犬と戯れてみよう
本日一話目です
ツラい、しんどい、
これ何だろうな。
マスクしてるからあの黒いモヤモヤを吸ってはいないはずなのに、色違いの大陸の箱庭になってから掃除が進まない。
まるで放置されたゴミ溜めの中を歩いている気分になる。
ミネラルウォーターを飲んではトイレで吐き、又ミネラルウォーターを飲む。
こんな絵面、視聴者も見たくないだろうに。
テレビの部屋に戻るとホッとする。
猫さんが心配そうに口だけ開けて鳴く。
あれって声が出てないけど、人間の聞こえない周波数で鳴いてるんだっけ?
ソファーにうつ伏せで倒れ込んだ俺の後頭部に肉球がフミフミと押し当てられるが、撫でるのはもう少し待って欲しい。
あぁ、もっとミネラルウォーターを飲まなきゃ……
いつの間にか寝ていた様で、目を覚ますと庭の窓から赤い陽射しが穏やかに部屋を照らしていた。
「やばっ、もう夕方かよ。掃除、30分ぐらいしかしてないのに」
俺は慌てて箱庭の部屋に戻ったが、箱庭の中身が変わっていた。
白い球に新しく貼り付いたものも無い。
まだ掃除が途中だった箱庭の中身は別の中身に変わっていた。
「俺が掃除を中断して眠ってしまったからか?」
新たな箱庭を見てみると、朝掃除していた箱庭より黒いモヤモヤの層が薄い様な気がする。
なるほど、まだ極厚の黒モヤには太刀打ち出来ないんだな、俺の掃除レベルは。
スタッフも視聴者もガッカリだろう。
いや、逆に「こいつ又振りだしに戻ってるぜ(笑)」みたいな感じかもしれない。
俺としては猫さんと戯れられるこの生活を逃したくない。
しかしこのまま約立たずで面白くないと判断されれば解雇されるかもしれない。
俺はあることを思い付き、取り敢えずキツさが軽めになった箱庭を掃除するのだった。
そして翌日、チャッチャと箱庭掃除を済ませ、俺は庭に出る準備をする。
きっと庭の状況も視聴者に配信されているはずだ。
当然俺がダンプカー犬をおざなりにして、猫さんばかり構っているのも見られているはず。
世の中には猫派と犬派が居るが、ほぼ互角だと言われている。
つまり、犬派にとって俺の行動は面白くないはずだ。
ならば点数稼ぎに犬と戯れてやろうじゃないか!
しかしそれには防具が必要だ。
俺は剣道の防具を注文した。
勿論剣道の経験は無い。
当然付け方が分からないので、ネットで付け方を検索し、やっとのことで身に着ける。
頭の部分だけでもフルフェイスのヘルメットにすれば良かったと後悔した。
これなら少々噛まれても……足ぃ!足が無防備じゃないか!!
足の防具で検索すると何か中世の騎士が着けてそうな銀色の重たそうな足用の防具があった。
試しに購入して着けてみる。
歩きにくっ!
いや、走ったりしたら追われるかもしれないからドッシリと構える為には良いかもしれない。
俺は上:剣道防具、下:中世騎士防具で庭にそっ~と出てみた。
バランスボールで遊んでいたダンプカー犬が二頭共に俺を見て首を捻っている。
構わず俺はダンプカー犬を迎え入れるように手を差し伸ばしてみた。
ダンプカー犬はゆっくりと近付き、徐々に尻尾を振り出した。
あ、ちょっと、君達、風が巻き起こってるから!
そういや名前は何て呼べばいいんだろうか。
ダンプカーじゃあまりにもネーミングセンスが無さ過ぎだろう。
それよりめっちゃ匂い嗅がれてるんだけど、そんなに俺臭い?
つーか、顔デカいよ。
でも以前より怖いと思わなかったのは、犬独特のあの鳴き声?
鼻で鳴くようなキュ~ンみたいな声を出して伏せをしてるから。
「ごめんな、今まで構ってやれなくて」
何故かそうダンプカー犬に言っていた。
因みに猫さんは俺の足元に居る。
大きくてもこんな感じだと可愛らしいな。防具とってみるかな?
俺はいそいそと剣道のお面から取ることにした。
やっぱ顔を先に見せて犬を安心させたい。
外した瞬間、ダンプカー犬二頭は驚いて目をシパシパと瞬きさせると一気に5m程距離を取って尻尾を股の中に入れてしまった。
「え?何で?」
めっちゃキュンキュン鳴いてる。何で怖がってるの?
俺の顔が怖いの??
酷いショックを受けているとフワフワとオーブが近付いて来たので視線をそっちに向けるが、オーブも弾かれた様に霧散した。
そうか、そんなに俺の顔は醜悪なのか。
今まで単なるモブ顔と思っていたのに、知らなかった個性を持っていたんだな………って、違ーーう!!
こんなんじゃ親睦測れんだろうが!
それより何か心が痛い。
俺は涙目で家の中に戻った。




