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おっさんは聖女になりて異世界を憂う  作者: とくみつ ろゆき
中立商業都市・魔国編 人々の営みと聖女の憂い
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ダンジョン突入

細々とした準備を終えて、翌日は日が昇る前からのダンジョン探索へ移動を開始。海が大きな堀の役割を果たす海洋に浮かぶ都市であるためこれまでに立ち寄って来た城郭都市と違い比較的移動に対する拘束が緩かった、内陸への脅威は感じることが無いのだろう。


「今日向かうのはこの大陸最大のダンジョン『中央窟』と呼ばれるものでしたね。」

「うん、地下15階層で過去に数回踏破されているらしいけれどここ数十年は踏破者が出てないみたいだ。」

「旦那様~優しく~優しくしてねぇ~♪」

「セシルがダンジョンに行くって聞いてから変だよ・・・何となく想像はついているから深くは聞かないけど。」


ダンジョンまでの道のりはきちんと街道が整備されており、片道の馬車をチャーターして向かっている。踏破するのに何日かかるかわからない場合に自前の馬と馬車を野ざらしにするわけにもいかないためだ。

冒険者ギルドで10階層までの地図は有料で手に入れることができたので、全員で昨日に予習してあるし自分とセシルがいて手に負えないモンスターが出ることは無いだろうと予想も出来た。まぁそんなのがいて欲しいと思う気持ちがないわけでもないが、安全に楽しめればいいと思っている。


カタカタと馬車に揺られる事3時間、すっかり日も登って明るくなった所で馬を休ませるために休憩。浄化水とマナポーションを少し加えたクッキーを馬に与えるととても嬉しそうに食べてくれた。


更に進むこと2時間程で『中央窟』が大きく口を広げている場所にたどり着く。ダンジョンの周囲には簡単な宿場町の様なものが形成され露店で物を売る者、冒険者用の酒場の様なもの、簡易の宿屋も存在した。


「へぇ~結構人がいるねぇ~♪」

「セシル、ダンジョン内で人に出会ったら・・・わかってるね?」

「・・・問題ない。」

「よろしい。」


そんな真面目顔になったセシルをクスクスと笑う二人と歓談しつつ馬車から降りて徒歩で入口へと向かう。

ダンジョンでのルールとしては諍いを防ぐために緊急時以外は他のPTの戦闘に介入しない。狭い場所やトラップ多発地帯などは先行者を待ってから進む。トレイン(追って来る敵を引き連れての出口方向への移動)の禁止などどこのダンジョンにもある簡単なものだった。冒険者ギルドの職員の話では中級者~上級者向けのダンジョンに指定されている『中央窟』なのだが焦った初心者PTが問題を起こすこともしばしばあるらしい。


一応入出管理がなされているらしく、入り口の前で衛兵のような格好の男が冒険者ギルドカードの提示を求めて来たので4人分を手渡して確認してもらう。


「上級者4人PT、見かけない服装、金髪碧眼のちっさいプリースト・・・あんたたちが噂の聖女様一向かい?」

「他所の人にどう呼ばれているかはあまり知りませんが、多分そうなんだと思います。」

「へぇ~本当に別嬪さん揃いだ、法螺話だとばかり思ってたが、これはなかなか・・。」

「入って宜しいですか?」

「ん、ああ、引き留めて悪かったな。気を付けて行って来いよ。」


聖女を一般的な理解で説明する場合、それぞれの社会において宗教的に敬虔であり、神の恩寵を受けて奇跡を成し遂げたとされたり、社会(特に弱者)に対して大きく貢献した、高潔な女性を指して呼ぶ言葉としての意味合いをもって理解されているのだろうが、おっさんは自身に対しての評価は全く異なっていた。『慈悲・慈愛に満ちた』等という客観的な事を押し付けられても困るのだが・・・ほっぺたを人差し指でポリポリしながらブツブツと独り言を吐きつつも第一層へと入っていく。


第一層は典型的な迷路、洞窟系のダンジョンによくあるパターンの分岐が多めでトラップも比較的少ない至極安全な空間が広がっている。


「じゃあ右回りで探索開始、10階層までは地図もあるし敵に関しては発見後即殲滅でサクサク行こうか。」

「はぁ~い♪」

「はい。」

「わかったよ。」


右回り、というのは右の壁伝いに起点から終点までをまずくまなく巡るというやり方である。ダンジョンを一筆書きにしていく様に網羅しつつ、繋がっていない部分を確認していく。斥候が嫁、中衛が私と蝶華、後衛がルシエの順だが密集体系でズンズン進んでいるためフォーメーションに意味はあまり無かった。


1~5層は壁も床も洞窟のままであり、出現するモンスターも周囲の森にいるものと然程変わらない。強いて言えばスライムが多少多いというくらいだろうか。1~4層を網羅して5層へと下り文字通りに敵を蹴散らしつつ散歩気分で歩みを進める一向の前に大きな扉が見えて来た。


