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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ぽっちゃりが、愛されまして。

作者: 朝風 美葉

お読みいただきありがとうございます。


主はまともな小説を書いたのはこれが初めてです。

内容についても、自分なりに調べて書いていますが、知識は全くのゼロから執筆していますので、間違っている箇所などあれば、遠慮なく言っていただけると嬉しいです。



私立爽燕学園高等部。

今日から私が通うこの高校は、名前の通り燕がモチーフだ。


燕は春になると日本にやってきて子育てをし、秋になると日本を離れる渡り鳥だ。

この学園の創立者は、そんな燕が大好きだったと伝えられている。

燕のように、例え一時は飛び立ったとしても、巣にまた戻ってきてほしい。この学園を末永く卒業生が愛せるようにとの命名らしい。


今日は入学式。といっても四月ではないんだなぁこれが。

この高校は入学式が四月と九月があって、私―越冬 椿(えっとうつばき)―は九月組である。

え、なんで九月の入学になったんだって?それには深ーい事情が…

いや、まぁ、ぶっちゃけますと。

ストレスで暴飲暴食してて入学のことなんてこれっぽっちも考えられない時があった…ってだけ。

暗い話になっちゃうし、折角の入学式は楽しまないと!っていう精神だから、このお話はここでおしまい。

兎にも角にも、今日は入学式。

ここで私の新しいスクールライフが始まるんだ!

意気揚々と一歩を踏み出す。ぷよん。肉が揺れた。

そう、私は――俗にいうぽっちゃり――であった。



入学式が終わって、現在は食堂で至福のご飯タイム。ご飯を食べてると嫌なことぜーんぶ忘れちゃうよね。

食堂のおばちゃんが声を張り上げて、必死に大量の生徒を捌いている。

それを横目にみながら私は、カレーライス大盛と、炒飯大盛を頼んだ。ちゃんとサラダも大盛である。野菜も食べなきゃね!

食堂のおばちゃんに少し不審そうな目で見られたけど、気にしない。黙々と食べることに集中する。

そんな中、こちらをずっと見つめる視線が…なんかこれすぐ横から見られてるような…

恐る恐る振り向いて――仰天した。

そこには般若の面が…って違う違う!!もう一度目をこすってよく見てみると…


なんとも怖い顔のお兄さんが、私をじっと見てきていた。


カツアゲされる!?危機感を抱いた私は、愛すべきご飯たちを守るようにホールドし、臨戦態勢になった。

すると、お兄さんの唇が少し震え、そしてついに…


盛大に噴出した。


私が目を白黒させていると、お兄さんは「っぶっくっく、わ、悪い。あんまり美味しそうに食べてるもんだから、つい見ちまって。別に取りゃしねーよぶふっくくく」と、堪えきれない笑いをどうにかして噛み殺そうとしてる訳だが、終いにはテーブルを叩いて爆笑しだす。

