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おっさんは聖女になりて異世界を憂う  作者: とくみつ ろゆき
中立商業都市・魔国編 人々の営みと聖女の憂い
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活動拠点とイカ尽くし

中立商業都市の商店をくまなく見まわって、醤油っぽいもの、昆布っぽいもの、鰹節っぽいもの、米の様な穀物をゲットしてホクホク顔の一行は、拠点の候補地を探すべく商業ギルドの門を叩いていた。


「・・・すまない、この街で行動をするための拠点となる家を探しているのだがここで合っているだろうか?」

「はい、こちらで紹介することが可能です。失礼ですが何か身分を証明できるものをお持ちですか?」

「これで良いか?」


セシルが胸元から上級冒険者のギルドカードを差し出す。カードには目もくれずに受付嬢はセシルの両肩に付いている記章に目が留まり絶句している。


「え・・と、高貴なお方とそのお連れ様・・で宜しいでしょうか?」

「身分をひけらかす趣味は無い。3人は親愛なる私の家族だ・・。」

「ええ・・ハイ、上級冒険者のセシル様ですね確認が取れました。」


おっかなびっくりの受付嬢に対してセシルは堂々と話をしている。獣王国と人王国の記章の効果もあって口数が少ない事が良い風に誤解を招いているようだ。身分の高いもの程一度に語る言葉の文字数は少なくなる、セシルのそれは受付嬢の誤解と相まって高貴な身分の者の態度として認識され、スムーズに話は進み、


「では大通りに面した南区角のこの辺りを中心に考えるという形で宜しいでしょうか?」

「・・・構わない。」


ちらっとこちらを振り向いて一瞬『いいよね?』って素に戻る嫁が可愛くて笑ってしまいそうだったが、何とか堪えて商業ギルドの外へ出る。


「お待たせしました、ご案内致します。」


3軒程の屋敷を見て回る。一件目は広すぎて却下。二件目はそれなりで、それ以上ではない感じ・・。


「こちらが最後の物件になります。」


改装前のコテジを少し大きくした感じの広さの屋敷で部屋数もそこそこあり良い物件だった。お風呂場も大浴場と儀式用で分かれていて急な来客などの対応も出来る仕様となっており、キッチンも広々としている。


「・・・ここで良いか?」

「問題ありませんよセシル。支払いはこれで、」

「良い物件ですね。」

「気に入ったよ。」


革袋には金貨が5000枚ほど入っている。2000枚は蝶華に渡した分がヴァイスプレ閣下によって支払われて浮いた分、残りの3000枚は獣王と人王の策略によって無理やり持たされたものだった。


