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燎原の森エルフ ~外れスキルをレベル999に育てて調子に乗ってるやつらがむかつくので、当たりスキル【火魔法】をレベル999に育てて焼き尽くす~  作者: 住之江京
第三章:【劣化コピー】のキョロリック

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3-10. 親友の近況を知るイェッタ(第三章完)

 ハーフリングのイェッタは、この度、エルフ領の「配達者ギルド・第427エルフ王国支部」からヒューム領の「配達者ギルド・リエット支部」に転籍した。


 エルフの里でエリーの親友だったイェッタだが、同じ里には、他に友人らしい友人がいない。

 イェッタとて社会人だ。自分で自分の責任を持てる、いい大人だ。

 エリーが里を出た以上、あんな場所に留まる理由はなかった。


 ひとまずエルフ領から出られれば転勤先は何処でも良かったのだが、引越しついでに一稼ぎするのも悪くない。

 最近領都で大火災があって建材不足、と噂のリエット領リエット市。そこに、エルフの里産の木材を、馬車に山積みにしてやってきた。


 里の周りの森は最近燃え尽きたばかりだが、そこはエルフの里だ。

 遺伝的に【木魔法】スキルを持つ者が多く、長寿ゆえにそこそこの高レベル者も多いエルフ達。

 彼らにとって、焼けた森の復旧は、実はそれほど難しいことでもない。

 近隣の里から援助を募れば、この短期間でも輸出分まで賄うことができてしまう。

 お陰でイェッタの懐は、転居費用を差し引いても大幅な黒字を叩き出した。



「お昼休憩上がったよー。イェッタちゃん、これお土産ー」

「へっへっへ……あんがとざーす、アデールパイセン」


 ちょんちょん、と手刀(てがたな)を切ってコーヒーカップを受け取る。

 リエット支部の先輩、同じ総合職のアデールは、何かと転籍してきたばかりのイェッタの面倒を見てくれていた。

 この時間帯は、2人で依頼受付カウンターの担当をするシフトになっている。


「いやーアデールパイセン尊敬っすわぁ。気遣いの女神っすわぁ」

「大袈裟でしょ。無料のコーヒーくらいで」

「前いた第427エルフ王国支部じゃあ、同僚がほぼ全員エルフだったんすよ」

「え、うん。そりゃそう……なのかな?」

「マトモな先輩ってのがよぅ、アデールパイセンが(はつ)なんすわぁ」

「ええぇ?」


 エルフは基本的に細かいことを覚えず、時間の感覚も大雑把で、短命種(※エルフ感覚で)の人格を「どうせすぐ死ぬし」と無意識に軽視する傾向がある。

 同僚にするには最悪な部類なのだが、これはエルフ社会で育った異種族にしかわからない。

 ヒュームの種族偏見に「エルフは高慢」という物があるが、見方によっては間違いとも言い切れない、とイェッタは思う。


「でも、エルフの里にお友達もいたんでしょ。チャンエリちゃんだっけ?」

「へっへ、チャンエリはちょっとね、何というか、エルフにしちゃ可笑(おか)しな奴でして」

「あーうん。それなんだけど」

「何ですかい?」

「イェッタちゃんに言われて、エルフの新人配達者の噂を集めてたらさ―――あっ、いらっしゃいませ! ようこそ配達者ギルドへ! 依頼の受注で宜しいですね」


 気になる所で受付に配達者パーティが現れ、アデールはその対応に回る。



「それでは無事の配達達成をお祈りいたします! ――っと、イェッタちゃん。話の途中でごめんね」

「いやぁ、つってもお仕事が最優先っすからねぇ。昼休み明けはパラパラと客も―――んんっ、いらっしゃいませ! ようこそ配達者ギルドへ!

