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燎原の森エルフ ~外れスキルをレベル999に育てて調子に乗ってるやつらがむかつくので、当たりスキル【火魔法】をレベル999に育てて焼き尽くす~  作者: 住之江京
第三章:【劣化コピー】のキョロリック

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3-3. 共闘するエリー

 イヌルトは犬型の魔物だ。

 2足歩行で器用に武器を扱う、茶色のもふもふ。

 水浴びを好み、野生環境でも柔らかな毛質を保っている。

 このもふもふで犬好きの人類を(おび)き寄せ、集団で襲って食らうのだ。


 その種族スキルは【ほえる】。

 仲間と連携を取ったり、敵の精神を乱したりと、低レベルから厄介な効果が多いスキルである。



 犬系の獣人と、イヌルトやイヌベロスといった犬系の魔物と、動物の犬。それぞれを分けるのは、その所有スキルだ。


 個体によって異なるスキルを持つのが人類。

 エルフやヒューム、ハーフリング、獣人などを指す。


 そして、1種1スキルを前提とするのが魔物。

 人語を解する者から、思考能力を持たない者もいる。


 なお、スキルを持たないのが、普通の動物や植物である。

 エリーが地元で狩っていたフォレストチキンも普通の動物なので、スキルは持たない。身体能力も低く、子どもでも狩れる良い獲物だった。


「あ、いたいた」


 エリーは川辺に集まるイヌルトの群れに悠々と近付いてゆく。

 風上からの接近なので、相手も当然エリーに気付き、周囲を囲むように動き始める。


 毛皮が焦げると困るので、また≪ヒートヘイズ≫で仕留めればいいだろう。温度は発火点ギリギリ、密度を上げて。

 警戒されないよう、もっと引き付けてから。


「わおーん!」

「わふわふ! ぶっ殺すわん!」


 錆びた剣や尖らせた枝を構えた犬型魔物が、正面から一斉に飛び掛かってきた。

 応戦すれば背後の茂みに隠れた伏兵が参戦、挟み撃ち。逃走すれば伏兵による不意打ち、といったところか。


 どの道、エリーのやることは変わらない。

 引き付け、タイミングを見て、


「≪ヒートヘイ…」


「うおおおおおッ!! 助太刀するッ!!」

「ぎゃいんっ!?」


「…ズ≫?」


 と魔法を発動する所に、猛然と人影が割り込んできた。


「え?」

「気を付けろ、イヌルトに囲まれているぞ!」

「あ、はい」


 知ってます、という言葉を飲み込み、エリーは闖入(ちんにゅう)者の姿を確認した。


 全身鎧姿の、たぶん人類。全身鎧なのでわからないが。

 背丈はエルフやヒューム程度、声の高さから恐らく女性。

 上段に長剣を構え、四方に視線を飛ばしてイヌルトを威圧している。


「わふ……」

「くっ……数が多い……」


 じりじりと睨み合うイヌルトと剣士。


 少し離れた位置から弓の音が聞こえ、イヌルトの悲鳴が上がった。

 剣士の仲間だろうか。



 どうしたものか、とエリーは思った。



 エリーが無防備に囲まれたと見て、この剣士は助けに来てくれたのだろう。

 必要かといえば不要だし、獲物を横取りされたとも言える。

 が、これもエリーの呑気な振る舞いが招いた勘違いだし、人の善意自体は尊ぶべきものだ。


 少し考えて、エリーは共闘の形をとることにした。


「正面の3匹をお願いします。私は魔法で反対側を片付けます」

「魔法使いか! わかった、こちらは任せろ!」


 相手は所詮イヌルト。スキルも直接攻撃系ではないので、あの金属鎧が貫かれる心配はない。

 うっかり≪ヒートヘイズ≫に巻き込んで鉄板焼きにすることだけが心配なので、エリーは慎重に距離を開け、不可視の熱壁を散らして魔力に還元した。