私は必死に揺れからご飯たちを守ったが、その姿にまたお兄さんがさらに大きな声で笑いだす。

笑うと般若の形相も少しは和らいで、親しみやすい印象を受ける。

「っひぃー、腹いてぇ…」

お兄さんがようやく落ち着いてきたようなので、私もようやく重い口を開く。

「気は済みましたか…?」

するとお兄さんが、今度は真剣な顔で、テーブルに頭を衝突しそうな勢いで頭を下げた。

「悪い、気を悪くしたよな。今まで自分の周りに居なかった類の人間が現れて、つい…」

「大丈夫ですよ。よくあることなんで。それでは食べ終わったので、失礼します。」

そうしてトレイを持ち、立ち上がろうとした時、軽く袖を引っ張られた。

まだ何か用があるのかと胡乱げな目を向けると、お兄さんは意を決したように言った。

「お、俺と、友達になってくれないか!!」

私がきょとん、としていると、お兄さんが早口で捲し立てる。

「いやすまん、いきなりこんなこと言ったらびっくりするよな。こんなんだから俺は友達少ないんだ…」といきなり落ち込みだす。

今度は私が堪えきれなかった。

「っふふ、はははは!」

ますますお兄さんの肩が下がったところで、私からもお願いをする。

「いいですよ、友達。ぜひなりましょう。」

お兄さんが弾かれたように顔をあげる。

「本当か!?いや、言っちゃなんだが、この顔が怖くないのか…?」

私は本音を隠すことなくぶちまけることにした。

「最初は般若の面が横にいる!と思いました。けれど話すと面白い方なんだなと思ったので…」

するとお兄さんの顔がみるみる明るくなる。

「ありがとな!これから友達として、よろしく頼む。そういえばお互い名前も知らなかったな。俺は燕 蒼(つばめ あお)。お前は?」

「越冬 椿です。よろしくお願いします、燕さん。」

「越冬な。ああ、敬語いらないぜ?タメだろ、俺ら。」

なんと、ずっと上級生だと思っていた燕さんは、まさかの同級生だった。

これが、私こと椿と、燕さんのファーストコンタクトだった。




それから時は流れ、十二月。

私の美食ライフは順風満帆だった。燕さんとの友達関係もうまくいっている。

そうそう、あれから燕さん以外にも二人ほど、友達ができたんだ。

めちゃくちゃ綺麗な男の子、冬堂 雪(とうどう せつ)くんと、見た目はすごく可愛らしいけど中身男前の女の子、春風 咲(しゅんぷう さき)ちゃん。

でもなぜかこの二人、二人だけだと折が合わないようで、いつもなにかしらいがみ合ってる。大体咲ちゃんが吹っ掛けて、雪くんが淡々とあしらうだけなんだけど。

四人でいるときはそんなことないのになぁ。そこだけが最近の私の悩みです。


燕さんは怖い顔だけど、とても優しい。

私の食べっぷりには笑ったけど、私の体型についてなど一度も話に上ったことがない。

それは雪くんも咲ちゃんにも言えることで。

優しい人たちに囲まれての高校生活は、きっと幸せなことばかりになる――――

この時の私は、そう信じていた。

まさかあんなことになるとはね…



二月。

冬の寒さもますます厳しくなった今日この頃。

私たちお馴染み四人組は、燕さんの家で鍋パをしていた。

なんと燕さん、実は創立者の孫だったそうで。おうちも大変広うございました…


さて、大食いの私だが、なぜか最近食欲がない。全身の倦怠感にも見舞われている。

そんな私を心配して、雪くんが提案して、咲ちゃんも同意(こんな時は一致団結するのに普段は喧嘩するのはなぜ?)、燕さんが快諾し今に至る。

そんなわけで、今日は私のための鍋パといっても良い。

気合を入れて食べようと、怠い身体を見て見ぬふりをして、意気揚々と箸を伸ばした。


――思えば、危険のサインはいつでも出ていた。私が意図的に無視をしていたから、結果的にこうなってしまったのだ――


鍋パも終盤に差し掛かり、そろそろ〆のうどんを投入しようという頃合いだった。

私の身体に、異変が起きた。

目の前が、暗くなっていく。意識が急速に飛びのいていく――

皆が焦ったようにこちらに手を伸ばしてくる。

そこで、意識はプツン、と途切れた。


「椿!!!!」


最後に聞こえた声は、誰の声だったか。




次に目覚めた時、私は真っ白な空間の中にいた。いや、違うな。ここはどうやら病院のようだ。

緩慢な動作で身体を起こそうとし…起き上がれなかった。どうやら筋力が低下しているようだった。

仕方なく目だけを周囲に彷徨わせ、現状把握に努めた。すると、すぐ横に置き時計があるのに気付いた。

――3月9日Am.11:12――

確か、鍋パをした日は二月二十五日。今年はうるう年だから、二月は二十九日まである。ということは、私十三日間も眠っていた計算になる。あまりの事実に呆然としていると、気が付いたら私が目覚めたのを察知したのか、看護師さんが私を見下ろしていた。

「お目覚めですか。貴女は肝硬変が原因で、肝性脳症という意識障害になりました。相当無茶な食事をしていたのだと思います。これからまず、リハビリをして身体機能を復活させ、その後少し辛いでしょうが食事制限とダイエットに勤しんでいただきます。主治医の判断なので、お見知りおきを。」テキパキと看護師さんが治療計画を発表する。

私、痩せてしまうの…?また、辛い思いをしなくちゃいけなくなる。でも、背に腹は代えられない。まだ死にたくない。私にはまだやりたいことがたくさんあるし、まだ、密かに思っている人に自分の思いを打ち明けられていない。

