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燎原の森エルフ ~外れスキルをレベル999に育てて調子に乗ってるやつらがむかつくので、当たりスキル【火魔法】をレベル999に育てて焼き尽くす~  作者: 住之江京
第三章:【劣化コピー】のキョロリック

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3-2. 配達するエリー

 エルフのエリーはエルフ領からの追放以来、ヒューム領で配達者として働いている。


 以前の拠点だったリエット侯爵領の領都リエット市を離れ、エリーは此処、パースリー子爵領の領都パースリー市へやってきた。


 ヒューム領全体の中でも最果ての辺境であるリエット侯爵領は、広い領内で生産も消費も完結していた。

 だが、パースリー子爵領はそれより規模が小さく、周囲を他家の領地に囲まれていることもあって、領を跨いだ物の動きが多い。


 黒鉄()級のエリーでは領外への配達の仕事は滅多に受けられないが、赤銅()級まで上がればそういった仕事も増えるだろう。


 最近読んだ(しん)ヒューム派エルフの旅行記によれば、エルフ領は閉鎖的で、排他的で、前時代的で、差別思想が根深く、生の草や獣肉ばかり食べ、迷信的で、進歩とは縁遠くて、どの里も大した違いはないそうだが、ヒューム領は地域によって様々な特色があるという。


「楽しみではあるけど、不安でもあるなぁ」

「何がです?」


 思わず漏らした独り言に反応し、同行者がエリーを仰ぎ見る。


 ヒュームの少年、ジロー。

 エリーよりは背が低いが、ハーフリングの友人より高い。

 エルフのエリーにヒュームの年齢はよくわからないものの、まだスキルを持たない彼が、未成年なのは間違いない。


「ん、何でもない」

「そうですか。でも、改めて見て思いましたが……顔がいいですね!」


 大袈裟な賛辞はスルー。

 まずは宿泊施設を探さなければならない。


 途中の村や町で依頼をこなしつつ、数日かけてリエット市からパースリー市までやってきた。ジローを抱えたまま、今日も3時間は魔法で飛行した後だ。

 既にジローは「飛びながら食事や仮眠をとる」ほどの余裕も身に付いたらしく、到着時点から元気一杯だった。

 特に体調を気遣う必要はないと見て、エリーは自分の思考に戻る。



 新天地。楽しみではあるが、不安でもある。


 配達者としてヒュームの町や村を周っていたエリーは、最近、変なスキルで暴れている人にばかり会うのだ。


 【耳年増】に【健康サンダル】、【オケラ召喚】、【保温】、【掌返し】だったか。

 その全員がレベル999で、全員が暴力に特化している。


 レベル999に至ったスキルは「概念操作」が解禁され、そのスキルに関連することであれば――そのスキルに関連するとこじつければ(・・・・・・)――魔力の消費次第で、何でもできる。


 概念操作は、こじつけさえすれば万能なのに。

 こじつけの方法が、しょっぱい。

 それに、婚約破棄されて落ちぶれた貴族令嬢が、復讐のために街を破壊するなんて、こう……どうなのか。

 エリーには政治はわからない。ヒュームの価値観もまだ勉強中なので、具体的にどうすれば良いとは言えないが。


 どうも、地元を襲った【鼻毛カッター】からツキが無いように思う。

 あれですら王位簒奪を考えただけマシだった気もしてきた。



 まあ、ここは魔窟リエット侯爵領から遠く離れたパースリー子爵領。

 いくらなんでも、ここまで外れスキルレベル999が大量発生しているはずもあるまい。エリーはそう、楽観的に考えることにした。


「いい街だったら、しばらくお金を稼いで、家でも買おうか」

「大丈夫ですか? また大規模スキル戦闘で街が吹き飛んだりしません?」

「宿でいっか」


 楽観論は吹き飛んだので、見つけた宿泊施設でとりあえず3日間、2人部屋を取った。




 リエット市で受けた人捜しの依頼は、完了報告前に街が(・・)吹き飛んだ(・・・・・)ので仕方なく(・・・・)拠点を移したが、道中の町のギルドで、完了報告は済んでいる。