 依頼達成のご報告ですか? まずは受取書をお出しください」


 今度はイェッタのカウンターに配達者が訪れる。

 普段より1オクターブ高い声と、純真な子どものような笑顔の対応に、イェッタには既にファンが付きつつあった。



「ありがとうございました! ―――んんんっ、すいやせん。それで、新人エルフの話っすよね」

「イェッタちゃん、普段から接客の感じで話したら可愛いのになー」

「喉と表情筋が持たんすわ」

「あ、うん、ごめんね。それで新人配達者のエルフの子ね。なんか、もう二つ名がついたらしいよ」

「二つ名? てと、名の売れた配達者に付くあれっすよね? 何て呼ばれてるんすか?」

「うん。チャンエリちゃんの話なのかは、判らないんだけど……その」

「はい」


 ずず、とイェッタは冷めたコーヒーを啜る。


「『外れスキル狩り』、だって」

「げほっ」


 少し(むせ)た。




 ***




 終業後、イェッタは配達者ギルドの魔道具でデータベースに接続し、「外れスキル」に関わる事象を少し調べてみることにした。


 データベースの魔道具はギルド職員なら誰でも使えるが、接続中は常にそれなりの魔力が消費される。

 イェッタのスキルは【魔力吸収】。大気中の魔力や、やろうと思えば他人の魔力を吸収することができる。

 スキル単体では役立てにくいスキルだが、魔道具を使う際には有用だ。

 通信魔道具が長時間使えるので、調べ物もよく進む。


 配達者ギルドでは様々な情報も「荷」として扱う。

 秘匿すべき情報は手紙等の形で運ばれるが、公開しても問題ない情報ならば、データベースを経由して各ギルド支部へ送られる。


「『キーワード:外れスキル OR ハズレスキル』。期間は『1ヶ月以内』」


 外れスキルで追放された貴族の噂。

 外れスキルを克服して返り咲いた貴族の噂。

 外れスキルを育成するサービスの噂。

 外れスキル四天王とかいう胡乱な集団の噂。

 外れスキル狩りと呼ばれる新人配達者の噂。


 胡乱な情報の数々を薄目で読み飛ばして、最後の項目の詳細を見れば、やはりエリーのことだった。

 エリーはこの短期間に、外れスキルの野盗を何組も狩り、外れスキルの貴族崩れを討伐し、外れスキルの指定暴力団を壊滅させたらしい。


「チャンエリよぅ……何してんだ、ホント」



 イェッタにとって、エリーは大事な友人だ。


 無意識に短命種(※エルフ感覚で)を見下す傾向のあるエルフの中において、異種族を同等の友人として扱うエリーは希少だ。異常とも言える。


 エルフにしては記憶力も良く、気が短い。これも異常だ。


 エリーは異種族を人として扱うので、ハーフリングのイェッタに対しても怒る時は怒るし、叱る時は叱る。

 他のエルフは無意識に異種族を一段下に置くため、異種族に「怒る」ということがあまりない。

 猫の下僕を自称するヒュームのように「何をされても可愛がる」か、庇護対象から外れた者は「害獣として狩る」、その程度だ。


 エルフの里でマイノリティの異種族として暮らして来たイェッタにとって、エリーの隣は唯一、自分が人として過ごせる場でもあった。


 そんなエリーだが、彼女が純血の森エルフであることは間違いない。

 エリーの両親にも確認したが、確かに実の娘だと笑われた。



 イェッタがエリーの故郷、第427エルフ王国に越してきてから、共に過ごしたのは10年足らず。それまでに住んでいた土地では同族のハーフリングや、ヒュームとの交流もあったが……悪辣な同族や傲慢なヒュームなどより、エリーの方が数段付き合いやすく、好ましい。

 イェッタにとって親友と言えば、今も昔もエリー1人を指す。



 ただ、何と言えばいいのか。

 親友だからこそ判るのだが。

 とにかく、エリーという森エルフは、巡り合わせが悪い少女だった。運は悪くない。巡り合わせが悪いのだ。


 小さな所では、近所の子どもに無料で配られていた飴玉が、エリーが貰う番の直前で品切れになったり。

 何かしらの手続きで役所に行くと、いつも評判の悪いハイエルフの役人が受付を担当していたり。

 エリーと共に里門を出る時は、高確率で性格の悪い一般エルフの門番が立っていたり。


 そして大きな所では、【火魔法】スキルの持ち主が、エルフの里に生まれたこと。

 そもそも、あの性格で「エルフに生まれた」こと自体、巡り合わせが悪かったと言えるかもしれない。



 今回の外れスキル狩り疑惑についても、エリーが積極的に探して狩ったわけではなく、単に巡り合わせが悪かったのだろう。

 1つ2つは自主的に絡んでいったかもしれないが、多少怒りっぽくとも、そこまで好戦的な子ではない。


 まあ、故郷の森を焼いたりはしたが。……少し怪しくなってきた。

 本当にエリーは自分が思っているほど、温和なエルフだったろうか?

 強大な力に溺れて、力で全てを蹂躙し、我を通す……覇王? そんな存在になっていても違和感はない。


 とにかく、これもエリーの巡り合わせの問題だとすれば、落ち着くまでは近寄らない方がいい。


 アデールは『外れスキル狩り』を獰猛な戦闘狂とでも思っていそうな雰囲気だったが、その点についてはフォローをしておこう。


「親御さんから預かった手紙は……パースリー市のギルド支部に転送しとくかぁ。連絡先は送っとくかね」


 何かあれば連絡は貰えるようにしておいて。

 エリーに会いに行くのは、とにかく「外れスキル」周りが落ち着いてからにしよう、とイェッタは心に決めた。

以上で第三章完結です。

お読みいただきありがとうございます。


ここまで途切れずに連続投降できているのですが、

三章最終話公開日までに四章が書き上がらなければ、

書き上がるまで日付を開け、そこから毎日投稿です。


見るべきところがあると思っていただけましたら、

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