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燎原の森エルフ ~外れスキルをレベル999に育てて調子に乗ってるやつらがむかつくので、当たりスキル【火魔法】をレベル999に育てて焼き尽くす~  作者: 住之江京
第三章:【劣化コピー】のキョロリック

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3-1. パーティを追放されるキョロリック

3章が先程書きあがったので、本日より3章最終話まで連続投稿します。

 配達者キョロリックが所属する白銀()級パーティ『白き花弁』は、ヒュームの男女2人ずつで結成されたパーティだ。

 全員が同じ村の出身で、成人の儀式で戦闘関連のスキルを授かった4人は揃って村を出て、パースリーの街で配達者となった。

 それ以来、ずっと4人1組で配達者として活動している。


 パーティ結成から数年。同じように夢を抱いて配達者になった若者達が挫折していく中、大きな怪我もなく、着実に依頼をこなして来た。


 魔物素材調達配達(つまり討伐と素材の納品)の依頼を終え、いつもの通り、ちょっとした打上げを始めようかという所。

 丸テーブルの向かいに座ったリーダーのメルシャノンが、「乾杯の前に」とキョロリックに告げた。



「キョロリック。すまないが、今日限りでパーティを抜けてくれ」



 あまりにも自然な調子で切り出したので。

 キョロリックは初め、何を言われているのか理解できなかった。



「聞こえなかったか? ならもう一度言おう。

 キョロリック……今日限りで、パーティを、抜けてくれ」


 2度目の宣告に、ようやくキョロリックの意識が追い付き、慌てて口を開いた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! どうして俺がクビになるんだよ!