「わおーん!!」

「わうわうー!!」

「死ねわんっ!」


 吠え声と同時に剣士へ飛び掛かる3匹のイヌルト。


 同時に剣士の周りに到達し、同時に武器を振りかざす。


 頭に/脇腹に/足元に。


 高度な知性が織りなす同時攻撃による連携――というよりは、いわば生存バイアスなのだろう。

 偶々(たまたま)このグループのメンバーは走る速度が揃っていて、偶々狙う場所が違った。

 それが偶々効果的に働いて、だからこんな人類に知られた狩場で、これまで生き残れた。


 まあそれも、今日までのことだ。


「――ふッ!」


 上段からの振り下ろし。

 一息で縦に長いS字を描くような軌道の斬撃。


「わふっ!?」


 3匹のイヌルト達の武器は剣の一振りで弾かれる。


「きゃいんっ!」


 驚いて一瞬動きが鈍ったに、足元の1匹を蹴り飛ばす。

 これで一時的に1対3から1対2になる。


 イヌルト相手で1対2なら、一端(いっぱし)の剣士にとっては容易い相手だ。

 3匹目が戻るまでに1匹切れば、残りも1対2。

 更に1匹切れば1対1。

 そのまま1対0へ。



 エリーはそんなチャンバラの音を背に、この場で使う魔法を悩んでいた。

 魔法の選択肢は多いが、それに比すれば、エリーの実戦経験は非常に少ない。


「普通の火じゃ延焼が怖いなぁ……≪ファイアバレット≫」


 故郷の森を焼いたエリーだが、何も趣味で森を焼くわけではない。

 焼かずに済む森まで焼くつもりはない。


 温度を下げ、硬さ(・・)貫通力(・・・)を与えた火の弾丸。

 鈍く赤い光が茂みを貫き、脳を穿たれたイヌルト達は悲鳴も上げずに倒れる。

 弾丸は目的を果たすとすぐに魔力に還った。

 薪ならともかく、生きた植物に燃え移るほどの熱ではない、はずだ。


「メルシャノン、片付きました! そっちは無事ですか!」


 そこへ、剣士の仲間らしき声が届いた。


「ああ、無傷だ! ……と、君、後ろに回ったイヌルトはどうなっている!? すぐに加勢するぞ!」

「こちらも片付きましたよ。ありがとうございました」

「ほう、いつの間に……? ほとんど音がしなかったな」

「上手く急所に当たったので」


 エリーは愛想笑いをしつつ、自分で倒したイヌルトの死骸を回収する。


 剣士の仲間達も、倒したイヌルトを引きずって集まってきた。

 じゃれつくように談笑する2人と、弓を持った1人だ。


「んにゃはは! 見たにゃフェルハロルド、にゃーの連撃!!」

「はいはい、見事でヤンスね」

「なんかフェルハロルドの周りで勝手にスッ転んでたイヌルト達を、ずばずばっと一撃一殺にゃ! にゃーがいないと危なかったにゃ!」

「へへー俺っち大感謝でヤンスー」

「もっと讃えるにゃ! 崇めるにゃ!」

「ほーれ、猫じゃらしでヤンスよー」

「んにゃっ! んにゃっ! 大人しくするにゃっ!」

「貴女も大人しくするのです、エイダ。フェルハロルドもです。他所の方もいるのですよ?」


 周囲の警戒は続けながらも、(なご)やかで、仲の良さそうな雰囲気だ。


 討伐数はエリーが6匹、剣士が3匹、後から合流した3人が5匹。

 計14匹、逃がしたイヌルトはいない。


「改めまして、助太刀ありがとうございました」

「この死体の傷を見ればわかる。見事な腕だ。余計なことをしたかな」

「それでも善意自体は有難いですよ」


 暗に「余計だった」と言っているようなエリーの返答に、剣士は苦笑いで応じた。




「我々は黄金()級配達者パーティ『白き花弁』。私はリーダーのメルシャノンだ」


 『白き花弁』は配達者のパーティで、リーダーの剣士と、他に弓を持ったヒューム、短剣を持った遊撃役か斥候役らしき獣人と、何だかわからないが鞭と大荷物を持ったヒュームの4人組だ。

