルロスがエドワルドの椅子を引く。


「……」

「ぷぅぷぅ」


 ウサギの視線にも促され、エドワルドは椅子に腰を下ろした。

 他のメンバーも既に席についており、会議は恙無く再開される。


「『外れスキル狩り』の話だったな」

「うむ」

「モナさんは隠れといた方がいいわよって言ってたし、カールさんも隠れるならうちに来ていいぞって言ってたけど、私は2人が大変かなって思うから、別の街に行った方がいいと思うけど、私も隠れといた方がいいと思う」

「俺も最初は逃げるか隠れるかしようかと思ってたがな。

 エドワルドを殴ってたら、気が変わったぜ」


 自分を気分転換の装置にするのはやめてほしい、とエドワルドは心底思った。


「俺達四天王は、当たりスキルのエドワルドより強え」


 カルロスはエドワルドを見て鼻で笑う。

 テッサイは我が意を得たりと頷き、ツグミは首を傾げつつも適当に頷いた。


「何が『外れスキル狩り』だ……!

 こっちから見つけ出して、逆に狩ってやらあ!!」


 かくして、外れスキル四天王による『外れスキル狩り』狩りは幕を開けたのだ。

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