 成功報酬も入った。当面の生活費はある。

 それでも仕事は必要だ。


「私が仕事してる間、ジローはどうする? 留守番?」


 未成年のジローにはまだスキルがない。

 多種族が集まる配達者の登録に年齢(・・)制限はないが、スキル無しだとそれなりの戦闘力を示す必要がある。ただのヒュームの少年には土台無理な話だ。

 しかしジローは少し考えるようにして、


「そうですねぇ。ちょっと街を回ってみます」


 と笑って答えた。


「わかった。それじゃ行ってきます」

「はい、行ってらっしゃい」


 そういう流れで、エリーは1人配達者ギルドに向かった。




 ***




 魔物素材の調達・配達依頼というのは、野生の魔物を狩り、その毛皮や肉、角や骨、その他を回収して納品するまでをセットにした仕事だ。

 要は魔物を狩って素材を納めろという話だが、「配達者」という職種の法的根拠――建前として、「何かを何処かへ届ける」という形式で依頼内容を作成しなければならない。

 護衛依頼や捜索依頼も「人を目的地へ届ける」という名目だし、依頼書にはその様に記載されている。


 が、それは管理者側の都合であって、配達者の間では、魔物素材の調達・配達依頼も単に「討伐依頼」、「狩猟依頼」と呼ぶことが多い。

 退治が主目的なら討伐依頼、素材が主目的なら狩猟依頼と、何となく分けられている。


 今のエリーにとって、討伐依頼や狩猟依頼の最大の利点は、人里を離れられる点だろう。

 人里離れた山奥ならば、復讐に燃えるレベルカンストテロリストに出会う可能性も低い。

 街道沿いには野盗も出るだろうが、最初から空を飛べば問題ない。


 少なくとも行き道は何の問題もなく、狩場へ到着した。


「≪ヒートヘイズ≫」


 軽く魔法を唱えて一息。

 周囲を見回し、視線を止めた。



「にゃーん、にゃにゃーん♪」



 相対するのは、2足歩行の猫だ。


 両の前足を胸の高さに掲げ、交互に上下へ振りながら、尻尾を揺らして近付いてくる。


「にゃんにゃこにゃん♪」


 明るい声音で甘えるように、小首を揺らして寄ってくる。


 屈んで手を伸ばせば届く距離。


 猫の目付きが、鋭く変わる。


「オラッ、死ねェニャアッ!!」


 猫の魔物は一呼吸で身を縮め、低い姿勢で跳ね、掌ほどまで伸ばした前肢の爪でエリーに斬りかかった。


 獣の俊敏性は人のそれを大きく上回る。

 加えて、種族スキルの【ひっかく】による動作と威力の補正。

 油断していれば躱す間もなく、当たり所が悪ければ致命傷。


「あぎゃああああッ!?」


 そんな一撃は、先程エリーが張った≪ヒートヘイズ≫の不可視の熱壁で受け止められ、魔物の体内は沸騰した。


 即死だ。


「ネッコシーの素材部位は爪と毛皮と眼球……だけど、眼球はこれでいいのかな」


 白く濁った眼球を見て首を傾げ、少し迷いながらも、一応解体用のナイフで回収する。【火魔法】にも切断用の魔法はあるが、熱に弱い素材を取るには普通の刃物が必要だ。すっかり蒸し上がったこの眼球については、今更のようにも思ったが、エリーは練習も兼ねて丁寧に解体をおこなった。


 猫型魔物のネッコシーは人を襲い、食らう以上に、戯れに殺す危険な魔物だ。毎年猫好きの民間人を中心に犠牲者が出る。

 肉は食用には向かないが、爪は靴のスパイク等に、眼は魔法薬の材料等に、毛皮は衣服等に使われる。


「えぇと、袋はこれが硬い物用、これが壊れ物用、大きいのが毛皮用……」


 エリーには≪物がたくさん入る火≫という収納魔法があるが、起動に多くの魔力を必要とする。とりあえず袋に纏めておき、帰る前に魔法の中へ放り込む算段だった。


「まずは1匹。目視で探すのは面倒だし、≪ファイアビット≫」


 特に意味もなく指を鳴らすと、エリーの周囲に8つの火の玉が現れる。


「魔物の群れを探してきて」


 特に必要もなく口頭指示を出すと、火の玉は8方向に散開した。




 索敵用の≪ファイアビット≫を飛ばして少々、火の玉の1つが、エリーの元に戻ってくる。

 そして、空中に文字を描くように飛び始めた。


「徒歩2分の距離にイヌルト14匹の群れ、だね」


 なお、やろうと思えば≪ファイアビット≫の確認した情報は、遠隔から直接エリーに共有することも可能だが、これは魔力の節約と――気分の問題だ。


 エリーはふんふんと軽く頷き、残りの≪ファイアビット≫を遠隔指示で呼び戻す。

 サイズを縮小し、周辺警戒のために周囲に飛ばすと、鼻歌交じりに歩き出した。


 何ということはない、簡単な仕事だ。エリーはそう思った。

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