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光龍は何処へ?

本日二話目です

 島にある山肌に身体をぶつけたと思えば海に潜ったりと、忙しない光龍を見て、あれは自分達には荷が重過ぎると考え、辺境伯領に戻り皆に見て来たことを伝える。


 それを聞いて、坂下立花は最近開発した魔道具が使えないか皇都に居るイズムへ伝魔鳥で即座に連絡した。


 強力な精霊術に対抗する為に、田代のスキルである『盾』の魔力をレースが魔方陣として魔石に刻み込んだのだが、その後、その魔石を使った【結界】の魔道具を編み出したのだ。

 その魔道具に現在魔石から魔力を抽出している【抽出】の魔方陣を刻み込めれば利用出来るか?と坂下立花はイズムに問い掛けてみたのだった。


 伝魔鳥はレースが作った青い小さな鳥の姿をした伝達魔術であるが、遠く離れたイズムの元へ即座に届き、イズムからその返信も間もなくして坂下立花の元へ届いた。


 それからは田代が活躍した。

 田代のスキルでイズムと職員数名、それと魔道具をとんぼ返りで辺境へ持って来て作業を始めた。



 島の東西南北に【結界】の魔道具を配置し、暴れる光龍を大人しくさせる為、魔力を吸い取ろうという作戦だった。

 吸い取られた魔力は一旦辺境伯領で鉱石に溜められ、それを定期的に皇都へ送るようにした。


 作戦は上手くいき、光龍は【結界】の魔道具が四方に設置され作動すると眠るように山に降りて行った。

 魔道具その物は魔力を抽出しながら、その光龍の魔力によって作動するので、魔石内の『盾』と【抽出】の魔力も無くなることがない。

 その鉱石は魔導石と呼ばれ魔石と共に多目的に使われることになった。

 代表的な物がゴーレムだった。



 順調だった魔力抽出が止まった原因には、光龍が起きる様なことがあったか、又は魔道具の故障だと思われた。


 先ずは降りた場所から一番近い南の魔道具を確認しようと三人は足を進めたが、その魔道具が見当たらなかった。


「龍太郎、お前が設置したのはここなんだよな?」


「あぁ、間違いない。あの木に目印が残ってるし」


「誰かに盗まれたのかしら?」


 イズムは首を傾げるが、この島の周りは海流の交差する場所らしく、渦が巻いていて船でこの島に近付くことは出来ない。

 島には小さな魔物が住んでいるが、手先の器用な猿系の魔物でも、結構な重量がある魔道具を持って行くとは思えなかった。


 その魔物達に注意しながら西、北、東の魔道具も確認したがそれも見当たらなかった。


 イズムを如月に任せ、島の中心に眠っているだろう光龍を見に行った田代は、何も無い山の麓を呆然して見詰めていた。


 田代の落ち込みようにイズムや如月は気にしないように言ったが、アンドリュースの期待を裏切った気持ちに苛まれていた。




 謁見の間では無く、執務室で三人から報告を聞いたアンドリュースは暗い顔をした田代を元気付けた。


 元々魔石だけで帝国内の魔道具を動かしてきたのだし、ゴーレムの数は今ある魔導石で目標数を達成する。


「帝国の魔力源としてもっと有効活用出来たのに…」


 未だ肩を落とす田代だったが、アンドリュースは田代の頭を子供にする様に撫でた。


「陛下っ、僕は子供ではありません!」


 田代の顔は恥ずかしさで真っ赤だ。今まで親にもされたことが無く、やんわりとした笑みを浮かべた美しい男から撫でられたことにかなり動揺してしまったのだ。


「リュータロー達は余の部下だと言ってくれるが、余にとっては異世界からの客人であり、友であり可愛い弟妹だと思っている。大人しく撫でられろ」


 田代の横で如月も頭をワシワシ撫でられており、如月は素直に嬉しそうに笑っていた。


「問題は居なくなった光龍ですね。これは島を監視している辺境伯の他、他の地区の辺境でも監視を強化する様に伝えました。それと回収出来なかった魔道具についてですが、地中から離れると自壊する魔方陣も施していたので、万が一他国に渡っても使い物にならないでしょう」


「分かった。その後も何か分かれば報告を頼む」


 イズムはアンドリュースに一礼すると研究所へ戻って行った。

 如月も騎士達との訓練の時間だからと出て行き、その場で一緒に報告を受けていた宰相のタナトスも、アンドリュースのサインがされた書類を持って執務室を出て行った。


 今この執務室に居るのはアンドリュースと田代だけである。


「リュータロー」


 田代の下の名前は帝国民には難しい発音らしく、アンドリュース以外はタシロ殿と言うし、アンドリュースも何回か練習していたが、結局リュータローに落ち着いてしまった。

 田代はアンドリュースがリュータローと片言で呼ぶのが気に入っている。

 何だか可愛く感じるのだ。

 自分の倍程の年齢でムキムキの男に失礼かと思うのだが、練習していたことも知ってるので、余計に可愛く感じる。


 そして最近気付いたのは、アンドリュースになんとも言えない感情を抱いていることだった。

 家族愛に恵まれなかったのが原因かもしれないが、アンドリュースの傍に居たいと願う様になっていた。

 自分のスキルは攻撃には向かないが、盾として守ることは出来る。

 田代は忠誠を再び強固にしながらも、その美貌に見蕩れていた。


「リュータロー、ぼんやりしてどうした?茶が冷めるぞ?」


 いつの間にかアンドリュースの手ずから入れられた茶が用意されていて、いそいそとクッキーの入った箱を開ける様子を見て田代は小さく吹き出した。





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