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おっさんは聖女になりて異世界を憂う  作者: とくみつ ろゆき
中立商業都市・魔国編 人々の営みと聖女の憂い
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拠点での一日

翌日、午前中には予定通り商業ギルド職員が御釣りと正式な契約書を持って拠点となる中立商業都市の家(以後は拠点とのみ呼称)のリビングに来ていた。昨日は調度品も何もなく殺風景だったリビングにはロウテーブルやソファが設えられ、花瓶には花、壁にはバルビゾン派の絵(VRMMOゲーム内でのコピー品)が飾られ一気に生活感のある雰囲気が漂っている。

商業ギルドの職員は部屋を見渡して呟く。


「はぁ~昨日の今日でこの設え・・・素晴らしいですね。」

「鍵を受け取った後で簡単な掃除をしてから敷物を敷いて、家具を配置して、とりあえず生活できる程度まで一気に済ませましたから。」


ロウテーブルにお茶を出しつつ説明すると商業ギルド職員はフムフムと目を閉じて頷き、目を開いてから向かい側に座っているセシルに問う。


「こちらの屋敷は『拠点』にされると伺っておりますが、何か商売をされる予定なのでしょうか?」

「・・そうだな、その予定ではあるが、まだこの地に来て日も浅いため様々な情報を集めてからゆっくりと動き出すつもりだ。」

「なるほどですね。」


出されたお茶を啜りつつセシルからは目を離さない商業ギルド職員。恐らく我々の動向を少しでも把握したいという事なのだろう、実に商人と商売のためのギルドの職員らしい切込み角度で会話してくる。

しかし、セシルは私の説明通り今後の予定はあやふやにして暫くは動かない事を述べ誤魔化す。


「では、私はこれで失礼致します。何か御用の際はまた宜しくお願いいたします。」


深入りしては失礼と思ったのか、意外と潔くこの場を後にする商業ギルドの職員だった。


「お疲れ様セシル、もぉいいよ。」

「ふぅ~。」


ぴたーんっとテーブルに突っ伏してヘナヘナしている嫁の頭を撫でると、様子を見ていた蝶華が口を開く。


「しかし、妙に観察されているのは何故でしょうか?冒険者ギルドといい、商業ギルドといい。」

「恐らくは私達が噂の聖女一行であることが既に知られていて、様子を見て何かしらのアプローチを持ちたい。そのための情報を得たい誰かしらの指示によるもの・・・だろうね。」

「だからってのぞき見は良くないよね、昨日からずっと・・・だよ。ボク緊張しちゃうよ。」

「そうだね、今から結界石使って結界張って嫁に結界の内側に隠蔽の魔法使ってもらうから。もう暫く辛抱だね。」


無論昨日からこの拠点が監視されていることは分かっている一行(おっさんたち)だったが、初日から結界を張ったり隠蔽魔法を行使してしまえばやましい事をしているのではないかという懐疑の目で見られる可能性が高い。そのため穏便に事を進めていたわけなのだが、四六時中見張られているというのも気分の良いものでは無いため結界を張り隠蔽魔法は使うことにした。




「あ、無駄なことが分かって去って行きますね。」

「悪意ある者は門にも触れられない程度の強度にしておいたから、今後は問題ないよ。」

「午後からは準備だね?」

「そうだね、まぁ嫁の知識が全員あるのだから、その場で説明するだけでも十分なのだろうけれど、何があるかはわかんないから。一応徹底しよう。」


ダンジョン探索、アイテムボックスがあるので持ち物は多くない。武器、少量のポーション、最高級の硬さのピックマトック、植物等の採集用の手袋、そんなものだろうか。

むしろフォーメーションの作り方、緊急時の対応、自分たち以外が困っている場合にどうするか等、不測の事態に慌てないための打ち合わせに時間は多く割くべきだろう。


「蝶華とルシエは魔石やドロップした物がある場合は私の所に持ってきてね。」

「はい。」

「わかったよ。」


説明を終えて日も傾きだしたので、夕飯を何にしようかと献立の思考に入る。自然と立ち上がり腕を組んでキッチンに足を向けスタスタと歩き出す。おっさん的には毎日の事であるためさして意識していないが嫁達は相変わらず突然立ち上がる自分に驚いているようだ。


