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燎原の森エルフ ~外れスキルをレベル999に育てて調子に乗ってるやつらがむかつくので、当たりスキル【火魔法】をレベル999に育てて焼き尽くす~  作者: 住之江京
第四章:【催眠】のアート

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4-6. クッキングヒーターになるエリー

 ソファーを任じられたエリーは、翌日には配置換えとなってしまった。

 エルフは、町長が思ったほどには肉付きが良くもなく、これならドワーフの方が安定感があるだけマシ、との判断だった。


 ソファの次はもう少し軽い物を乗せるべきだと、執務用の机を任じられた。

 特に執務があるわけではないが、町長は己の()割を熟すため、毎日机に向かって何かしらの書き物を行う。机は必須の家具なのだ。

 しかし、エルフの背中はドワーフよりも幅が狭い。面積を広げるために他のドワーフと並べようにも、高さが違うので非常に不便だ。エリーは再び配置換えとなった。


 ならば背の高さを活かそうと、次にエリーは浴室のシャワーを任じられた。

 シャワーは今まで、口にお湯を含んで噴き掛ける()と、高さを得るための土台()、2役が必要だったが、エルフの身長なら1人で対応できる。そう町長は考えたのだ。

 しかし、エリーが噴き掛けた湯が、町長の想定以上の熱湯であったため、1度使っただけで配置換えとなった。


 メイドを任された日もある。

 ドワーフサイズのメイド服は、丈はともかく幅は余裕があるので、着ること自体に問題はない。

 ただ、戸口の鴨居(かもい)に何度も頭をぶつけ、熱いお茶をぶちまける問題が多発したため、当日中に配置換えとなった。



 そんな風に毎日コロコロと配置替えを繰り返したある日のことだ。


「どうもドワーフより熱耐性があるのではと不思議に思っていましたが。そういえば、スキルが【火魔法】だと言っていましたね」

「はい」


 問われたエリーは返事をする。


「それなら焜炉(コンロ)、クッキングヒーターの()をお願いします。今までコンロは出来合いの物を使っていたのですが、【火魔法】で担えるならその方がいいですから」

「わかりました」


 コンロを置く調理台は非常に熱くなるので、特に我慢強い、屈強なドワーフが担当していた。

 家具等の()の担当者は、基本的に2交代制になっている。食事や睡眠の時間を十分に取り、体調不良時は休んでも問題ないようにとの処置だが……調理代()は3交代制だ。難燃性人種といっても、熱いものは熱い。


 両手両足を床について並んだ調理台達の背に、コンロは仰向けに寝転がる。


「最新式のコンロは火力が違うらしいワサ。どんなもんワサ?」

「とりあえず最大火力で手早く……ああ、いえ、弱火でお茶を沸かしてください」


 (すん)での所でコンロの熱耐性を思い出した町長は、火災の発生を危惧して、メイドに控えめな指示を出した。

 ここでコンロが手加減無しの最大火力を発揮していれば、ガーランド町どころか、周辺の山までが地図から消えていた所だ。


「なら弱火でいくワサ」


 メイドはコンロの(へそ)にヤカンを乗せ、点火ボタンを軽く押す。


「≪聖炎≫」


 コンロは臍から浄化の炎を発し、そのまま数分。特に問題なく茶を沸かしてみせた。


「ほー、これはなかなか使い勝手がいいワサ!」

「心なしか、普段のお茶より味が良い気がしますね」

「気のせいじゃないワサ。実際味が良くなってるワサ」


 今日のメイドは意外に料理が得意で、味の違いもわかるメイドだった。

 ひとまず問題はないと見て、町長は執務室に戻り、普段の仕事に戻る。机の上で紙に何かを書く作業だ。何をしているのか、何の意味があるのかは町長自身にもわからないが、前町長がそのようなことをしていたので、それが町長の()割なのである。


 折角コンロが新しくなったこともあり、メイドは気合を入れて、豚の角煮を作ることにした。

 下茹でや味付けなどの手順を終え、後は2時間ほど弱火で煮込むのみ。煮込みの間はしばらく放置しても良いので、メイドはその間に別の仕事を片付けることにして、調理場を後にした。



 それから1時間。


 脳からも遠い腹上での弱火とはいえ、1時間も浄化の炎に晒されれば、強固な精神汚染も解除されるものである。


「お腹の上からいい匂いがする……」


 エリーは首だけを起こし、自分の臍の上に豚肉と茹で卵が甘辛く煮込まれているのを確認した。

 何だこれ。どういう状況?


 状況はわからないが、()にも(かく)にも、いつまでも腹に角煮を乗せている訳にもいかない。

 エリーは鍋を素手で掴み、自分が横たわっていた寝台にそれを置く。


「熱っ」

「うわっ、ベッドが喋っ……うわああ! 何これ!」


 転がり落ちつつ横目に見たのは、両手両膝を床について並ぶ、屈強なドワーフ達。


「へ? ええ? あれ?

 何で私、こんな所で寝ながら豚の角煮作ってたんだっけ?」


 口に出して状況を整理しようにも、意味不明な状況が確認されただけで、余計に混乱が深まるばかり。


「というか、ここ、何処?」


 エリーは見覚えのない室内を見回す。

 四つん這いのドワーフ、中腰のドワーフ、調理器具や調味料の瓶を抱えたドワーフ、バランスの悪いポーズで立ち尽くすドワーフ。

 20人を超えるドワーフ達は、いずれも無言で固まったまま、エリーの疑問に答える者は1人もいなかった。

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