トレインぱにっく
間が空いてしまいました。復帰です。4日に一回くらいでアップ出来ればと思いつつ頑張ります。
6層以降はフォーメーションを変えたため進む速度は少し落ちた。しかし懸命な索敵と迅速な対応を心掛けた斥候と中衛の横顔を見つめておっさんは満足げな笑みを浮かべる。
結界で各々の体が包まれているためよほどの事でもない限りは危険な状況にはなり得ない。それが分かっていて集中を途切れさせないというのは生半可な集中では出来ないことだったが、二人の瞳には強い意志の光が灯っていた。自分が意図したところを汲んでくれているのか、そうでないのかは分からない、分からないけれど自然と笑みがこぼれる。
「旦那様嬉しそう。いい事あったぁ♪」
「うん、結構嬉しいかも顔に出てる?」
「すっごく!」
「そっか。」
速度が落ちたといえど苦戦する敵も無く、慎重な歩みを進める一行だった。トラップの警戒、索敵、敵と出会ったら即駆除。淡々とした状態で6層~10層までを探索する。
黙々と集中を途切れさせぬ様に集中する蝶華とルシエ、成長する事で認められ認められることで自分はこのPTに居ても良いんだと自己を安定させることができる。だからこそ全力で努力する、手は抜かない。おっさんは黙って二人の背中を見つめながら歩く。
広く長い石造りの回廊の一本道を壁伝いにそれまで通りゆっくりと進む、回廊の幅は10メートル以上あり天井も高いモンスターの出現もまばらだが周囲警戒を怠らずに10階層のボスがいるであろう部屋を探していた。
「止まって下さい!!何か大量のモンスターの気配と・・冒険者らしき反応が近づいています!」
慌てた表情の蝶華とルシエの方におっさんは歩み寄り、ポンと二人の肩を叩いてからぐっと力を込めて頭がおっさんの口の傍に来るように引き寄せる。
「トレインだね、数は今の所不明、接敵まで約2分。行動は今まで通りで変わらず。二人にこのまま任せて進もうと私は思っているのだけれどいいかな?」
「無論です!」
「モチロンだよ!」
トレインとは、追尾してくるタイプのモンスターを倒さずに無視して進む若しくは戻る事によりさらに周囲のモンスターも引き寄せつつ行列を作りながら行動する事を指す。
トレインの利点は移動速度の向上や、毎回戦闘するよりも消費アイテムの数が少なくて済む等があり低階層の出入り口付近などでは迷惑な冒険者がしばしば行う危険行為の一つである。
足を止めればモンスターの注意を引いてしまい標的が移るので終始敵を集めつつ絶えず移動する。戦闘状態にはなっているが攻撃を行っていないのですれ違っただけで別の冒険者などにターゲット(標的)が移ってしまいやすい、これが初級冒険者達の死亡事故を引き起こす。欲による利己的で人為的な災害だ。
大概の場合はいちいち殲滅するのが面倒になって倒さずに進んでいて手に負えなくなる場合が殆どなのだが、索敵範囲いっぱいに広がる敵の数から察するに何やら訳あり・・・なのだろう。だからと言って被害者が出ればただの言い訳にしかならないのだが。
警戒の構えは緩めずに蝶華がこちらに向かって振り向く。
「何か作戦を思いつきましたか?」
「はい、恐らく逃げている冒険者は3~4名、それが通過した後一瞬で良いので回廊を結界で封鎖してもらいたいと思いまして。」
「いいよ、足を止めて迎え討つんだね。」
「そうです、恐らく2足歩行の魔物と地を這う魔物はそれで多少は止まるでしょう。しかしここの回廊は天井が高いためすぐに乗り越えて敵はやって来ると思います。」
「それで?」
「私とルシエで左右を、旦那様が前方中央、セシルさんが前方上部及び撃ち漏らしをお願いできればと愚考します。」
「問題ないよ~♪」
「わかったそれで行こう!接敵まで1分、目視まで20秒かな。」
短い様で長い1分間、必死の形相で仲間を背負い走って来る戦士風の男が何やら叫んでいるのが聞こえだす。
「逃げろぉおおおぉ~!!!!」