「旦那様の動き、毎回見てて思うのですが・・無駄がありませんね。」

「あの状態になると献立が決まるまでは話しかけても聞こえてないから面白いよね。」

「二人っきりの時だと空気扱いされてるんじゃないかって不安になる事もあったよ~♪」


夕食が出来るまでの間は三人の女子会が開かれ、リビングに穏やかな雰囲気が流れていた。








一方、冒険者ギルドの執務室では。


「ギルドマスター、先程連絡があり聖女一行の購入した屋敷が外側からは靄がかかった様に見えなくなったそうです。」

「隠蔽の魔法か・・あの大きな屋敷全域を包み込む持続魔法を行使する術師が少なくとも存在すると。」

「でしょうね。今後は如何致しましょう?」

「既に諜報員が差し向けられていることは悟られたとみて間違いないであろうから下げろ。」

「ハイ承知しました。」

「直接手出しした訳では無いから、知らぬ存ぜぬで問題は無いが、接点が無さすぎるな・・・。」

「そうですね、明後日の素材受け渡し時に少し何か仕掛けますか?」

「ふむ・・そうだな、やり方はシア、お前に任せる。」

「わ、わかりました。」


なんとなく分かっていた事だったが、やはり諜報員は気が付かれていた。あのレベルの冒険者達が何の警戒もせずに過ごしている筈など無い。ギルドマスターにもそれは説明したのだが、議会からの要請では断れなかったのだろう。


私もただの職員でしかないため、職務を全うしているだけだがそれにしても危うい橋を渡っている感じが否めない。初めて出会った時からあのPTの面々は異質だった。


後衛であるはずのプリーストが先頭で現場に入ってきて。


PTメンバー全員が落ち着いて目の前の状況に対処する。上級PTである『双牙の団』ですら一歩引いてしまう程の大型モンスターを目の当たりにして一歩も引かない態度。


速度、火力、防御、立ち回り、全てに於いてバランスの取れたPTであり、守られるだけかと思っていた聖女が火力となりモンスターを屠る。


これまで見て来た数多くのPTと比較してもそれは異質であり、しかも圧倒的だった。


しかし、戦闘が終われば私はただの人です・・・と言わんばかりに普通の生活を送っているという報告が続いている。天然なのだろうか?クラーケンの素材で真っ先に所望する部位は食して美味しい部位では無い筈だ!


人王国の冒険者ギルドマスターからの伝書鳩の連絡ではどうなっているのだろうと確認すると、「ちょっと常識で推し量れない分類のPTだが腕は確かなのでそちらに向かうことがあれば良くしてやって頂きたい・・・」と・・・?うちのギルドマスター最初の大事な部分を私に伝えて無かったみたい・・。この情報もっと早く確認してればこんなに悩まずに済んだかも・・・。


がっくりと肩を落としつつギルド諜報部の者に暫く調査中止の旨を伝えてから報告書をまとめていく。


中央議会の面々もそれぞれの伝手によって聖女が来訪する事を冒険者ギルドと同時期には掴んでいたようだったが調査はこちらに任せて報告待ちを決め込んでいる模様。聖女と波風を起こす可能性を残さない為なのだろうか?私には知る由もない。


明後日の素材手渡しの時に何かしらのアプローチを仕掛けて情報を得ねば大した報告にもならない為残業して一人デスクで試行錯誤する・・・。


「残業代出るのかしら?あぁ私もクラーケンのゲソあたりで一杯やりたいのに・・・。」


猫獣人のシア、26才、現在彼氏無し、好きな物:酒、肴、可愛いモノ。容姿は悪くない、成績優秀で性格は真面目、少々人を頼れないのが欠点、それ故彼女のデスクは今夜も遅くまで明りが灯っている。

彼女にいつ婚期は訪れるのだろうか?


「おっさんかよ・・・。」


大きく一人で自虐的な自己分析に突っ込みを入れてから濃い目の紅茶をグイッと流し込み、インク壺にペンをねじ込んで再び紙と向かい合うシアだった。



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