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『強制支配』のシステム

「何で最近の蝿は活気づいてるんだ?」


 与えられた王宮の一室で、キースは部屋の隅に氷弾を打つ。


「グッ」


 声と共にその場に現れた黒衣の者に、キースは小さな氷弾を幾つか打つが先程とは違って肩に突き刺さらず、身体の節々を固定させ、更に口の中では上下の歯が閉じるのを阻害する様にパリパリと氷の根を張っていった。


「お前らみたいなのは直ぐ自害するからなぁ」


 面倒くさそうにキースは近付き、ローブで覆われた顔を露わにさせると「ほう」と息を漏らした。


「お前、魔族か。授業では習ったが、本物を見るのは始めてだ。この肌、角といい、正にファンタジーだな……ふむ、実に良い」


 顎をすくい上げ舐める様に見詰められた魔族の間者は、以前の記憶を思い出す。

 他の種族より保有する魔力が多い魔族だが、圧倒的に数で勝る某国の人族に狩られていた。

 ライソン帝国に保護されたが、同族が狩られて陵辱を受けたり処刑されたりしたことを昨日の事の様に記憶している。

 キースの目にその人族と同じものを見付けた魔族は、必死に藻掻くが自害は疎か、動くことが出来なかった。


(陛下……申し訳ありません)


「まぁ良い、美少年なら兎も角、美形でもお前みたいな筋肉質に食指は動かん。見てるだけならいいが、それ以上のことはするな」


 キースは身体を拘束していた氷を溶かすと、追い払うように手を振った。


「ああ、お前達魔族はどれくらい残ってるんだ?魔女狩りに合ったんだろ?」


 魔族が疑問に思ったのが分かったのか、キースは言い直した。


「魔女狩りじゃなくて魔族狩りだったな。安心しろ、俺はファンタジー世界の絶滅危惧種には寛大だからな」


 再び手の甲を向けヒラヒラと動かすと、魔族の姿は掻き消えた。


 さて、今日は誰を抱こうかと思いを巡らせて、そういやあの帝国人の女は中々具合が良かったと思い出す。

 以前帝国から連れて来られた子供が、娼館で見目良く育った。

 アナスタシア程の美しさでは無かったが、思い出の中にあるアナスタシアの身体付きに似ていた。

 自分専属にする様に娼館側にも言いつけ、娼館側も国内、いや世界最強と言われる精霊術師には逆らえなかった。


 キースは従者にその女を連れて来る様に命令すると、懐に仕舞っているハンカチーフを取り出す。

 帝国の紋章と国花の刺繍が施されているハンカチーフだ。

 保存魔法が掛けられたそれは美しい形を保っており、十数年経っても仄かに香水の香りがする。


「アナスタシア……」


 キースがウットリして匂いを嗅いでいた時、身体に異変を感じる。


 以前『配分』した『強制支配』が一人分戻って来たのを感じたキースは自身のステータスを目の前に出す。


 キース・マダカル(41)


 精霊術師


 HP5686/5690

 MP32000/32000

 STR―D

 DEX―A

 VIT―A(風壁使用中)

 AGI―D

 INT―A

 LUK―B


 スキル『精霊術』『分配』『強制支配』


 支配下の精霊―風、氷、土

 分配中―『強制支配』


 サリカニール、ザクト、ドンウォン、ナトリュム


「土の精霊が支配下に入っている。モックが死んだのか?」


 確かモックはサリカニールと砦に向かうと報告があった。


 キースは打算的なモックが嫌いでは無いし、暗殺のバイトをやってることも知っている。

 と、すれば暗殺された側に何かされた可能性もある。

 しかしキースは全く焦らなかった。

 ステータスを見ればモックが支配していた土の精霊が自分の支配下に上がって来ている。


「自分で捕まえてなくても手に入るんだな。これは知らなかった」


 それが分かった以上、キースがやることはモックの生存確認である。


 部屋の外に居る騎士にザクトとドンウォンを呼ばせ、のんびりとやって来た二人に砦に向かう様に命令を出した。


「え?モックが死んだかもしれないって、マジっすか?」


 金剛精霊術師団は全てキースの同級生であり、今喋ったザクトも既に嫁いだ娘が産んだ孫が居る男ではあるが、学園卒業後もキース以外の金剛精霊術師団員の上の存在は一部しか居らず、口調を改める機会も無かったので、未だに学生時代の口調で話している。


「俺の支配下にモックの精霊が入った。何かあったと思う。調べて来てくれ」


 それを聞いてザクトとドンウォンは、団長が更に強くなったのかと心の中で恐怖した。

 キースが支配している風と氷の精霊は中級精霊で、自分達の低級精霊とは格が違うのだが、そも低級精霊だけでも一般魔術師を凌駕する力が使えるのだ。

 更に化け物になったキースの命令に、ザクトとドンウォンは直ぐ王宮を出発した。


 キースは先程の魔族の気配が部屋の中から全くしなくなるのを感じたが、長年俺TUEEEEをやって来たキースにはどうでも良かった。

 少しだけ次の魔族は美女か美少年を寄越せと言うのを忘れたことに後悔しただけだった。




(なんて事だ!早く知らせなければ)


 キース担当の影こと、エリヤは魔族特有の黒い小さな伝魔長を砦に居る仲間の魔族に送った。

 この伝魔鳥は帝国人が使う通常の青い伝魔鳥を改良したもので、魔族にしか使えない。色は黒く小さいので伝える言葉は少ないが、その分青い伝魔鳥より倍速である。



 エリヤが放った黒い伝魔鳥は砦に待機していた魔族に届けられ、ミスオからフォーグにも伝えられた。


「まさか精霊が氷結の奴の元に行くとはな。術師から精霊が離れる条件がいまいち分からんな。あの男はまだ生きてるのだろう?」


「はい。しかし突然泣き出して「精霊が居ない」と喚いたので、その時ではないかと。完全に心を折った時でしたので、そのことが原因かとも思われます」


「『強制支配』を『分配』して貰ったと言っていたな。ったく、厄介なスキルだ。これでは女の方を帝国に移送出来んな。王国から離れたら精霊が離れるかもしれん」


「その可能性はあると思いますが、タシロ殿の『結界』で女を囲って貰いますか?」


「成程、しかし万全を期したい。これ以上氷結の奴に強く成られては困る。これから此方に向かって来る精霊術師には、少しだけ希望を持たせておけ」


「御意」


 ミスオが部屋を出るとフォーグは椅子の背にもたれかかった。


 心配であったマッシモは既に回復し、再度砦近辺の捜索、魔物討伐の任務に当たっている。砦の壁もゴーレムによってほぼ解体されているので、マッシモの隊には以前の倍のゴーレムをつけた。

 過保護と言われようが、妹の婿候補であり、自分のお気に入りであるマッシモを二度とあんな目に合わせたくない。

 自分がマッシモの看病の一端に関わったことを見せ、如月の心を少し追い込んだのも、前線に向かうことに躊躇させない為だ。


 予想通り如月は田代と坂下を連れて精霊術師と対面し、見事に(ゴーレムの働きが大きかったが)二人を捕縛して来た。


(女が闇、男が土の精霊だったな。次は何の精霊術師だ。又勇者殿に活躍してもらわんといかんな)


 フォーグは如月に新たに精霊術師が二人来ることを伝魔鳥で伝えるのだった。



如月「癒しが足りない」


アンドリュース「タナトス、カケルの担当の侍女を砦に向かわせろ。余の感がそう言っている」


タナトス「は?」

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