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3/11

 あの夜、私は徒歩で家路についていました。

 その日は残業で退勤も遅く、時刻は深夜0時を回った位だったと思います。

 さっさと家に辿り着きたかったのですが疲れていた私は足取りも重く、靴を引きずるようにずりずりと歩いていました。

 場所は住宅街。

 月も星もなくほとんどの家の灯も消え、ポツポツと位置する街灯だけが頼りでした。


 一本の街灯の下に着いた時、私はギョッとしました。

 街灯の灯りに照らされ女性がうずくまっていたのです。

 疲れていた私は直前まで女性に気づきませんでした。


 暗い夜道、女性に声をかけるのは躊躇いがありました。

 しかし女性は苦しそうに何やら唸っています。

 このまま放っておくのも、また憚られました。

 私は勇気を出し、どうしましたか大丈夫ですかと女性に声をかけました。


「顔が……顔が……」


 女性は顔を両手で押さえしきりに唸っています。

 これは何か事件に巻き込まれたのかもしれない。

 私は救急車を呼びます、と女性に声をかけポッケからスマホを取り出そうとしました。


 すると女性はすっと立ち上がりました。

 さっきまで顔を抑えていた両手をだらりと下げ、顔は俯いています。

 私は狼狽えましたが、やはり女性が心配です。

 大丈夫ですかと再び声をかけようとしたその時、女性がぐるんと 私に顔を向けました。


 血の気が引きました。

 女性の顔は普通ではなかった。

 目、鼻、口のパーツが異常に大きい。

 通常サイズの2倍は、 あったのではないかと思います。

 しかしそれだけではありませんでした。


 目、鼻、口のパーツが、その輪郭の中でブルブル、ブルブルと振動しているのです。


「カオガ……カオガ……カオガ……カオ……カオ……カオカオガ……カオ」


 私は後退りしました。

 それを見た女性の口角が上がりました。

 笑っていたのかどうかは分かりません。

 彼女の口角が上がると同時に、眉間には深い深い皺がみるみる刻まれていったからです。


 私は恐怖で叫び声を上げその場から逃げました。

 自宅とは逆方向です。

 住宅地を走って走って走った結果、私は自分のいる場所がどこか分からなくなってしまいました。


 相変わらず暗い夜道。

 心細くて仕方ありませんでした。

 その時、行く先に灯りが見えたのです。

 交番でした。

 私は少し安心しながらも足を早め、交番に飛び込みました。


「どうしましたあ?」


 警官のやる気のない声が聞こえました。

 顔はそっぽを向いています。

 ここに来て私はどう説明したものか困りました。

 ありのままを説明すると変に思われるかもしれない。

 しかしこの時の私は恐怖の方が勝っていました。

 とにかくこの警官に傍にいてもらいたい。

 その一心で、先程あった事を説明しました。


「そうですか、それは怖かったですね。家の場所分かりますか? 落ち着いたらお帰りくださいね」


 警官は私の話に呆れたのか、こちらを向かず椅子に座ったまま適当に答えました。


 悲しかった……でも。

 警官の態度には腹が立ったものの、背に腹はかえられません。

 必死に訴えました。


 するとスッと警官が立ち上がりました。

 腕をだらりと下げ、顔は俯いています。


「もしかしてそのカオ……こんなカオ……じゃなかったですか?」


 警官がぐるんとこちらを向きました。

 私は息を呑みました。


 全然違う顔でした。

 一見普通に見える警官の顔でしたが、顎が異常なほど鋭利に尖っていたのです。


「全然違う顔ですううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅ……」


 私は泡を吹き気絶してしまいました。




「大丈夫ですか?お兄さん大丈夫ですか?」


 私は男性の声で目を覚ましました。

 声の主は紛れもなくあの警官。

 しかし鋭利だった顎は跡形もなく引っ込んでいました。

 心配する警官を置いて、私は急いで交番を後にしたのです。

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