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2/11

 これは私が本当に体験した話です。



 その時の私は激務で身も心も疲れ、深夜にようやく帰宅できた所でした。

 食事をする気力もなく、せめて水分だけでも取ろうと冷蔵庫を開けた私。

 その時でした。


「君を呪うね」


 え?……耳を疑いました。

 聞こえてきたのは冷蔵庫の中からです。

 当たり前ですが冷蔵庫の中に人なんかいません。

 一瞬怖くなりましたが、すぐに思い直しました、気のせいだろうと。

 私は冷蔵庫からコーラを取り出しベッドに腰かけました。

 これを飲んだらこのまま寝てしまおう。

 私はペットボトルの蓋を捻りました、プシュッ――


「君を呪うね」


 開けた瞬間ペットボトルの中から聞こえてきた、と思います。

 男性とも女性ともとれる、高く軽やかな声。

 私は固まってしまいました。

 そんな馬鹿な……。


 しかし私はここでも思い直しました。

 相当疲れているんだ私は、と。

 その日はそのまま寝る事にしました。

 着替える気力もなく、ネクタイだけを外したスーツ姿のままです。

 やはり少し怖かったため部屋の電気は点けっぱなしでしたが、疲れていた私はすぐに眠りにおちました。



 翌日、私は気のせいではない事に気付きました。

 確かに声は聞こえるのです、それも頻繁に。

 例えば朝、ポットからお湯を出した時。

 出勤の車でエアコンを付けた時は吹き出し口から。

 仕事中もです。

 プリンターから書類が吐き出された時。

 昼食のパンの袋を開けた時。


 一番辛かったのは電話対応です。

 必ずあの声が入り込むのです。

 午前中は一対応につき一回、声が混ざる程度でした。

 しかし時が経つにつれその頻度は上がり、夕方になると電話中常に声が聴こえるようになっていました。


 私の妄想ではありません。

 声は電話の相手にも微かに聞こえるらしいのです。

 後ろで誰かが何か言ってるけど大丈夫?と、電話相手から心配をされる始末でした。


 私は気が狂いそうになりました。

 しかし激務は容赦なく押し寄せてきます。

 私は神経を削られ続けながら、夜遅くまで仕事をしました。



 深夜、一人暮らしの部屋に帰宅した私はフラフラでした。

 心身ともに限界でしたが神経だけは過敏。

 いつまたあの声が聞こえてくるかとビクビクしていました。


 ベッドに座り頭を抱える私。


 ギシッ……。

 私のすぐ隣に誰かが座った音でした。


「君を呪うね」


 ガリガリに痩せ汚れた長い足、が目に入りました。

 私は恐怖で血の気が失せました。


「君を呪うね」


 尚も声は繰り返します。

 私は怖くて怖くて隣の存在をしっかり確認する事は出来なかった、ごめんなさい。

 しかしうっすら横目に入る姿からも、それが普通の人間ではない事が分かりました。

 顔が丸いのです。

 いや、あれは球体そのものといっていい。

 痩せ細った体に目鼻口が付いた球体が乗っている、そんな感じでした。


「やめてぇ!」


 私は恐怖に耐えられず叫んでしまいました。

 どうか呪わないで、という願いを吐き出しました。

 しかし奴にはそんな気持ちは理解出来なかったのかもしれません。

 軽やかにまたあの言葉を口にしました。


「君を呪うね」


 私は必死に叫びました。


「やめてぇ!やめてやめてやめてぇ!」


 それでも声はやみません。


「君を呪うね」


 私は叫びます。


「やめてぇ!やめてやめてやめてぇ!」


 こんなにお願いしているのに……それでも駄目でした。


「君を呪うね」


「やめてぇ!やめてやめてやめてぇ!」


「君を呪うね」


「やめてぇ!やめてやめてやめてぇ!」


「君を呪うね」


「やめてぇ!やめてやめてやめてぇ!」


「君を呪――」


「やめてぇ!やめてやめてやめてぇ!」


「君を――」


「やめてぇ!やめてやめてやめてぇ!」


「き――」


「やめてぇ!やめてやめてやめてぇ!」


 気付けば私は気を失っていました。




 その後私はいたって普通の日常を送っています、表向きは……。

 私は呪われてしまったのでしょう。

 あれ以来、私の頭の中では常にあの声が鳴り響いています。

 仕事中も休日も、そして夢の中でも……。


 ――やめてぇ!やめてやめてやめてぇ!


 あの時の私の声色そのままに鳴り響くのです。

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