嫁の脳内会話と協力者
諜報モードとなった嫁は衣装を認識疎外のある忍衣にドレスチェンジして屋根の上を舞っていた
身体強化、身軽、消音、気配察知の4種を同時に使いつつ高速移動のため屋根伝いに走っている
脳内では並列思考で独り言を脳内で3人分繰り広げていた
「旦那様かっこよす!」
「同意!」
「間違いないのじゃ!」
主人格である元気溌剌お転婆娘、副人格であるセシルにも似た真面目武人タイプ、そして参謀的なブレーンタイプの3人はそれぞれ個性的であったが旦那様であるおっさんを溺愛している
「勇んで飛び出したのは良いのだが、どこへまず向かうのだ?」
「んとね、資金の流れを根元からだから、教会に資金を渡す役割の市民ギルドかな」
「受付で教えて貰える情報でも無いじゃろう?【隠蔽】使って資料室に直行じゃ!」
「そだね早めに終えて旦那様の胸に飛び込みたいし~」
「それなんだが、旦那様、私達の地球の体型と瓜二つに作りこんでいるな」
「うむ、わしもそれは少し気になってたのじゃ」
「キャラメイク前に2日間くらい私の周りをぐるぐる回ってた時に思い付いたみたいよ?夜もすごく積極的だったし♪」
「やはりか」
「そうだったのじゃな」
「そうそう、リアを見てるだけでも旦那様の愛を感じるわ~」
「ふむ、悪くない、それは悪くないな」
「照れるのぉ」
寡黙モードで口数こそ少ない嫁であったが、常にこのように脳内では姦しい状態になっているのであった
嫁は脳内ではほとんどおっさんを旦那様もしくはご主人様と使い回している
そんな脳内でのガールズトークに花が咲いているうちに市民ギルドの看板が見えてきた
「あそこだね」
「うむ、【隠蔽】発動」
「突入じゃ!」
市役所的な市民ギルドに護衛などいるはずもなく、あっさりと目録を複写して人目に付かない路地裏で確認作業を行う3人娘
「なにこれ?ある年を境に年々減額されてるよ」
「で、あるな」
「理由が教会に無いとすれば街か、国の思惑が絡んできそうじゃの」
「じゃあ街の会議の補助金が減り始める前後の議事録を見に行こう」
「!!?」
路地に一匹の小さな蝶が舞っていた
瞬時に小苦無で仕留めると黒い霧の様なものが立ち昇ってゆく
「尾行用の追跡魔術の痕跡じゃな、後をつけられたか?」
「いや、現状の装備を考えればその線は薄い、何かしらの網が張ってあったのであろうよ」
「【追尾】この魔法痕跡からだけでも追えるかな?」
「おった、あそこの屋根の上じゃ!」
屋根の上に【隠蔽】を使っているであろう頭巾の人影がみえる
瞬時に察知した嫁はおっさんに指示を仰ぐ
『あ~、あ~、アナタ~』
『どうしたの?』
『尾行されてるっぽい、【隠蔽】発動してるのに』
『ふむ、芳しくないねぇ』
『一度全力で巻いて、正体確認してもいい?』
『いいけど、危ないことはしないでね』
『わかってる、それじゃ』
嫁は通信を終えるとすぐに行動に移った
ゆっくりと怪しまれぬように路地を抜け、入り組んだ家屋の密集地帯に音もなく進んでゆく
追尾している影も家屋の陰に潜みながら後をつけてきている
袋小路に入ったあたりで嫁の体が液体のようにドロドロになって消えていく
頭巾の追手は左右をきょろきょろと見まわして警戒している
「探し物は見つかりましたかぁ?」
「!!」
頭巾の追手の後ろから何の気配もなく嫁は相手の首筋に大苦無を当てて、右手の関節を甘くキメて抗えぬようにする
「ふむふむヒップ82、バストは約78のB、身長は平均より高め・・でもきちんと女の子ちゃんだねぇ」
「!!!・・・」
「殺せ!」
「そんなことはしないよ~一応拘束はさせてもらうね」
「クッ」
手早く縄抜け出来ぬように【捕縛】で拘束した後にお姫様抱っこで【隠蔽】を使って宿屋の部屋に戻る嫁
