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2-4. 野盗に起こされるエリー

「げっへっへ、俺達はホーン盗賊団!

 そして俺様はその首領、【保温】のホーン様だあ!

 命が惜しけりゃ大人しく金目の物を出せえい!!」


 エリーの朝は、そんな野盗の声で始まった。


「……少年、野盗だよ。早く起きて」

「うーん……あっ、顔がいい……! おはようございます!」

「おはよう。また野盗だよ」

「ええっ、またですか!? この辺の領主は何してるんですかね!」


 周囲を見回すと、エリーと少年は既に、20人ほどの男達に囲まれている。

 ざっと魔力の雰囲気を見たところ、全員がヒューム。

 髭が生えていたり、頭髪が少なかったり、声も比較的野太い気がするから、恐らく大人だろう。

 野盗のボスらしき男は、髭も濃く、髪も薄く、声も(だみ)声だ。これなら間違いなく大人だな、とエリーは判断した。


「ここが俺達の縄張りだと知らずに寝こけていたようだなあ!

 げっへっへ、運が悪かったなあ!!」


 ボスは赤い棒を振り回しながら大きく笑い、部下達がそれに追従した。


 開拓村から街までは、魔法で飛べば数時間の距離。

 しかし、帰りは連れがいるからと歩いて移動してみたら、夜になってしまった。馬車で3日の距離を歩いて帰ったのだから、当然のことだが。


 野営の準備などは一切していないものの、寒さと野生動物、魔物への対策は【火魔法】の得意分野だ。湿った地面への対策や、虫への対策も。


 そんなわけで、昨晩は街へ向かう道沿いで適当に野営していたのだが、夜番を立てる代わりに出しておいた≪ファイアビット≫は、まだ消えていない。

 あと数歩でも近付けば、ビットが自動的に対応し、野盗どもは焼け死ぬだろう。


 しかし、「寝てる間に野生動物がかかったら、朝食に焼肉が食べられるかも」と火力を抑えめにしたのが(あだ)になった。

 朝から人類の焼ける臭いなんて嗅ぎたくないし、子どもの教育にも悪い。


 なので、エリーは一応注意を促すことにした。


「それ以上近付くと、この周囲を飛んでいる火の玉に焼かれて死にますよ。命が惜しければ、えーと、金目の物を出してください……?」


 降伏勧告はこれで良かっただろうか?

 何か違うな、とエリーは首を傾げる。


「おお? 若い女とガキだけか!」

「へへへ、ボス! 女の方は顔がすっげぇいいですぜ!」

「確かに! お前ら、絶対に生かしたまま捕まえろお!」


 異種族とのコミュニケーションは難しいな、とエルフのエリーは思った。


「ぎゃああああ!? あづいぃぃぃ!!」

「お、俺が、俺が燃えるぅぅ!!」


 20人の盗賊団の内、ボスを除く19人が焼肉になった。


 エリーの家は裕福な方ではなかったが、異種族とはいえ、人類を食べる気にはならない。

 獣肉のそれと似ているようで、妙に不快な臭い。

 敢えて追加で注文する気にはならなかった。


「残ったのは貴方1人です。大人しく金目の物を出してください」


 エリーは盗賊のボスに対し、再度の降伏勧告を行った。


 しかし、その思いは相手には届くことがなかった。


「よ、よくも俺様の部下どもをお!

 そりゃまあ、最近まで俺を見下してやがった屑どもだがなあ!

 んん……? だったら、ざまあ見ろってとこかあ?」


 ボスはエリーの言葉には耳を貸さず、1人で怒ったり、悩んだりしている。

 今の内に逃げよう、とエリーは傍らの少年に目配せをした。


「か、顔がいい……!」


 少年の方は昨日からの付き合いになるのに、こちらも未だに上手くコミュニケーションが取れないようだった。

 つくづく異種族間交流は難しい。


 そういえば、この少年の名前は何だったか。

 まだ聞いてないな。

 そんなことを考えるエリーも、未だに少年に自分の名前を名乗っていないのだが。


 そんなことをしている間に、盗賊のボスの方は、自分の中で何かしらの折り合いがついたらしい。

 逃げようとしているエリーと、エリーの顔に感動している少年の様子に気付き、持っていた赤い棒を振り上げながら駆け寄ってきた。


「てめええらあああ!! 逃げようとしてやがったなあ!!」


 駆け寄るボスに対し、≪ファイアビット≫が次々に突撃を仕掛ける。

 ボスは瞬時に炎に包まれ。


「うおおおおお!! 逃がさんぞおおおお!!!」


 無傷のまま、炎の中から飛び出した。


「俺様は【保温】のホーン!

 レベル999の【保温】スキルに、火なんて効かねえぞお!!」


 【保温】。

 また外れスキルか、とエリーは嘆息する。


 レベル999。

 またカンストか、とエリーは目を覆った。


「熱々に熱した鉄の棒をお!

 【保温】で常温に保った手袋で掴めばあ!!

 俺様だけに扱える、炎の魔剣の完成よお!!

 これでも食らええい!!!」


 何だか詳しく説明してくれるので確認すると、なるほど、赤い棒だと思っていたのは、確かに赤熱した鉄の棒のようだ。

 それをキッチンで使うような分厚いミトンで掴んで振り回している。

 【保温】スキルの戦い方としては、それなりに考えられているのかもしれない、とエリーは思う。


 ただ、それがレベル(・・・)9()9()9()のすることだろうか?


 こんなのはレベル10か、せいぜいレベル20までの戦い方だろう。


 鉄の棒が顔に目掛けて振り下ろされる。

 殺すなとか言ってなかったかな、とエリーはまた首を傾げた。

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