私は、痩せる決心をした。


入院生活は1か月半に及んだ。その間、必死に私はリハビリ及び食事制限とダイエットを頑張った。

そして、今日が最後の体重測定の日。

「54.5㎏です」看護師さんが淡々と記録していく。

部屋に戻ると、主治医が来ていた。

「よく頑張られましたね。身体も随分と健康になりましたから、明日には退院できますよ。お疲れさまでした。」

ようやく、元の日常に戻れるらしい。

だがしかし、この容姿の私が皆に受け入れられるかどうか…


二重で、栗色の大きな瞳。

鼻筋がしゅっとしてて、形の良い鼻と、小ぶりな唇がちょこんとついている。

久々ぶりの実家の、鏡に映る見慣れた自分の姿に、苦虫を嚙み潰した。



私は、顔の造形が整っているほうである、と思う。

しかし、この顔は私の通っていた中学では受け入れられなかった。二学年になって半月経ったところで、気に食わないとクラスのボス的女生徒とその取り巻きが一丸となって、私に多種多様、執拗ないじめを施してきた。

その出来事が原因で、私はストレスからか食べることに夢中になった。そして、自前の「肉の盾」を築き、その中に私の忌々しい顔を封印した。

爽燕学園高等部は、実家からかなり離れたところにある。中学と同じ轍は踏みたくなかったので、高校はできるだけ遠いところにしようと、必死に勉強しようやく入学できたのだ。高校からはもう私の本来の顔を知る人はいない、だから思う存分楽しもうと思っていた矢先にこれである。


四人の親友はこんな自分を見てどう思うだろうか。気持ち悪いと言われたら立ち直れる気がしない。

暗澹たる気持ちのまま、私はついに久方ぶりの爽燕学園に足を踏み入れた。


思い切ってガラリと教室の扉を開くと、教室にいた生徒の視線が突き刺さる。

戦々恐々としながら、私は自分の席に着いた。

すると、後ろから肩をポン、と叩かれた。

「ちょっとごめんね、ここは僕らの大事な子の席なんだ。勝手に座らないで。」

少し冷たさを帯びた、しかし見慣れた声に振り向いた。

そこには。

お馴染み四人組の一人、雪くんが顔を僅かにしかめながら立っていた。

「雪くん…?」雪くんの目が見開かれる。

「その声…椿ちゃん?本当に?」確かめるように肩やら頬やらを触られる。と、すぐに手を引っ込め、

「ごめんね、俄かには信じがたいけど…でもこの声やその態度、まさしく椿ちゃんだ…やっと戻ってきたんだね。一時はどうなることかと…」

そう言って、普段はクールな雪くんが目に涙を溜めてこちらを見る。

「おかえり、椿ちゃん」

そう言って雪くんは花が綻ぶように笑ってくれた。

私もその反応にようやく安心して、ただいまをした。


昼休み、雪くんが咲ちゃんと燕さんを呼んできてくれて、四人で久々の昼ご飯なう。

咲ちゃんは会うなり大号泣しだした。

「っひぐ、ぅう~!」

燕さんは一瞬取り乱した後顔を覆って落ち着き、はにかんで「おかえり、越冬」と言ってくれた。

雪くんが咲ちゃんに鼻をかませて、燕さんが「ほら、春風も」と促す。

少し落ち着いた咲ちゃんが、嗚咽まじりに「おがえりぃ、づばぎぃぃぃ」と言ってくれた。

そんな変わらず優しい皆に応えるために、私も満面の笑みで応えた。

「ただいま!!!」


それから、食べ過ぎで病気になったこと、これからは健康的な食事の量を取るように医師から言われていることをみんなに話した。みんな、真剣な表情で聞いてくれた。燕さんは確認するように、「ご飯は美味しいか?」と聞いてきた。私は勿論だと頷いた。すると燕さんがほっとした表情で、

「良かった。お前の美味しそうにご飯食べるところが俺好きなんだよ。量が減って、至福の表情眺める時間がちょっと減るだけだろ?それなら問題ない」となぜか頻りに頷いている。