戻ってから頭巾を外して素顔を晒した追手は、この国ではあまり見ない黒髪を後ろに束ねた少女だった
「お名前聞いてもいい?」
「名前などない」
顔を背ける少女に対して嫁は少し間を空けてから
「そっか、じゃあヴァイスプレさんに直接聞かないとだなぁ」
「何故だ!?」
その通りだと言わんばかりに、大きく動揺して灰色の瞳で嫁をのぞき込んでくる
「私と旦那様はこの国に来て3日しか経っていない、その中で間者を送り付けてこれそうなのはヴァイスプレさんだけなんだよ~」
「あと、誘導尋問でもあるからそんなに動揺しちゃダメだよ」
「あっ・・」
顔を真っ赤にして自らの言動を恥じている少女を椅子に座らせてから嫁はベッドの方に座り向かい合う
「君、腕は一流だよ、私の【隠蔽】を破って追跡出来る程だもん」
「だが、こうなっては意味などない・・・」
「そうだねぇ、旦那様が戻ってきたら相談しよう」
「・・・」
そこまで話すと少女は負の感情に負けそうなのか涙を流して下を向いた
『もしもし~捕縛完了~戻ってこれるぅ~?』
『うん、そんなことだろうと思って早めに切り上げて今大通り』
『流石ぁ~』
『夜になる前にヴァイスプレさんに会えるといいんだけど』
『だよねぇ、女の子だったし、このままじゃ可哀そう』
『ふむふむ、女の子ね・・・嫁、気に入った?』
『うん、とっても!』
『それは重畳』
『??』
『こっちの話さ』
『?まぁいっか』
『宿屋前、すぐ中に行くね』
『ハーイ』
通信が終わって間もなくしてノックの音が響き旦那様が帰ってきた
椅子に座って縛られている少女に視線の高さを合わせてから話しかける
「さて、私の名前はリア君はもしかしたら依頼主から聞いているかもしれないけれど一応初めまして」
「私をどうする気だ?」
「逃げる気があるならば縛ったまま冒険者ギルドに連れて行かないとなんだけれど、目立つしこちらとしては大人しくついて来てほしいかな」
「わかった、これ以上恥は晒したくない」
「だってさ、【捕縛】解除お願い」
「了解~」
するすると縄が生き物のように解けてゆく、少女は力んで手の血液が抜けてしまうほどだったのだろう手を握ったり開いたりして感覚を確かめている
「さて、もうすぐ夕暮れになっちゃうから急いで冒険者ギルドに行こうか」
リアがそう言うと、嫁はすっと少女の手を取って歩き始める
「逃げはせぬ!」
「違う違う、スキンシップ~スキンシップだよ」
「何を?」
手を繋いだ二人の後を微笑ましく見守りつつおっさんは冒険者ギルドへ向かう
到着した冒険者ギルドは報酬の受け取りの冒険者などで賑わっていた
受付まで着くとリアはレセフィーレに声をかけた
「ヴァイスプレさん執務室にいるよね?お話してくるけどいい?」
「え、ハイ、構いません」
「おk、行こう」
足早に階段を上り執務室の扉をノックし、暫し待つ
中から太く低い声が返事を返して来る
「どなたかな?開いている入られるがよかろう」
「失礼します」
リアを先頭に、嫁と少女が手を繋いだままの状態で執務室に入室する
ヴァイスプレは表情を崩さずにいるのが精一杯という状態で椅子に腰掛けたまま3人が入ってくるのを見つめていた
リアは狸だなぁ、っと思いつつも仕方なく話を切り出した
「今しがたセシルがこの子に尾行され、勢い余って捕縛してしまいまして冒険者ギルドのサブマスター、ヴァイスプレさんならば何かこの子について知ってらっしゃるんじゃないかと思って連れて来た次第なのです」
完全に言質は少女から取っているようなものだが一応本人の口から聞くのが筋だろうと思い、おっさんはわざと遠回しに会話を進める
「花影、お前ほどの者でも捕縛されるのか?」
「ええ、至極あっさりと・・です」