叫ぶように伝えながら男は一行とすれ違う、魔導士風の男と狩人風の男も速度を落とさずに通過していった。
石畳から地響きのような音が近づいて、視界いっぱいの敵が姿を現す。
無詠唱でコツンっと音を立て【月下の僧杖】で石畳を叩くと透明なアクリル板の様な結界が回廊の全てを遮る。私が全力でやってしまえば恐らくこの程度の数なら突破されることはまずない。だが、それでは蝶華とルシエの経験を積むことが出来ないため確実に足止めできる程度の強度に留めて様子を伺う。
結界に阻まれて折り重なるようにモンスターが山になる、知能が高いモンスターばかりでないため左右に広がりつつ壁に体当たりをする者ばかりであるが、やがてすぐに大量のモンスターの数に押し負けて結界にヒビが入り始める。5階のボス部屋の100倍以上はいるだろうか?回廊を埋め尽くす勢いでモンスターはこちらに向かって進んできた。
「結界破られるよ~・・・今!」
「行きますよルシエ!!」
「うん!!」
高さ4メートル幅5メートル程折り重なったモンスターの小山ができて敵の波は左右に分かれた、蝶華はアサシンナイフを2本構えて左側に走り出す、ルシエは土の精霊を行使して右側を針の筵に変化させ隙間を抜けて来た敵に礫弾をぶつけて対処している。
後方の嫁は高めに跳躍して剣戟の風圧だけでモンスターを器用に倒していた。おっさんは無詠唱で一体ずつ確実に急所を【聖光】で貫いていく。
倒したモンスターは20~30秒後に消える。これはダンジョンの仕様?なのだろうか、壁に吸い込まれるようにして消えていくモンスター達の後に続いてさらに敵の波が押し寄せる。
折り重なって圧迫死したモンスターの山が消えると中央に固まった敵の群れがドッと進行を始め、おっさんめがけて突進してきていた。
「嫁、スイッチ。」
「あいあい~♪」
おっさんはバックステップ、嫁は前方にダッシュ、すれ違い様嫁の小さな声が聞こえる。
「楽しいね♪」
「不謹慎だなぁ。」
【太郎改】を大きく振りかぶって騎士スキルの剣戟で横薙ぎに一閃、中距離までの敵が50匹程一気に倒れる。その様を『ふえぇ~!』と声にならないビックリ顔でルシエがよそ見している、なんだ意外と余裕あるんじゃないか?
蝶華も危なげなく討ち漏らしなく左側を守り切っている、動きや表情から見るに疲労は感じられない。自分の目の前の敵を捌きつつもこちらの周囲の確認も同時にできているようなので問題無さそうだ。
足を止めて殲滅する事20分、敵の波が穏やかになり足の遅い大型モンスターが増え始めた。この戦闘ももう少しといった所だろう。索敵範囲内の敵の数は100を切った。
おっさんは攻撃の手を少し緩めて【持続回復魔法】を蝶華とルシエにかけて、嫁にハンドサインで火力落とせ!っと右手で合図する。
蝶華もルシエも十分に戦いなれてくれているようで嬉しいが、基本的な戦闘熟練度の差というものは中々埋めにくいもので実戦の経験を重視したいと考えていた。
おっさんと嫁は毎日2時間、ゲーム内時間で4日分に相当する時間毎日みっちりと数年間かけて戦闘訓練に明け暮れた日々がある。それはMMORPGの中の経験で、死ぬことなんてない・・と分かっているから行える事であり死ぬかもしれない現実の世界でそんなことをすれば命がいくらあっても足りないだろう。例え一流の冒険者であったとしても実戦の戦闘時間が10000時間を超えるものなどいないと思われるこの世界で少しでも濃い戦闘経験を得て生き残る為の術を多く学んで欲しいとおっさんは願っていた。
単なる強さでは無く、大切な者を守り、その意志を貫く為の強さを・・・・・
最後の一匹となった大型のオーガに止めを刺した蝶華がルシエと共に振り返り手を振りながら近寄って来る。
「「終わりました~」」
「「お疲れ様。」」
アイテムボックスから私と嫁が差し出したタオルを手に取り嬉しそうに汗を拭う二人を見ながらおっさんは二人の成長を強く願い、そして労いたいと思っていた。