 見ず知らずの他人の危機を救いに駆け付ける、善人の集まりでもある。

 同業者として交流を持つことは、エリーにとって悪くないことに思えた。


黒鉄()級配達者のエリーです」

「黒鉄でこの腕前か。私達はつい先日黄金()級に昇級したばかりだが……戦闘力では全く勝ち目が無さそうだな」

「最近配達者になったばかりで、まだまだ学ぶことだらけです。

 戦うだけなら、スキルレベルでごまかせますけど」

「そうか。若く見えてもエルフは長寿だからな」


 エルフにヒュームの年齢がわからないように、ヒュームにもエルフの年齢はわからない。

 どうも実年齢より年上に思われたようだが、実際のレベル上げ方法(※森を焼く)を説明するよりはマシだと思い、エリーは曖昧に笑って受け流した。



 そこへ、弓士が1歩進んで口を開いた。


「初めまして、エリーさん。私はパーティの後衛と、総務的な管理を担当しているトッテリーサです」

「初めまして、エリーです」

「エリーさん、もしよろしければ、『白き花弁』に入りませんか?」

「えぇと……?」


 急な誘いに困って、リーダーのメルシャノンに視線を送ると、


「なるほど、それは良いな」


 と頷くばかりだった。


 エリーが斥候役と見た獣人を見れば、


「ふんふんふん……いい匂いですにゃん! 気に入ったですにゃーん!」


 エリーの周囲を回って身体の匂いを嗅いでいる。


 最後の1人、大荷物を持ったヒュームに目をやると、


「へへ……うちのモンが申し訳ないでヤンス、エルフのお嬢さん」


 と卑屈な笑いを浮かべるばかり。特に状況把握の役には立たない。


 それよりも、語尾が「ヤンス」だと故郷の門番を思い出してしまうのが、少し困る。

 【木魔法】スキルを鼻にかけた嫌味な女だったが、【鼻毛カッター】で鼻毛として刈られてしまった。

 故人を悪くいうのもな、とエリーは思考を振り払う。


 こんなことを考えていても仕方ない。


「どういうことです?」


 わからないことは聞けばいいのだ。


「失礼しました。順を追って説明しますと、我ら『白き花弁』は現在成長中の黄金()級パーティなのです」

「はい」

「少し前までは白銀()級で燻っていたのですが、このエイダの加入で実績も評価も上昇しているのです」

「はい」

「にゃっはっは、にゃーも頑張ってますにゃん!」

「へぇ」

「エリーさんは実力も高いが、まだ配達者としては駆け出し。私達のパーティで経験を積めば、個人での等級も一気に上がるだろう」

「ふむふむ」

「それにエリーさんという戦力が加われば、『白き花弁』も年内には白金()級も目指せるかもしれません。うちに魔法使いはいませんからね」

「はぁ」

「お嬢さんのデメリットとして、パーティの方針で多少の行動制限がかかる場合があるでヤンス。それと、報酬は頭割りになるでヤンス。ただ、大物狩りや上客からの依頼も受注できるので、稼ぎ自体は恐らく増えるでヤンス」

「なるほど」


 エリーは、何となくわかったような気がした。


 出会ったばかりの『白き花弁』だが、そう悪い印象はない。

 ただ、共に行動するとなると、問題がある。

 故郷の門番を思い出すのとは、また別の問題だ。


「1つ質問なのですが、依頼対応時の移動は、徒歩とか馬車ですか?」

「ふむ、そうだな。目的地次第では船を使うこともあるが」

「そうですか……では、残念ながら辞退させてください」


 何せ、のんびり地上を移動していると、また外れスキルレベル999に絡まれるかもしれないのだ。


 それだけ、エリーの中では先日の野盗ラッシュがトラウマになっていた。


 エリーと『白き花弁』は互いの健闘を祈り、その日1日共に行動し、配達者の暗黙のルールを教わり、解体や薬草採集に関する知識を学び、戦利品の分配を終えた後。

 エリーだけは一足先に、空を飛んで街へ戻った。

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