「なるほどな、想像以上だったということか・・失礼した花影を送り込んだのは私だ」
「それはまた、どういった理由で?」
「この国、この街にどのような意図で来たか、何をしようとしているのかを知りたかったのだ」
「普通に聞いて下されば普通にお答えしましたのに」
「立場上な、思うようにはいかないものだ」
「で、しょうねヴァイスプレ公爵閣下?」
リアが上目使いでヴァイスプレの巨体を下から見上げると、ヴァイスプレは目を見開きその後少し脱力して返事を返す
「まさか一日足らずでそこまで情報を集めているとはな、花影が手に負えないわけだ」
「セシルは諜報員としてもとても有能ですから、良い出会いもありましたし」
「教会か、なるほど盲点であったな」
こめかみに手を当て、不甲斐ない表情でヴァイスプレは語りだす
「あそこのシスターには小さいころ屋敷を抜け出して遊びまわっていたころによく世話になったのだ」
「らしいですね、とても懐かしそうに話してらっしゃいましたよ」
「風のうわさで目を悪くしたと聞いていたのだが?」
「問題ありません、今は老眼すら無くなっているかもしれませんよ?」
「そなたは・・・」
椅子から立ち上がり土下座するヴァイスプレ、床に額を押し付けて、真摯に謝ってくる
「本当にすまなかった、国と街を守るその一心でやっていたつもりだがこの目は少し曇っていたようだ」
「そんなことはありませんよ、こうなることすらある程度は予想していたのではありませんか?」
「それは、そうなのだが、それでも申し訳が立たん!」
「顔を上げてください、少し真実をお話しします」
「真実?で、あるか」
「はい、しかしこの話を聞いてしまうとヴァイスプレ様には完全にこちら側に付いていかなくてはならなくなりますが宜しいですか?」
「人が悪い、反論の余地など無かろうに」
ヴァイスプレに勧められ執務室の椅子に腰をかけて、リアが聖女としてこの世界に女神によって導かれたこと、セシルはその護衛であり夫婦であること、この世界に敵意も害意も無いこと、現状教会の資金の流れを追っていて内容が芳しくないことを、何も知らぬヴァイスプレと花影と呼ばれた少女に伝えた
「できれば内密にお願いします」
「もちろんだ」
「はい、必ず」
何か言いたそうにヴァイスプレはしているが首を振って耐えているようだ、先に言いたいことを全部言ってしまおうとおっさんは畳みかけていく
「この花影さん?でしたか少女をもらい受けてもいいでしょうか?」
「どういった用向きでなのか聞いてもよいか?」
「セシルが甚く気に入ってまして、我々の真実を知っている娘でもありますし」
「なるほどなるほど、セシルさんも男だのぉ、リア殿程の嫁がおるというのに」
「私はセシルが良いのであればいいんです」
「信頼しておるんだな、わかった、花影は公爵家の諜報部隊員なのだが長には私から話を通しておこう」
「ありがとうございます」
今回の件は何が起きたというわけでも無いし、お咎めは全く無しである
花影という少女がとばっちりを受けたということを除いては
「何もなしだと私の気が収まらないのだが?」
「そうですね、では、近いうちに国王にお会いしたいと考えておりますのでその件で口利きをお願いいたしますわ」
「大役、任せて頂こう」
「では、またこちらに伺いますのでその時にでも詳しい話を詰めて参りましょう」
ヴァイスプレのとても大きな手でがっちりと握手され執務室を後にする、宿屋に戻って嫁に2~3頼みごとをした後に宿屋で3人部屋を取り、部屋替えをする
花影と呼ばれた少女はいまだに見聞きしたことが信じられないという放心状態だったのでベッドに座らせてリアは一人お茶を啜る
「覚悟しないとかなぁ」
夜が来るのが不安なおっさんだった・・・・・・