雪くんと咲ちゃんが少し呆れたような視線を燕さんに向ける。咲ちゃんなんか小声で「ヘタレめ…」と呟いていた。どういうことだろう…。

ほのぼのとしたこの空気の中、私は恐々と切り出した。

「ねぇ、私のこの顔を見て、何も思わなかった…?」

雪くんが一番に反応した。

「最初は違う人だと思って冷たくしちゃってごめん。でも、どんな姿でも椿ちゃんは椿ちゃんだから。」そういってはにかんだ。

続いて咲ちゃんも元気よくはいはーい!と手を挙げて、

「すっごく可愛くなってるなぁと思った!元から可愛いと思ってたけどね!でも、どんな姿でもあたしはあんたのこと大好きだから!!」

その後、それまで黙って何かを考えこんでいた燕さんが、ゆっくりと口を開いた。

「…綺麗だ。」それだけ言って、バツが悪そうにそっぽを向く。

普段口下手な燕さんが、ようやく口にした言葉。それが、私を認めてくれる言葉だったことが、何よりうれしくて。想い人と親友の前で、私はその場に泣き崩れたのであった。


それから、この顔でいじめにあって以来、自分の顔が嫌いだったことなど、すべてを三人に打ち明けた。

みんなそれぞれ思うことがあったようで、特にいじめの内容の話になった時には雪くんは燕さんくらいに怖い顔をしていたし、咲ちゃんもめちゃくちゃ笑顔な怖い顔をしていたし、燕さんは般若が鬼神並になっていた。話が終わったら、皆にもみくちゃにされた。最高の友達を持てて、私はすごく幸せだ。


さて、さっきから想い人とか言ってるのを気にしている人もいるのではなかろうか。

そう、私こと越冬 椿は、燕 蒼さんにいつの間にか恋をしている。

想うようになるまで、時間はかからなかった。

偶に私にだけ見せてくれる穏やかな顔、口下手で不器用だけど、いつもじっくり考えて言葉を選んでいるところ。

そんな優しいところに、私は惚れていた。

自惚れではなければ、燕さんも同じ想いで居てくれている様な気がする。

後は、どちらが先に踏み出すか。焦れ焦れの攻防戦を、今日も私たち二人は繰り広げていた。

そんな私たちを呆れつつも暖かく雪くんと咲ちゃんは見守っていてくれている。実はこの二人、私が入院していた時にくっついていたらしい。でも、相変わらずいがみ合っているのは変わらない。所謂ケンカップルってやつなのかもしれない。



ある日。なんの拍子でこうなったのか今でもわからないが、今日は燕さんとのデートの日…である。

なんか知らない間に雪くんと咲ちゃんにお膳立てされてたらしい。放課後に燕さんが私の教室にやってきて、「明日二人で一緒に出掛けねぇ?」と誘いに来た。雪くんが後ろの方の座席でニヤニヤしていたので、間違いなく奴らの仕業である。

まぁそこで二つ返事で了承しちゃう私も現金なものだけれども!

そんなこんなで、デートです。


行先はデートで定番の遊園地…ではなかった。どうも燕さんの形相は子供にギャン泣きされるらしく、遊園地にいい思い出が無いそう。

ということで、初デートはカフェになった。燕さんはカッコ良くブレンドコーヒーをブラックで頼んでいる。私はコーヒーより紅茶派なので、アッサムティーを頼んだ。それと、小ぶりのショートケーキ一個を頼む。

美味しいケーキを夢中になって貪っていると、燕さんが行動に出た。

定番の、「クリームついてるよ戦法」である。

燕さんは、私の唇の端に乗っていたクリームをすくい上げ、自分の唇に持っていこうとして… 

ボトン、とクリームを落とした。

そこからは二人でめちゃくちゃ笑った。私たちは、決まりすぎないくらいが丁度いい。


カフェから出て、帰路の途中。暗いから、家まで送ると燕さんが言ってくれたのである。

この角を曲がったら、私の家が近い。そんな所で、不意に燕さんが立ち止まった。

電灯の灯りが逆行になり、うまく顔が見えない。

それでも、雰囲気で分かった。これは、来る。


「越冬…いや、椿。俺と……恋人として、共に歩んでくれないか」


どこか古風な言い方が、この人らしいと思いつつ、私も返事をするために、背伸びをした。


ちゅ…


二人の唇が静かに重なった。五秒ほどだっただろうか。永遠に感じられる時間だった。




こうして、私たちは恋人になった。あの後、名前で呼んでほしいと言われ、燕さんではなく、蒼さんと呼ぶようになった。そんな私たちの変化は早々に残りの二人にバレて、終始ニヨニヨされていた。

これからも色んなことがあるかもしれない。でもその度に、この幸せな日々を思い出して頑張れることだろう。

燕が古巣に戻るように。私たちはどんな時も、あの頃に戻れる。


それから五年後、同窓会の日。

私たち四人は、変わらず笑いあった。

ずっと続いていく友情、愛情。

こんなものが手に入るなんて、昔はこれっぽっちも思わなかった。

入学式の日の食堂での蒼さんとの出会い。それがすべての始まり。

私は、幸せを噛み締めた。

ここまでお読みいただきありがとうございました。


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