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アナスタシア皇女殿下

九話目です。ここまで一気に投稿させて頂きました。次回から一話か二話の更新になります。

宜しくお願い致します。

 田代龍太郎、如月翔、坂下立花、陣野あやめの四人はホテルのスイートと言っても言い程の部屋に案内され、沈みそうなソファーに座る様に促され、高そうなティーカップに注がれた紅茶を飲んでいた。

 四人が素直に紅茶を飲んでいるのは、注がれて直ぐにアンドリュース皇帝陛下が飲んだからである。


 この部屋に着くまでに、アンドリュースの名前も魔術師のレースから聞いたし、田代達も自己紹介を済ませていた。


「僕達を呼び出した詳しい理由をお聞かせ下さい」


 これまでのアンドリュースの対応に四人とも好感を持ったが、自分達を勇者と呼ぶぐらいだ。もしかしたら魔王討伐をしてくれと言われるかもしれない。

 平和ボケしていると言われる国でその名の通り平和に過ごしてきた自分達にそんなことが出来るだろうか?

 この四人は学校でも仲が良く、田代と如月はサッカー部でツートップで活躍しており、校外でも何かと話題に上がるぐらいのイケメンと騒がれていたし、坂下立花は剣道部の美少女剣士として、陣野あやめはアイドル的存在で、ネット配信でも学生アイドルと中々の人気者であったが、魔王討伐に使えそうのは坂下の剣道の技ぐらいではないかと思う。

 田代がそんなことを考えていると、アンドリュースが徐に話し出した。


「実は我がライソン帝国は隣国と因縁があるのだ」


「隣国、ですか?」


「10数年前まで、我が国と隣国のヴェズリー王国は同盟まではいかないが友好的な間柄であった。しかし、今のヴェズリー国王が即位してから変わっていった。精霊が住み、精霊術を使える精霊術師を抱えた王国は、明らかに我が国を見下す態度を取ってきた」


「精霊術とは、そんなに凄いものなのですか?」


 ファンタジー好きの坂下立花は思わずアンドリュースに話し掛けた。


「わたくし一般魔術師の力を1とするなら、精霊術師は3の力を有します。現在精霊術師のトップである氷結の精霊術師は5の力であると推測されています」


 アンドリュースの後ろに控えていたレースが目を伏せながら唇を噛み締める。


「レース、余はそなたの働きに満足しておる。これからも無理せず頼む」


「陛下っ」


 あまりの力の差に田代達は驚きながらも、アンドリュースとレースの会話にホッコリとした気分になる。


 そこからは宰相であるタナトスも説明に参加した。


「前皇帝陛下は優しき方でありましたが、王国の精霊術に屈する考えを持った方でした。国の為に戦争を回避すると言えば聞こえは良いですが、下手すれば王国の属国扱いに転じてもおかしくない程の怯えた政治をされておりました。そして友好の印に第一皇女殿下、現陛下であるアンドリュース陛下の姉君を王国へ嫁がせる策を取ったのです」


 タナトスは一旦言葉を切ると話を再び始めた。


「アンドリュース陛下は勿論反対しました。私の父である前宰相も。しかし高位貴族の意見は真っ二つに割れ、それをご覧になっていたアナスタシア様は自ら嫁ぐことをお決めになったのです。アナスタシア様は国民をとても愛されていた皇女殿下でございました。弟君であった陛下とも仲良く、私も学生時代は本当に大事にして頂きっ……」


 そこでタナトスの言葉が詰まる。悔しそうに拳を握るのが見えた。


 田代はタナトスの様子に嫌な予感がした。


「あの…そのアナスタシア皇女殿下は…」


「姉上は王国に殺されたのだ」


 アンドリュースの言葉は田代の予想通りの答えであった。


 帝国の皇女殿下と言うことで、ヴェズリー国王の正妃として嫁いだが、子が出来ないとして待遇が悪くなっていったらしい。

 しかし皇女殿下からの手紙(王国の検察済みであるが)、暗号化された内容によれば、白い結婚、つまり、子が出来ない以前に、ヴェズリー国王は皇女殿下を無視して、側室を寵妃とした。

