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燎原の森エルフ ~外れスキルをレベル999に育てて調子に乗ってるやつらがむかつくので、当たりスキル【火魔法】をレベル999に育てて焼き尽くす~  作者: 住之江京
第四章:【催眠】のアート

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4-5. ソファになるエリー

 パースリー市で受けた依頼のため、はるばる山奥のガーランド町まで空を飛んできた、エルフのエリー。

 まずは町の行政関係者に手紙を届ける用事があるので、それほどのんびりしている時間はないのだが。


「山奥なのに、なかなか立派な壁があるんだねぇ」


 町壁というのか、エリーの胸より少し下程までの高さと、人が歩けるほどの幅を持った石壁が、町の周囲と鉱山への道を取り囲んでいる。

 平地の大都市ならこの何倍もの高さの市壁を持つことも多いが、山奥の鉱山町で、魔物への守りとしては十分だろう。


 外門近くの壁には、1基とはいえバリスタまで設置されている。

 離れていても漂うほろ苦いコーヒーの香りが、その防衛力を誇示しているようだ。


 エルフの里では【木魔法】で強化した木の壁が里を囲っているが、材料は周囲の森に幾らでもあるし、何なら魔法で生やすのも容易い。対して、この立地に石材でこれを造るとなると……エリーには超概算の見積もりすらできないが、相当な重労働に違いない。

 この石壁は高さこそないものの、強靭な筋肉と堅い(ひげ)に覆われ、猪の突進にも耐え切れそうな風格がある。


 事前情報でこんな大規模な壁の話は聞いた覚えがないが、「木の扱いはエルフ、石の扱いはドワーフ、人の扱いはヒューム」とかいうヒュームの偏見と傲慢に満ちた(ことわざ)も、一面の真理を持つのだと言えよう。

 エリーだって木を燃やすのは得意だ。人を燃やすのも、何なら石を燃やすのも得意だが。


「何か、町全体に妙な違和感がある気もするけど」


 特に問題はないだろう、とエリーは、開いたままの外門を通って町に入った。



 最初に感じた違和感は、生活音の無さだろうか。

 エルフは耳の良い種族だが、町を歩くエリーの耳に、物音や人の声は聞こえない。

 火を使えないエルフの里でもあるまいし、煙突から炊煙の1つも上がって良い時間だが、それらしい物も見えなかった。


 まあ、大半が空き家なのだろう。

 そう考えれば、何も不自然なことはない。


 一切の疑問が解消されたので、エリーは真っ直ぐ町長の屋敷に向かった。


 初めて来た町でも迷うことなく辿り着いた屋敷で、門前の呼び鈴を鳴らす。


「カラーン! カランコローン!」


 野太い呼び鈴の音が響いて(しば)し、屋敷の玄関から1人のメイドが出て来て、門の外で待っていたエリーに手を振った。


「あ、お客様ズラ! いらっしゃいませズラー!」


 ドタドタと駆け寄ってきたメイドの案内で、エリーは屋敷の中に招かれた。


「ここで適当に待ってるズラ。今、町長を呼んでくるズラ」

「ありがとうございます」


 メイドはエリーを応接間に通し、指でソファを示すと、町長を呼ぶため小走りで出て行った。


「ふー。ギリギリ日帰りで行けるかなぁ」


 数時間の空路とは言え、エリーにしてはそれなりの長旅だ。軽く倒れ込むようにソファに腰掛ける。


「ぐえ」


 エリーが座ったソファは一瞬沈み込み、すぐに元の高さまで座面を戻した。

 高級品ゆえの弾力だろうか、とエリーは手で押してソファの柔らかさを確かめる。思ったより固かった。



 町長が来るまでには、まだ少し時間がかかりそうなので、エリーは何となく、応接間の内装を見回してみる。


 自然の風合い、歪みを残した机やローテーブルは、田舎育ちのエリーにとっても好感が持てる。

 高そうな壺、何だか判らない抽象画。

 立派に髭を茂らせた観葉植物。


 筋骨隆々の両手両膝をついて1段ずつ重なり合う本棚の前で、娯楽書の(たぐい)でもないかと探す内に。

 先程のメイドが、町長らしき人を連れて戻ってきた。


「お待たせしました。おや、エルフの方とは珍しい」


 そう言ってエリーを上から下まで眺めているのは、ヒュームの子どものように見える。

 が、どう見ても町長なので、町長なのだろう。町長だ。


「ぐえ」


 町長は乱暴にエリーの対面のソファに腰掛けると、メイドにお茶の用意を命じ、エリーに向き合う。


「まず、家族構成について聞かせてください」

「はい、父と母が実家にいます」

「実家と言うことは、同居はしていないのですね」

「はい。両親はエルフ領に住んでますので」


 手紙のやり取りは定期的にしているが、聞かれてないので答えるべきではないだろう。

 同居人と言えばジローがいるが、家族でもないので、こちらも答えるべきではないだろう。とエリーは思った。


 そこへメイドが湯気の出るヤカンと重ねた湯飲みを2つ持って戻り、乱雑にお茶を注ぐ。麦茶だ。


「お茶持ってきたズラ……あっ、テーブルに零れたズラ」

「熱っ」

「まぁほっとけば乾くズラ。あ、鍋敷き忘れたズラ……そのまま置けばいいズラ」

「あっ熱っ」


 メイドが雑に入れたお茶で、町長とエリーは口を湿らせる。


「ここにはお1人でいらっしゃったのですか?」

「はい」

「どこから?」

「領都です」

「なるほど。後は、そうですね……スキルは何ですか?」

「【火魔法】です」


 難燃性のテーブルは微妙に震えてはいるものの、今すぐ熱で壊れるようなこともないだろう。

 今は気にするべきではない、とエリーは続く町長の質問に滑らかに答えてゆく。


「なるほど。色々と答えていただき、ありがとうございました」

「いえ、当然のことですので」

「エルフの(かた)はドワーフより身体が柔らかそうですので、一旦、貴女にはソファになっていただきます。

 適正によって配置換えがあるかも知れませんが、その際はまた口頭で指示しますので」

「わかりました。よろしくお願いします」


 町長が指を鳴らすと、エリーと町長はそれぞれ座っていたソファから立ち上がる。

 町長の座っていたソファも立ち上がってローテーブルの脇に立ち、入れ替わるようにソファのいた位置にエリーが四つん這いになった。


「ソファ()だった貴方は……あー。

 ()が足りないので、一旦、ペットのゴリラ()をお願いします」

「ウッホホ」


 こうしてエリーは、応接室のソファになった。

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