darkest kiss
彼女は俺を痛いくらいに抱きしめる。
心の傷を隠すように、俺の背中をきつく締め付ける。当初は可愛かったその素振りも、今となっては冷酷になってきていた。
「あの、痛い、背中」
「……ごめん」
何かを、抱えている。それは、その圧迫するような体温から伝わってきた。
俺より頭一つ分くらい背が低い彼女は、抱きしめる、というより俺に抱きつく形ですがりついてくる。
可愛い、そう思った。でも、その泣き顔は、愛おしすぎた。時折、彼女は「もう嫌」と、耐えるようにに呟く。白い光の中で「死にたい」と呟く彼女は、本当に怖かった。
憂鬱に満ちた表情で床にぺたりと座り込む。俺を抱きしめていた腕を解いた。もう真夜中、当然部屋は真っ暗だった。猫のように光る眼で見つめる彼女を見上げると、その細い指が俺の首に纏わりついた。だんだんと締め付けがきつくなり、次第に息苦しくなってくる。
「……ごめん、私と死んで」
「っく……」
息ができない。目の前が真っ白になった。尖った爪が首に食い込み、鋭い痛みと、生ぬるい液体が首を伝った。
失神する手前まで来た。意識は薄れ、痛覚もなくなる。記憶もなくなりはじめたが、彼女の痛切な表情だけは脳に焼きついた。
「……っ」
手を離された。必死に酸素を吸い、首に流れた血を拭う。
「……ごめんね。やっぱり、逝かないで」
イラついた。俯いてひっそりと囁いた彼女を床に押さえつけ、首を思いっきり手で締め付ける。彼女は、息苦しそうな表情をしていたが、決して声に出すことはなく、徐々に静かになっていった。諦めているのだろう。目を閉じて、空気を吸おうとはせず、横たわる。
残念ながら、俺は彼女を楽にさせるつもりはなかった。彼女の顔がだんだん青白くなり、限界に達したところで手を離す。
「……っはぁ、っ…なんで、死な、せてくれなっ……い、の」
彼女もまた、俺と同じように酸素を貪る。ぽたり、ぽたり、と流れる血を拭いもせず、俺は彼女の手を引っ叩いた。
「っ」
軽いキスを落し、寝室に戻った。もうするなよ、と小さく呟きながら。