 アンドリュースは前陛下である父親にアナスタシア皇女殿下を戻す様に進言したが、前陛下は日和見、その半年後に皇女殿下は病死と発表される。

 皇女殿下に付いていた侍女達が、国葬もされず極秘に埋葬された皇女殿下を泣きながら掘り起こし、保存魔法で遺体をライソン帝国に連れ帰った。そして検分したところによると毒殺だということが分かったそうだ。


 ここまでの話で坂下立花と陣野あやめの拳に力が入る。

 坂下立花と陣野あやめは自分に自信を持っている。

 仲良しグループの田代龍太郎と如月翔もそんな二人を尊重し、決して女だと馬鹿にせず対等に思っていてくれる。

 だから尚更女性を見下した態度には腹を立てる。


 四人はアンドリュースの話を漏らさず聞こうと慎重になる。


 皇女殿下はその後、ライソン帝国で国葬され、皇族の墓で眠りについた。

 当時皇太子であったアンドリュースは、怒り狂い単独で国境に向かったそうだ。


「余も若かったのでな……」


「あの時程肝を冷やしたことはありませんよ。御身がどれだけこの国と国民にとって大事か自覚して頂きたい」


「もうよいではないか、又何時間もベッドで説教されたくないぞ」


 腐女子の坂下立花の目が光る。


「ベッドで……?」


「あー…不甲斐ない話なのだが、あの時精霊術師に焼かれて死にかけたのだ」


「「「「ええ!?」」」」


「誤解しないで頂きたいのですが、陛下は剣技に関しては素晴らしい才能とスキルを持っているのです。相手の懐に入れば陛下に敵う人間等殆どおりません」


「余が国境付近に着いた時

 、男達が馬車の中で泣いている女、子供に怒号を浴びせているのが見えた。国境付近には村は無いが、容貌から見て帝国民であるのが分かった余はそのまま剣を抜いて向かった。男達の言葉には王国訛りがあり、余は怒りが頂点に達したのだ。一人を残して切り捨て、そいつに問い詰めれば王国軍からの依頼で帝国民の女、子供を村から無理矢理連れ去ったと言うではないか。その男を捕縛し、縛られている帝国民を自由にして馬車を村に向かわせたまでは良かったのだが、そこに精霊術師が現れた。余は多少の精霊術であれば剣技で跳ね除けられるが、現れたのは氷結の精霊術師だった。余は攻撃を喰らいながら命からがら逃げ出したのだ。情けないがな」


「情けないなんて思いません!貴方は立派な方です!」


「そうだよ!俺だったら一人で敵国になんて行けねーよ!すげぇよ、陛下は!」


 田代と如月が声を上げる。


 如月の言葉に田代が「不敬だろ!」と慌てて言うが、アンドリュースは笑って「よい」と告げる。

 心の広さに田代達四人の陛下への好感度がグングン上がっていく。


「陛下は大火傷を負いながらも村の無事を確認し、村で馬を借りて城に戻って来られました。そしてそのまま意識を失われたのです。本当に私は生きた心地がしませんでした。レースが回復術を掛けるのが遅ければ、陛下は今ここに居られません」


「ぐっ……説教はもうよいぞ、タナトス」


「おや、それは残念。私としては又一からお話させて頂いても良いのですがね」


「レース、助けてくれ」


「わたくしもあの時の陛下には申し上げたいことがありますが?」


 言葉を詰まらせ肩を落とすアンドリュースに田代達四人は思わず笑ってしまう。

 それも不敬とはされず、アンドリュースは「参ったな」と言いながら頭を抱えた。


 それから田代達四人は自分達にスキルがあるかを、レースと共に確認することになった。


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