表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

2話 注意をしてみる

続いてみた

 ――翌日。取り巻き達の朝は早い。私は取り巻き専用に用意されたミーティングルームで朝の打ち合わせをしていた。我々はクローディアの侍女頭から手に入れた情報を共有していた。私は手渡されたメモを読み上げる。


「本日のクローディア様のお召し物はお気に入りの赤ではなく青です」

「まあ……」

「セーラ、即刻着替えを」

「はいっ」

「そして髪型はいつものようにハーフアップの巻き髪です」

「ほっ……」


 このようにクローディアと服や髪型がかぶらないように朝から努力をしているのだ。もし被ったらクローディアの機嫌は一日中悪くなる。嫌な習慣ね。

 セーラが大急ぎで着替えたのを確認して、我々取り巻きは食堂へと向かった。そこの特等席についてクローディアが現われるのを待つ。


「ごきげんよう、みなさん」

「おはようございます、クローディア様」


 私達は彼女の姿を認めると、一斉に立って会釈をした。


「座って。さあいただきましょう」


 やっと朝食がはじまった。……と思ったら一口二口食べたところでクローディアはフォークを置いてしまう。


「ふう……もうお腹いっぱいですわ」


 するとセーラもフォークを置く。


「……私もお腹いっぱいです」

「……私もです」


 取り巻きはそれぞれフォークを置いた。ああまたこのパターンか。私は少しうんざりした。だいたいお腹いっぱいなんてみんな嘘であとで隠れてお菓子を食べているのだ。ここで一緒にフォークを置いてはいけない。また同じ事になる。


「クローディア様、でもお残しはいけませんよ。用意してくれた方に失礼では」

「なっ……マリアンナ!」


 思わぬ私の反抗にクローディアは怒りのあまりプルプルと震えている。私は彼女に落ち着いた調子で答えた。


「それにこの朝食の材料となった小麦も肉も国民の作った作物からできたものです。いずれ王妃となられるクローディア様なら当然ご存じでしょうけど」

「……もちろんですわ。少々、口に合わなくても食べるのが努めというもの」


 クローディアは額に青すじを浮かべながら残りの朝食を食べた。顔面蒼白になってその様子を窺っていた他の取り巻き達も、クローディアにならって朝食を食べた。


(セーフ……)


 私は内心ほっとしながら朝食を食べ終わり、クローディア達と共に教室へ向かう。ここにも最前列にクローディアの為の特等席があって、私達はそれの周りに座るのだ。とにかく取り巻きになったばかりの私はちょっと離れた席。


「マリアンナ、あなたはお友達になったばかりだから分からないみたいだから、さっきのは見逃してあげたのよ。分かってらっしゃるわね」


「……はい」


 本当にギリギリセーフだったみたいだ。でもこれはクローディアの為なのだ。そうしないと彼女はまた処刑されてしまう。

 私はごくんと言葉を飲み込んで頷いた。クローディアは口の端を吊り上げて微笑むと、自分の席へと戻った。


「――では、この一文が分かるもの。居るかね」


 先生がこの国の隣に位置する国の言語、ルンブルク語の単文を黒板に書いた。あちらとは外交関係が深く、私達はそれを覚える必要がある。だけど誰も手をあげない。

 何故かというと……クローディアが手を挙げていないからだ。彼女はゆったりとして動作で手をあげた。


「それでは……マリアンナ」


 先生の指名の声に教室がどよっとざわめいた。クローディアがゆっくり手を挙げている間に私がさっと手を挙げたからだ。


「大変めずらしいものをお見せ戴き感激しました。本日はおまねきいだたきありがとうございます」

「……よろしい。正解だ」


 またも教室がどよめく。そう、いつもはここで颯爽とクローディアが答え、拍手喝采が起こるのが常なのだ。だけど、もう何回目かわからない授業を受けている私にはこんな問題なんでもない。


「マリアンナ! あなた一度どころか二度までも!」


 クローディアはガバッと立ち上がると、ぼきりと手元の扇をへし折った。ひええ。馬鹿力。


「もうあなたとお友達でいるのは止めですわ! わたくしの視界から消えて頂戴!」


 その叫び声がしん、とした教室に響く。……しまった、やりすぎた!? というかこらえ性がなさ過ぎでしょう、この我が儘娘!


「……はい」


 私はなんとかそう答えて教室の隅に移動した。そうして、針のような視線を受けて残りの授業をうけた。


 それから、私はクローディアへの接触が出来なくなった。視線を合わすどころかそちらを向いただけで取り巻きの妨害にあう。そのうち何もしなくても教科書をボロボロにされたり、歩いていたら水をかけられたりした。うう……私には守ってくれる王子様もいない。


「では皆さん、これから一緒に学ぶ留学生のアイラ・ルオノヴァーラです。仲良くな」


 そうこうしているうちにあの留学生、いずれクローディアから王子を奪うアイラが転校してきた。案の定、クローディアはアイラをいじめ抜いた。


「クローディア・ジラルディエール侯爵令嬢。そなたを国家反逆罪の罪にて処刑する」

「認めませんわ! 私は無罪です!」


 ――クローディアはまた処刑された。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。



⬇️こちらもよろしく⬇️

精霊の森とマイアの魔道具工房~新米魔道具職人とお師匠様は素直になれない~

魔術師の弟子の少女の成長と恋の物語

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