 俺達幼馴染で、ずっと一緒にやってきた仲だろ!?」


 所持スキルによってパーティの前衛を担うメルシャノンは、食事の席でも金属鎧を纏ったままだ。目付きも鋭く、同年齢の女性ながら威圧感が強い。

 それでも、キョロリックは言うべきことを主張した。


「あまり言いたくはないが……そうだな。実力不足なのだよ」

「そんな! 俺は剣も弓も罠もそこそこ使えるし、戦闘でも役に立ってただろ!」


 メルシャノンは何か言い淀むような顔をしつつも、端的に言った。

 対して、キョロリックにも反論はある。キョロリックのスキルは、正に彼の主張通りの強みがあるのだ。


 しかし、それをテーブルの左側から、怜悧な声が遮った。


「仰る通り、そこそこ程度でしょう。それなら、貴方の代わりに専門の剣士なり、弓士なり、猟師なりを入れる方が効率的です」


 パーティメンバーの1人、トッテリーサ。

 普段から右目に狙撃用の片眼鏡を掛けており、遠くを見る時は左目を、近くを見る時は右目を(つむ)ることが習慣付いている。

 パーティの遠距離攻撃役と共に、作戦考案や対人交渉、経理や資産管理も担う頭脳役だ。


「せ、専門家じゃあそれしかできないが、俺なら何でもできる! 絶対俺の方が役に立つ!」

「正直に言うと、何でも中途半端にできる人は、本人が思っているほど役に立たないのです。

 それに、足りない穴を埋めるのならまだしも……貴方のスキルでは、既にいるメンバーと重複した仕事を、専任者より劣った技量でしか熟せないのです」


 これはトッテリーサの本音だったし、常からの悩み事でもあった。

 作戦立案においても、とにかくキョロリックは使い所が薄いのだ。


 【剣術】のメルシャノン。

 【弓術】のトッテリーサ。

 【罠術】のフェルハロルド。

 【劣化コピー】のキョロリック。


 メルシャノンは剣を携え、金属鎧を纏った前衛。

 トッテリーサは弓を使った後衛と、広い視野で指示を出す参謀役。

 フェルハロルドは事前に標的を追い込み、弱らせ、遭遇戦でも鞭で援護する中衛の位置につく。


 対するキョロリックは、【劣化コピー】というスキルの持ち主だ。

 近くにいる相手のスキルを、若干弱い効果でコピーする。一見万能だが、コピーできるのは同行する相手のスキルのみ。

 【剣術】のメルシャノンと離れて後衛を守ることはできない。

 【罠術】のフェルハロルドと別行動で並行して罠を仕掛けることはできない。


 結局、メルシャノンと並んで最前列で剣を振るか、トッテリーサと並んで最後列で弓を射るか――そのいずれかに落ち着くのだが。


「前衛専任になるとして、メルシャノンのように鎧姿で1日中歩けますか。後衛専任になるとして、私のように前衛の隙間を狙って射る技量と覚悟がありますか」

「うっ……そ、それは……」


 専任で鍛えているわけでもないため、スキルの効果が元の持ち主より劣化する。その上、基礎体力や精神面、スキル外の技術も追いつかない。

 例えば、メルシャノンが重い金属鎧を纏って歩けるのは当然【剣術】スキルとは関係なく、本人の鍛錬の成果だ。キョロリックにはそんな体力も、根性もない。


 キョロリックは自分がオールラウンダーであると主張し、1つの方向性を極める努力を怠ってきた。その自覚はある。

 というより、訓練自体を怠ってきた。仲間のスキルレベルが上がれば自分も勝手に強くなるのだ。できれば、努力はしたくないと思っていた。


「キョロリック。私達『白き花弁』は、白銀()級パーティだ。そろそろ黄金()級に上がれると言われ続けるも、未だに叶わない」

「私達が上に行くには、貴方に抜けてもらうしかないのです」


 メルシャノンとトッテリーサは畳み掛けるように言う。



 キョロリックは悔しいとか、腹立たしいとかいう以前に、ショックを受けていた。


 自分達は幼馴染で組んだパーティで、これからもずっと同じメンバーでやっていくと思っていたのだ。

 その未来が急になくなった。それは、とても悲しいことに思えた。



「お、お前も、そう思うのか? フェルハロルド?」


 だから、もう1人のパーティメンバーに縋りついた。

 これまで一言も喋らなかった【罠術】のフェルハロルド。

 依頼中は藪に分け入ることも多いため長袖を着ているが、今は上着を脱いで腰に巻いている。

 線が細いながら引き締まった身体に、どことなく高貴さを感じさせる面立ち。同郷で、パーティ唯一の同性だが、キョロリックはあまり積極的に彼と関わろうとはしていなかった。


 問われたフェルハロルドは、少し申し訳なさそうな表情で、


「あー、そうでヤンスね……俺っちも、キョロっちは抜けた方がいいかなーって思うでヤンス」


 と同意した。

 つまり、4人パーティで自分以外の3人が、自分に抜けろと言うのだ。

 完全に仕組まれていたと考えていいだろう。


「そ、そうかよ。でも、今日明日ってわけじゃないだろ?」


 そう言いながら、キョロリックは考えていた。

 少しでも長くパーティにしがみ付いて、仲間達の気が変わるのを待とう、と。


「いや、今この時点で抜けてくれ。既に新メンバーはここに呼んでいる」


 メルシャノンがそう告げたのは、「幼馴染だし情もあるはずだ、すぐに皆正気に戻るぜ」などと、キョロリックが心の中で考えていた時だった。


「へ?」

「一応紹介しておこう。エイダ、来てくれ」

「はいですにゃーん!」

「にゃ?」


 戸惑うキョロリックを他所(よそ)に、メルシャノンの鎧の影から猫耳尻尾の少女がひょっこり現れた。

 鎧を着ているとはいえ、メルシャノンの影にすっぽり隠れるほど小柄な少女だ。

 尻尾をピンと立て、楽し気な表情。

 体型も雰囲気も、キョロリックの目にはまだ子どもに見える。


「じゅ、獣人? そんなガキが俺の代わり?」

「獣人は成人年齢が早いのです。確かに私達より年下ですが、スキルも身体もしっかり鍛えられているのです」


 貴方よりも、と視線で告げるトッテリーサに、キョロリックは思わず目を逸らす。


「お、お前のスキルは何だよ。俺より役に立つってのか?」

「にゃ? にゃーのスキルは【短剣術】ですにゃん!

