表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
作り物の感情色  作者: みどり
1/1

実験開始

1 実験開始


暗くジメジメとした部屋。

部屋の広さはだいたい八畳ほどだろうか。

いや、それよりも遥かに狭い。

正確には使えるスペースが少ないと言った方がいいか。

足元にはペットボトルやら衣服が散らばっている。

部屋の壁にはシミや汚れが着いている。

終いには異様な空気が漂い、悪臭を放っている。だがそんなことに構っている暇はない。

そんな僕の部屋は誰が見ても決して人間が生活しているとは言いがたい部屋だ。

最近では昼か夜かそんなことも分からなくなっている。

風呂にも入っていなければまともな食事すら取っていない。

寝る時間さえも時間を惜しんでいる。

なぜ僕がこんな身を削るようなことをしているかって?

それはいずれわかることだ。

そんな雑談を交えながら僕はキーボードの手を動かし、あるプロ

ジェクトの計画を進めていった。

このプロジェクトが成功すれば世界を変えることができる。

そして彼女との約束も........。

「システム起動」

目の前の機械から冷たい声が聞こえる。

5年間の付き合いなのに未だにこの対応。

機械というのはこれだから面白くない。

だが次こそはとキーボードを打ち込み、指示を出していく。

「安全装置解除。危険ですので離れてください。」

「はいはい。」

何度も言われた指示を軽く流しながら今回の実験に胸に期待を膨らませる。

「プロジェクト開始。No.86始動します。」

機械が多大な情報を処理しているのがわかる。機械のが発する熱がここまで伝わってくる。

「成功しました。これから第二段階に移行します。」

「や、やったぞ........。」

5年間の努力は報われた。86回目の実験でやっと第一段階をクリアした。

どうやら先は長い険しいようだ。

そんなことを思っているとNo.86が出てきた。

黒く長い髪、鋭くこちらを見透かすような綺麗な目、雪のような白い肌。

それを見た瞬間、息を飲んだ。

「美しい........。」

思わず言ってしまった一言は彼女にも聞こえていたようでこちらを振り向いた。

「あなたが私を作った人ですか?」

そう僕が彼女を作った。

このプロジェクトは僕が考えたものじゃない。

だがそんなことは重要ではないと判断し率直に答えた。

「あぁ、そうだ。僕が君を作った。」

そういうと彼女は僕を下から上にゆっくりと観察するように見た。

慣れないことに少し戸惑った様子をとるとそれに気づいたのか、僕の顔を覗くように見た。

「ご主人様は女性の方とは交流が少ないのですか?」

「そ、そんなことはない。」

そんな図星をつかれ焦りを隠せない僕だったが、すぐに興味が無くなったのか部屋を見渡す。

「ご主人様の部屋はなんというか........。普通ではないですね。」

彼女なりにオブラートに包んだようだが全然包み切れていない。

逆に傷付くくらいだ。

「うるさい........。あと僕をご主人様と呼ぶのはやめてくれないか?」

「わかりました。ではなんと呼べばいいですか?」

僕は少し悩んだ。

こんな時なんと言えばいいのだろう。

僕と彼女の関係性からして博士というのはどうだろう?

いやダメだ。

こんな街中で言われたらほずかしくて仕方ない。

では久保田さん?久保田きゅん?くぼっち?

考えれば考えるだけ答えが変になっていった。

結局考えた末一番馴染みのある呼ばれ方にした。

「善仁と呼んでくれ。」

「よしひと?案外普通の名前なんですね。」

彼女は優しく微笑み僕の目を見た。

少し心臓の鼓動が早くなり焦り始める。

「と、とにかく善仁でいいんだよNo.86!」

「だが今更だがNo.86も変だよな?」

「そうですか?私はあまり気にしませんが。」

「気にする気にしないの問題じゃない。呼びずらいんだよ。」

「では私の名前はなんですか?」

名前なんて考えてもいなかった。

彼女はまだ実験段階。

当然といえば当然だが、名前と聞かれ真っ先に浮かんだ名前があった。

「サキ。君は今日からサキと名乗ってもらう。」

どこか懐かしい名前。

あの楽しかった日々を思い出す。

彼女の夢。

そして彼女との約束を果たすためにこのプロジェクトは絶対に成功させる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