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10-12. ソファに微睡むヒタチマル(最終章完)

 ヒタチマルは一介のハクビシンである。

 そして、エルフのエリーと、ヒュームのジローに飼われているペットであった。


 ヒタチマルには政治が分からぬ。

 故に、近頃、主人のエリーが駆り出されていた国際問題が、何がどうなって解決したのかもよくわからない。

 心の奥底では大体解っているような気もするが、ハクビシンにはわからないはずであるし。


「キュゥン」


 それを差し引いても、この展開と結果は、よくわからない


 何やら天変地異を起こす外敵がおり、エリーがそれを追い払いに行ったとか、狩りに行ったとか、そんな話だと思うのだが。


「あの子、自分のスキルをハズレだ何だって言ってたけどさ」

「まぁ、【水魔法】がハズレのわけないんですけどね」


 エリーとジローは、ちょうどその外敵であった者について、何やら話しているようであった。


「結局本当は自分のスキルが最強で、自分が世界一強いって思ってんだよね」


 ブーメラン、という言葉をヒタチマルは思い出した。


 【火魔法】使いのエリーも似たようなものだ、とヒタチマルは知っている。

 どうやら地元では森を焼く【火魔法】は危険で使い所がない外れスキルだ、と言われていたそうだが……この主人は実際に故郷の森を焼いたわけだから、何も間違っていない気はする。

 ハクビシンの身ではよくわからないが。


「だから本当の最強を見せてやったわけ」

「ほら、エリーさんも何だかんだ【火魔法】大好きですよね」

「えぇ? いや、普通に嫌いだけど、こんなただ強いだけの、制限だらけの外れ(・・)スキル(・・・)

「うーん。曇りなき眼……輝く瞳……改めて見ても顔が良い……」


ハクビシンたるヒタチマルに、エルフやヒュームの美醜の感覚はわからぬ。

ただ、ジローの目は曇っているな、とは前々から思っていた。

  かくも力に溺れた暴力の化身の濁った目を見て、「目が輝いている」だの何だのと評するのは、流石に身贔屓(みびいき)が過ぎる。


 エリーは出会った時からそんな目をしていた。世を()ねた、無気力で刹那的な目だ。

 いつどうして会ったのかは、はっきりと覚えていないが。


「キュフ」


 エリーのペットとして暮らしていると、何故か外れスキル持ちに絡まれることが多いが。

 彼ら彼女らには緩やかな共通点がある。

 卑屈な割に、妙な自信があるのだ。


 これは一時期大量発生したレベル999のテロリストなどに限らず、普段の生活でたまたま出逢った低レベルの者にも共通していた。

 【豪腕】という無難なスキルを持つヒタチマルには共感しづらいが、どうやら外れスキル歴が長いと性格が歪むらしい。


 外れスキル認定からごく短期間でレベル999に至ったエリーは、そこまで外れ根性が染み付いてない方だと思うが。


「でも、大事にならなくて良かったですよ」


 とジローは苦笑する。


「僕は直接見てませんけど、連合軍も新生魔王軍も、お2人のデモンストレーションで、開戦前に戦意喪失して、なんやかんやで解散しちゃったんですよね」

「そうそう。でも本格的に戦端が開かれる前で良かったよね。ロゼちーが早めに迎えに来てくれたお陰だよ」


 国を沈めるような凶悪なテロリストを「なんやかんや」で放置して良いのだろうか。


 実際に被害を受けたのは今は亡き隣国と、今は亡きフルリニーア王国だけだから、現存する周辺国家にとっては直接の怨恨もなく。

 新生魔王軍の首領も、【魔王】を討った国は滅ぼしたし、フルリニーアについても滅んだ王家以外に遺恨はないと言う。

 個人間では何かしらあるかもしれないが、それは各々で解決するべき話だ。


 ハクビシンに人類種族の政治はわからないので、それで良いのかなど、理解も判断もできないが。


「ロゼちーが話し合いの仲介してくれたのも助かったなぁ」

「リーンさんも、よくそんな素直に矛を引いてくれましたね」

「むしろ戦い自体がどうでもいいってレベルでさ」


 元々不要な争いだったのであれば、起こらない方が良かったのだ。

 それは間違いない。


「エリーさん、今日は夕飯は要らないんですよね」

「うん。そのままロゼちーの家で食べて帰るからね」

「はいはい。では楽しんできてください」

「はーい」

「ローズマリーさんと、リーンさんにも宜しくお願いします」


 だからと言って、そのまま3人で遊びに行くような仲になるのは、やはりハクビシンの感覚では理解できないが。


「きゅ……くわぁ……」


 髭に覆われた口から、小さく欠伸が漏れた。


 やはり、人類種族のことはよくわからない。

 自分はハクビシンで良かった、などとぼんやり考えながら。

 ヒタチマルは、ソファの上で丸くなった。



 おわり。

これにて本作は完結となります。

長らくお付き合いいただき、ありがとうございました。


プロットとしては最大3部構成にできるようにしてあったものの、割と余裕がなくなったこともあり、こちらの最終章では第二部や第三部には繋がらない終わり方に変更されています。

ということで、本作は完全に完結です。

また何かの機会によろしくお願いします。

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