「これで足りるか?」

「ええ、十分です。契約書の作成など細々とした事は商業ギルドで行い、御釣りと共に明日持って伺います。それでは、こちらがこの屋敷の鍵になります。」


手渡された屋敷のカギをセシルはくるっと振り返って私に手渡す。内装の仕様変更などは可能だし、家具もアイテムボックスにかなりの数残っているので買い物する必要は無い。


深々と頭を下げて去って行く商業ギルドの職員を見送って、一階のリビングの何も無い空間に4人が立っている。


「セシルお疲れ様、通常モードに戻っていいよ。」

「ふぅ、長時間は無理ぃ~♪」


コテジの拡張の時と同じで家具を必要な場所に出していき位置の微調整を行っていく。レイアウトは蝶華、移動は嫁とルシエが行っている。


「こんなものですかね。」

「終わりぃ~♪」

「意外と楽だったね。」


てきぱきと作業を終え、ロウテーブルとソファが置いてあるところで三人が寛いでいる。動いた後だから冷たいお茶を出しながら全員に言う。


「皆も一緒に見て回ったからわかるだろうけれどこの都市は比較的安定していて私たちが無理に介入する様な事は少ないと思う。」

「だよねぇ、孤児院も潤沢な寄付金と優しそうな牧師さんで皆不自由はしていない様だったし。」

「貧民街そのものがありませんから。」

「凄いよね。」


全員が座ったまま都市の良い所や悪い所を話し合っている。多少の部分を目を瞑れば概ね問題ない、それが中立商業都市の現状だった。


「なので、拠点も得た事ですし、ここでは迷宮(ダンジョン)の探索とちょっとした金策を行っていきたいと思います。」

「ハイハイせんせぇ~♪」

「何ですか、嫁?」


挙手して学生気分の嫁を指して、悪乗りに付き合ってあげると嬉しそうに発言する。


「ダンジョンって普通に潜るの?」

「まさか?」

「だよねぇ・・・。」


嫁は私のダンジョン探索がどのようなものであるか把握している。嫁の知識のある残りの二人も知識としてはあるだろうが、実際の所は分からないだろう。


「コテジの鍛冶場で太郎の手入れしなきゃ・・・。」

「?そこまで強いモンスターが出る報告は無かったと思いますが?」

「セシルが青い顔してるよ・・どうしてかな?」


私は嫁がコテジへ転移する許可を出して残る二人に向き直る。そして冒険者ギルドで入手したダンジョンの全ての情報を手渡す。


「発見されている全てのダンジョンをくまなく探索します。深いものだと2週間程度の期間は潜りっぱなしになる予定ですから、準備は怠らないで下さいね。」

「これ、全て回るんですか?」

「ひぃ、ふぅ・・羊皮紙いっぱいある・・・。」


普通の冒険者はダンジョンの奥にある秘宝か何かを求めて危険に立ち向かうが、おっさんは秘宝などには興味が無く、探索する為にダンジョンに潜る。周回が嫌いなおっさんは同じダンジョンをぐるぐるする事を嫌い、一度で出来うる限りくまなく詳しく徹底的にダンジョンを探索する。

そのため前衛は敵と邂逅する頻度が跳ね上がり、気を張る時間も長くなる。笑顔で回復魔法を唱え、『さぁ、行きましょうか?』と声をかけるおっさんを何度も見ている嫁などは一目散に準備に取り掛かるのだった。


「成程、この知識は旦那様の危険性と異常性を訴えるモノだったのですね。」

「ダンジョン探索マニアって凄いね。」


嫁の知識の中の私は探索・殺戮サーチアンドデストロイを交互に行い休息は少なめで少数精鋭のPTによる短期ダンジョン踏破を行う権化の様に認識されているらしい。不名誉な称号ではあるが限られた時間で有意義な探索を進めて行く上では必要な事だった。今回は時間に制限など無いので普段VRMMOでやっていた時よりはゆとりのある行動をしようと思っている。


「明日はギルド職員の方が来られますし準備期間としてお休みにしますので、嫁から話を聞いてしっかりと探索を行えるようにしておいて下さいね。」

「わかりました。ご期待に沿えるよう頑張ります。」

「ぼ、ボクも頑張るよ。」


二人がやる気になって支度を始めたので、夕飯の支度を始めていくことにした。嫁はお腹がすいたら帰って来るであろうことが確実なので心配は無用だ。


「クラーケンがいっぱい・・・イカ尽くしかな。」


刺身、炒め物、揚げ物、あえ物、煮つけ、この際なので全部試して作ってしまおうと思い立ち調理場へと進む。

刺身はイカそうめん風に細長く切り分ける。

炒め物はオイスターソースを用いて中華風にアレンジを加えたもの。

あえ物はキュウリと鰹節の様なものを用いて梅肉を少し加えたもの。

煮つけはあっさりとして柔らかくなるように大根と共に煮込む。


内臓を取り分けるとかの下ごしらえをする手間が無い分あっさりと終ってしまった。仕方がないのでイカ飯も炊こうと思い下拵えを行い竈の火にかける。


「良い匂いですね。」

「クラーケンの香りと醤油の風味が。」


クラーケンも見た目通りイカだと仮定するとグリシン、アラニン、プロリン、タウリン、リジン、ベタイン等のアミノ酸類、核酸関連物質(特にアデノシン一燐酸AMP)、糖類、トリメチルアミンオキサイド等うまみ成分は豊富だろう。嫁では無く残った二人でさえキッチンに吸い込まれるように誘われる。


「多分もう少ししたら飯感知センサーが働いて一人帰って来るから、夕食にしようね。」


フォンターレ領を出てから、野営はするものの作り置きを出していてきちんと晩御飯を作るのは久々だった。作るのも好きなのだけれども、作っている最中に色々お話しして楽しむことが出来るのもしっかりとした拠点があってこそだな、と今回買った家を見回して思っていると。


「お腹減った~♪イカだね?イカだよね?」

「そそ、もう炊き上がるから手洗いうがいが先だよ。」

「はぁ~い。」


嫁の後を追うようにして残りの二人も手を洗い席に着く。


「予定通りのイカ尽くしだよ、召し上がれ。」

「「いただきます。」」


こうして中立商業都市での拠点を得た一行はダンジョン探索に向けての準備を進めて行くのであった。














「家を買った・・・?だと」

「はい、大通りに面した南側一等地です。」

「それで、不穏な何か動きはあったのか?」

「いえ、窓越しに鼻歌交じりにエプロン姿で夕食を作っている聖女が鼻血ものだった・・という報告が上がっている程度です。」

「エプロン姿か・・・いい・・。」

「ゴホン、早速クラーケンを食したようです。」

「そうか、引き続き監視を怠るな。」

「了解しました。」





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