ホラーじゃないですよね?
五話目です
庭に居るデカい犬達といい、きっと調べてはいけない謎の結社、組織なんだろう。
何処に監視カメラがあるのか、いや、カメラで見ていたとしても早過ぎるし、誰も配達に来ていないと思う。
深く考えてはいけない。
考えたら消される。
俺はトレーを取り出してガラステーブルに置き、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出しておき、蛇口を捻って手を洗った。
風がどこからとも無く吹き、洗った手が即座に乾く。
考えていけない。
俺は未知なる力を感じながら、ぎこち無くラーメンと半炒飯を完食した。
味は美味かったと思う。
多分。
ちょっとビビって味を楽しめなかった。
毒に関しては心配しなかった。初日から殺すことはしないだろう。
もし死んでも祖父母に会えるならいっかと思ってる。
腹心地が落ち着いたら早速仕事を開始する。
テレビでバケツや雑巾、洗剤、ハンドクリーナー、食器用洗剤、キッチン用スポンジを注文。
これも直ぐ来た。
もう、そういうもんだと思っておこう。
食べ終わったラーメンと炒飯の器を洗い、取り出すと同時に点滅が終わった電球を見ながら扉を上にスライドさせる。
何もない棚に洗った器をトレーに乗せて扉を閉める。
電球はピカピカと2度光って消えた。扉をスライドして確認すれば、予想通りにトレーと食器は消えていた。
ふと台所のシンクに目をやると、食器を洗って濡れていたシンクは既に乾いている。
正直に言えば、俺はホラーが苦手である。
ふと訪れた家や土地で理不尽に恐ろしい目に合うのが怖くて仕方ないのだ。
だからそんな目に合わない様に、近寄らない様に、ネットで心霊スポットだの都市伝説だのを調べまくった時期もあった。自覚している。
俺はビビりなのだ。
今も普通では考えられない現象と状況にビビっている。
しかし今正に俺を監視して楽しんでいるだろうと思われる相手にビビった姿を見せたく無いし、面白がられてもっとビビるような状況にさせられても困るので、俺は仮面を着けるかの様に表情を無にした。
そう言えば都市伝説に『小さいオッサン』なるものがあった。
ネットによれば妖精らしいが、もしかしたらその『小さいオッサン』がシンクを綺麗にしたかもしれないし、ラーメンや炒飯も届けてくれたかもしれない。きっと小さいから配達している姿を見逃したのかもしれない。
それに『小さいオッサン』なら怖くない。
そう考えたら少し落ち着いた。
さて、そうとなったら仕事を始めるしかない。
1日1回と書いてあったが、時間は書いていなかった。
箱庭の汚れ具合によってはかなり時間がかかるかもしれないが、拉致られる前まではサービス残業を含めれば1日の大半を会社で過ごしてきた日々よりはゆっくり出来るだろうと思う。
掃除用具を持って、箱庭の部屋へ向かう。
注文したハンドクリーナーは500円玉も余裕で吸える強力タイプだ。
これであの黒いのを吸い取ってみよう。
箱庭を覗いてみる。
匂いは無い。
ハンドクリーナーを選んだのは、その黒いものが霧か靄の様に見えたからだ。
さぁ!500円玉も吸い込むパワーを思い知れ!
ヴォォォォォォオオオオオ
え?何か変な音、不良品?
しかし俺の気持ちとは裏腹にグングン黒いものを吸い込んでいくハンドクリーナー。
箱庭の周りを移動しながら黒いものを残らず吸い尽くすと箱庭内部の全体が見れた。
縦幅約1m、横幅約2m。入り口ドア側と丸い球側に分けて説明すれば、ドア側寄りに直径30cm程度の島っぽい物がある。周りは青なので多分海を表現しているのだと思う。
その島の中央に尖った山があり、その山を囲むように木々が密集して生えていた。
箱庭の大部分が青い海で、島の反対側、つまり白い球側に崖の様な物が置いてある。
2時間ドラマで犯人が刑事に追い詰められそうな崖だ。