「ボス部屋?」

「だろうね、地図でも大部屋が5階と10階にあるし。」

強敵(ボス)ですか?」

「ん~ただ敵の数が多いだけの時もあるし、色々だと思うよ。ボクが入ったことのあるダンジョンだと、深部のボス部屋でいきなりモンスターハウスみたいな時もあったし。」

「それは・・・流石ルシエさん、博識ですね。」

「人王国内のダンジョンは昔ほとんど回ったんだ。大したもの無かったけど・・・・。」


簡単に潜って、安全に帰って来られるダンジョンに大したものは無いだろうなぁ・・と思ったけれど、口には出さない。冒険っていうのは危険を冒すことに意義があるのであって、ドロップなど二の次三の次、本人が望んで向かって満足して生きて帰ったならばそれはきちんとした冒険なのだ。


ゲーム内だと仮定すれば何も得られずただ時間と備品を浪費するだけのダンジョンなんて考えられないと思うかも知れないが、現実だとすれば様々な事を経験する事が何にも代えられぬ宝だと思う。死んだら終わりだし、コンテニューなど無い。登山と同じなのである。最深部(山頂)に宝箱一つ無かったとしてもとても誇らしいものであり、他者から何を言われようとも踏破は誰にでも出来るものでは無いからだ。第一層の落とし穴のトラップに落ちて打ちどころが悪いだけでも簡単に死んでしまう事もある。それが現実である。


死ねば終わり、怪我をすれば二度と同じ動きが出来なくなる。毒・石化・瘴気・様々な危険がダンジョンにはある。だからこそ分相応なダンジョンに向かうことが推奨されていて、多くの者はそれに従い自分の目標を定めてダンジョンに潜るのだ。不相応のダンジョンで死んだ人間は冒険者では無く無謀を顧みない愚者として名を残すことになろう。


有名な登山家が言っていた、登山で最も大事なのはイメージだと。危機管理、タクティクス、食料管理、天候把握、様々な状況下における自分の行動を客観的に俯瞰できる余裕。それこそが柔軟なイメージを沸かせ安全に帰還する事に結びつくのだと。ダンジョンはそういうものだとおっさんは認識していた。


「気を引き締めて行こう!」

「はぁ~い♪」

「了解です!」

了解(ラジャー)!」


何故かルシエがビシっと踵を鳴らして敬礼してこちらにドヤ顔を向けているが、よくわからなかったので微笑みつつ頭を撫でてから大きな扉に手をかける。


「索敵範囲内だけでモンスター30体。ルシエちゃんの言ってたとぉ~り♪」

「防御結界張ってあるから、遠隔攻撃メインで結界に取りついたモンスターから各個撃破で!」

「行きます!」

「火は洞窟内熱くなるし、氷かな、水の精霊を呼ぶよ!」


蝶華の投擲武器とルシエの水の精霊による氷礫だけで大半のモンスターの無力化に成功している。ひとしきり囲まれていた敵を排除すると大きな気配が近寄って来る。


「あれは、ミノタウロスかなぁ?」

「大きいね、ダンジョンっぽくていいじゃない?」

「旦那様暢気ですね、セシルさんも。」

「通常4人PTだと震えあがっちゃうクラスの敵・・の筈なんだけど。」

「それはまぁ、言いっこ無しって事で・・嫁!!」

「はいなぁ~♪」


身体強化した嫁が真正面から大きくゴツゴツした金棒を振り上げるミノタウロスにジャンプして袈裟斬りを放つとズンっと低い音が響き渡った後で嫁の着地音がして、5メートルはあろうかというミノタウロスは頭から尻尾の先まで真っ二つに両断された。


「一撃ですか、女神の加護があるとは言えこれだけのモンスターを倒し、その上ミノタウロスも瞬殺とか・・・私達寄生してるみたいになりそうです。」

「だね・・ボクも自身なくしそぉだよ。」


ここ数日で戦闘する機会も少し増え、セシルと私の戦闘をじっくり後方から見ることとなった蝶華とルシエは少し委縮してしまっている感があった。大蜘蛛との戦闘以降はそこまで積極的に戦闘に関与していなかったために戦う事についての説明が追い付いていないのかもしれない。


「社会的役割の分割・・今後の課題・・かな?」

「旦那様何か言ったぁ~?」

「ううん、独り言。」

「そっかぁ。」


共に有る事というのはただ依存してはならない。依存するだけだと目標や目的を見失いやすいし、何より十全に楽しめない。少し遠回りになったとしても二人にも嫁である事以上の目標を見据えて欲しいと思っている。


「ドロップ品と魔石回収後、少しここで休憩がてら作戦会議しよう~昼ごはん出すね。」

「お昼~♪」

「私は解体を、ルシエさん水をお願いします。」

「了解~。」


6層以降は斥候を蝶華、中衛をルシエ、後衛を私、殿を嫁に任す。と作戦会議で言い放つ!何事も経験だし、緊張感が人生のエッセンスだと考えてしまう方がきっと楽しい。そんなダンジョン脳の自分を客観的に見ておっさんは自己嫌悪し苦笑してお昼の後始末を笑顔でするのだった。









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