 見よ、この短剣さばきをー! にゃばばばっ、にゃばっ!」


 キョロリックに答えて、食卓から取った肉切りナイフを素早く振って見せるエイダ。

 なるほど、様にはなっている。キョロリックが自分の中の【劣化コピー】スキルに意識を向けると、確かに【短剣術】がコピーできる状態になっていた。


「た、【短剣術】も【剣術】の劣化スキルだろ! だったら長剣も大剣も使える俺の方がマシだろ、なぁ!」


 だからといって、素直に負けを認めるわけにもいかない。

 思いつくままに、ライバルの欠点を(あげつら)う。


「にゃにおー! 【短剣術】は劣化スキルなんかじゃないですにゃーん!」

「短剣術は短剣に特化した特化スキルなのです。短剣の扱いは【剣術】スキル保有者より上。素早さ補正、器用さ補正も高めなのです」


 そんなキョロリックの抵抗は、むっとした表情のエイダと、呆れた表情のトッテリーサによって切り捨てられた。



 これはまずいぞ、とキョロリックは改めて思った。


 完全に自分がパーティを追放される流れになっている。

 最初からそういう流れではあったのだが、キョロリック自身ですら、それを認めそうになっている。

 これまでの話を聞く限り、自分とエイダを比べて、自分が勝てる要素が思いつかないのだ。


 しかし、ここでキョロリックが追放されてしまうと、大変なことになる。

 【剣術】のメルシャノン、【弓術】のトッテリーサ、そして新メンバー【短剣術】のエイダ。パーティ4人の内、3人が女性だ。

 男性は【罠術】のフェルハロルド、1人だけ。これでは『白き花弁』が、フェルハロルドのハーレムパーティになってしまう。

 それはかなり腹が立つぞ、と。キョロリックは思った。


 実際の所、パーティ内で恋愛関係にあったのはメルシャノンとトッテリーサの2人である。

 これは4人が村を出る以前からの話で、何故かキョロリックは認識していなかったが、当然フェルハロルドもそれを知っている。そのため、『白き花弁』がハーレムパーティになるといった事実はない。


 なお、キョロリックの追放は実力不足の問題もあるが、主には彼が酒を飲む度にメルシャノンとトッテリーサに言い寄り続けたこと、2人とフェルハロルドが恋仲にあるのではと疑ってフェルハロルドに冷たく当たること、それらの積み重ねによる人間関係の悪化が原因であった。

 ただ、いずれも直接的に手を出した事実はないため、主要因を濁して「実力不足」という建前のみで、この追放劇は進められている。


 本来の理由を告げれば、キョロリックはすぐにパーティ残留を諦めたことだろう。

 長年共に過ごした幼馴染への最後の情が、こうして話を長引かせてしまっているのだ。

 申し訳ないが、その情に免じて、もうしばらくお付き合い願いたい。



「そ、そうだ! 俺とそいつを入れ替えるって話だったが、別に入れ替える必要はねーだろ!?」

「人数が増えると報酬の取り分が減るのです。昇級すれば相手にする魔物も強くなるので、装備も良いのを買わないといけないのです」


「っ、にしたって不当解雇だ!

 解雇予告は30日以上前にしないと、法律違反のはずだっ!」

「キョロリック……私はパーティリーダーではあるが、お前の雇い主じゃない。だが、それがパーティを抜ける条件だと言うなら。トッテリーサ」


「労基法に従い、30日分の平均賃金を解雇予告手当として支払うのです。ここ1年の平均取り分から算出して構わないですね?」

「お、おう……」


 可能な限り抗ったキョロリックだが、経理担当のトッテリーサが即座に金銭を支払うと、遂に何も言えなくなり。


 普段見ることのない量の金貨を財布に入れて。


 それ以上この場にいることができず、フラフラと店を出て行った。

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