もし明日隕石が落っこちて人生最後の日になったら
『一晩寝たら隕石が落ちようとしていた件』
五月下旬、平日のとある日である。
俺は今日も高校に通っていた。快晴で夏が近づいているのか半袖でも熱く感じる。
学校に到着し、教室に入ったあとは、いつも通り友達と他愛もない話に付き合い、授業が始まった。今日は一限目から四限目まで教室で授業を受けた。
教室の中は風通しがよく涼しい。つまらない英語の授業を片目に外では体育をしている人たちの声がして、いっそのこと外で体育でも悪くないなとか思いつつ、四限目が終わるのをひたすらに待った。
正午過ぎに四限目の授業が終了し、俺は友達と食事を共に過ごした。他のクラスメイトも同じように友達と食事したりおしゃべりしたりしている。
「何ぼおーとしてんのよ、亮平くん」
そう話しかけてくるのはクラスで人気の女子、向日葵若葉だ。今日も頭のアホ毛がピョンピョン跳ねている。そして、お手製の弁当のタコさんウインナーを食べている。女子力が高いなあと思いつつ、俺もお手製(冷凍食品)のおかずを口にしながら、
「なんでだろうね、疲れてるのかな」
と、あまり感情を含まない返事をした。実際疲れているのには事実だったのでそう返すのも仕方がないのだが、若葉を含むほかの友達はそう返したのが意外だったらしいのか、
「大丈夫?保健室行く?」
と、隣にいた野中和が心配しながら聞いてきた。まったくー、心配性なんだからー。
「大丈夫だろ。会原はそんなやわじゃないはずだ」
そう返すのは飯山肇だ。冷静かつドライに返した言葉には反感を買うぞーと思いながら白米を食べようと口を開けた。そしたら案の定若葉が「それは冷たくなーい?」などどすこし苛立ちながら言うので、俺は何とか授業に疲れただけだからと、なんとかつきそうな火を鎮火した。
そしてまた、他愛もない話に代わっていく。これもいつも通りだ。結局これが一番居心地がいいのだ。
だから、突拍子もなく若葉が変わった質問をした時は正直驚いた。
「そういえばなんだけど、もし明日巨大隕石が墜落して人生最後の日になったらどうする?」
「どうするって。ついにこの暑さで頭がやられたか?」
「やられてないっての!ただ急に気になっただけ」
その急がなぜ訪れたのかは不明だが、なるほど彼女はとてもとても暇らしい。そして突拍子もなくへんてこりんな質問をしたに違いない。そうであってほしい。
「んー。私はやっぱり好きなものをたくさん食べたいなー。あとは友達に最後の挨拶をして、最期は家族と過ごしたいかなー」
なるほど、若葉は欲にまみれているらしい。
「僕はいつも通り過ごしたいな」
なるほど、飯山は欲が少ないらしい。
「むにゃむにゃ…」
なるほど、隣にいた友達の岡島正志は寝ているらしい。どおりで静かなわけだ。
「私はやっぱり亮くんと一緒にいたいなあ」
「和、お前ってやつは…」
リア充爆発しろー、という声が聞こえるが無視する。余談だが俺会原亮平と野中和は付き合っている間柄である。つまりは恋人。カップル。
「んじゃあ、俺も和と一緒に過ごそっかなあ」
「でも、亮平くんなら、「俺の和は俺が守る!!!」とか言いながら巨大化して隕石を投げ返しそう」
「そんなハチャメチャなことできねーよ!」
周りが気にしない程度の大声で俺はツッコミをする。しかし、それよりも何倍の大きさのサイレンがけたたましく鳴り響いた。
『まもなく隕石が墜落します!!!大きさは恐竜を滅ぼした隕石よりもはるかに大きい隕石です。ありがとう皆様。そしてさようなら』
周囲がパニックになる。しかし、すぐに俺の体が光り始めた。ま、まさか、、、
予想は大きく当たり、俺の身体は身長数百メートルの巨人になった。
そして、大気圏に突入している巨大隕石を目の前に、俺は猛々しい大声をあげた。
「俺の和は俺が守る!!!!!」
そして、隕石は俺にめがけて飛んできて、そして、
「起きろっ!」
その声で先生から出席簿でたたき起こされた。時間は四限目。そして今しがたチャイムが鳴った。つまり授業の終わり。
眠い目を擦りながら、俺は授業の挨拶のために立った。そして、いつも通り昼休みが訪れた。辺りはまた騒然とし始めた。
「なに、ぼおーと突っ立ってんのよ、亮ちゃん」
目の前に現れたのはクラスで人気の向日葵若葉だ。
「すまん、寝ぼけてて」
「まったく、無理すんなよ。あと、ご飯一緒に食べよ」
う、うん、力なく返答し若葉たちのほうへ向かう。にしても、俺は何の夢を見ていたのだろうか。
