処刑場
一人二人、消されてゆく。前に一歩、一人が恐る恐る出たかと思うと、首が一体吹きとぶ。ああ、もうすぐ自分だ、と思わず目を閉じる。
俺の横の奴が一歩、前に出た。黒髪の女だ。なんの罪を犯したのかは知らないが、虚ろな表情で俯いていた。
先頭でノコギリを持つ男の掛声と共に、ぎらりと光る刃が宙を舞い、やがて女の首を切った。その面は生前と変わることなく俺の足元に転がった。
俺はこういうものを見慣れてる。気持ち悪いなんて感情はとっくにどこかへ消えている。自分の立場をつい忘れ、その綺麗で真っ赤に染まった首を素手で拾い上げた。よく見ると目を見開いている。自分のシャツで朱色の首を拭った。
死んだ人間の骸骨は案外柔らかい。残った体は首から先を失い、俺の手前に倒れていた。その周りにも、同じような無残な姿の死体が一つ、二つ、三つ、四つと限りなく横たわっている。
俺は首を体の横に転がして、前の奴らと同じように、しかし堂々と前に出た。さあ切れ、と首を突き出す。俺を殺そうと、目の前の男が斧を振り上げたとき……
大男が、その手を止めた。
「……やめておけ」
俺も殺人野郎も、驚いた目でその男を見上げる。大男は黒い仮面をかぶったまま、ぼそぼそと口を開いた。
「旅人を殺ってはいけない。この者はまだ逝く途中だ」
……ああ、そういうことか。俺はまだ死んでいないんだ。やっと分かった。此処は掟を破り、死んでから成仏しなかった逝人の処刑場なんだ。
いま、咄嗟に思い出した。俺の目の前で切られた黒髪の女の顔が、幼いころに失った俺の母親そっくりだったことを。