そして、若葉、岡島、和、飯山の五人で弁当やら購買のパンやらを食べた。そして、女体化した俺をどう治すのかとか、明日は部活お休みだからどこか遊びに行きたいとか、そんな他愛もない話をしていく。
そして、会話が一度途切れたとき、若葉が謎の質問をしてきた。
「そういえばなんだけどさ、もし巨大隕石が落ちてきて人生最後の日になったらどうする?」
『隕石墜落阻止イベント』
「ねえ、つばさ」
「なに?朝っぱらから声をかけてくるなんて珍しいな、つばめ」
「明日の夜空いてるわよね?」
「空いてるけど、なんで?デートのお誘い?」
「お前とデートするわけないでしょうが」
「辛辣!もっと他の言葉があったでしょうが」
「まあ、あんたが私をデートに誘ってもバックレるけど」
「お前、最低だな」
「それはあんたもでしょうに」
「最低なのは認めるのな」
「少なくともあんたよりもマシ。それよりも、明日は『Erufu World』の制限時間イベントの日よ」
「えっと、僕あれ最近やってないんだけど」
「私もよ。けど、今回のイベントは前みたいにつまらないイベントとは打って変わって斬新かつ高報酬よ。二人しかいないギルドでも舞えるやつよ」
「それって、ギルド対抗戦か?ガチ勢目の前にして勝てるかよ」
「あんたがガチでやってた時はレベルカンストまで上げて、強すぎるが上にまとめサイトにまとめられた人とは思えないわ」
「それ初耳なんだけど」
「それよりも、このイベントはギルド対抗戦じゃないのよ。全プレイヤー対象イベントなのよ」
「つまり、ギルド云々よりも全員でボスに挑むやつか」
「半分正解。全プレイヤーが力合わせるのは正解。けど、相手は強力ボスじゃないわ」
「なにそれ、じゃあ採集イベント?」
「ザッツライト!つまり、イベント限定アイテムを集めるイベントよ」
「じゃあ、それを売れば高値で売れると?」
「違うわ。今回のイベントのコンセプトは『隕石墜落阻止イベント』よ」
「つまり、アイテムを収集して、それを使って隕石墜落を阻止しようってやつか。そして、多く集めた人には」
「それ相応の報酬が出るわ」
「なるほどな。でも、それって僕必要か?」
「二人のほうが効率いいでしょ?」
「そ、そうか。でも気になることがあるんだけど」
「なによ」
「このイベントに誰も参加しなかったらどうなるんだ?それこそ誰かが掲示板なんかに『隕石墜落阻止イベント』をみんなでボイコットしようなんて言い出したら」
「それは、運営は泣くだろうし、それこそ本当に…」
「おっはー!二人とも何楽しそうに話してたんだ?」
「なんでもないよ」「なんでもないわ」
『隕石墜落ネタで盛り上がった話』
「ルークさん。そして、二人の旅人さんは隕石が落ちたらどうする?」
そう聞くのは酒場にいる髭を生やした四十代くらいのおっさんだ。そして、横にいるのはルークと呼ばれたバンダナを被った十代半ばくらいの金髪緑眼の少女、そして、二十代くらいのラフな格好をした女性と男性の旅人がカウンター席に座っていた。
おっさんはジョッキを片手にビールを飲んでいる。そして気持ちよさそうにルークのほうを見た。
ルークは数秒間悩み、そして、ジョッキに注がれたノンアルコール飲料を飲んだ。静かにジョッキを置くまでは何も話さなかった。
「そうですね。出来ることなら親族と最期を共にしたいものですね。しかし、私はこうして旅に出ることが多い人間。旅先での最期こそいつも通り、こうやって小さな町の酒場に行ったり、観光したり、しずかにテントに寝そべったり、移動中のバイクに揺られたり、そんなところでしょうかね」
「俺は好きなものくらいは腹がはちきれるくらいに食べたいなあ。あとは心ゆくまで遊びつくしたいな」
「もう、そんな欲まみれなんだから、と言いたいところですが、正直あたしもそうかもしれませんね」
「なるほどー、やっぱりみんな思うことは同じなんだな。俺も最期のときには酒を飲みつつ家族と過ごしたいと思うようにな!」
ガハハ、と笑って、豪快にビールをまた飲む。急性アルコール中毒にならないか心配である。
そして、大きな声で周りの人に大声を上げ、どんちゃん騒ぎが、今まさに始まろうとしたとき、ルークが横にいる同行者にしか聞き取れないような小さな声で呟いた。
「まあでも、もし事実これから巨大隕石が落ちて人類滅亡すると聞いた人は、パニックでそれどころじゃないと思うけど」