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おっさんは聖女になりて異世界を憂う  作者: とくみつ ろゆき
人間の国編・教会を救いし聖女の憂い
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人は人を救えるか





早起きしたリアは早々に朝食を済ませて宿屋の女将さんと話し込んでいた

スリの話以外の教会の現状部分を女将さんに話すことで、少しでも市民に知ってもらうためである


「そうかい、教会と孤児院でねぇ」

「はい、私気になって、今日も今からシスターの所へ行ってみる予定なんです」

「頑張るんだよ、ただ、深入りして貴族がもし出てくることがあるなら注意してかかるんだよ」

「貴族ですか、わかりました色々情報に感謝です」


そう言ってお茶を啜っているとセシルが遅めの朝食に起き出してきたようで


「女将さん、おはようございます」

「寝坊助さんだねぇ、朝食かい?」

「お願いします」


寝起きで気怠い顔をしているセシルはゆっくりと私の前の席に座る


『あ~、あ~、マイクテスト、マイクテスト、本日はヘイテンなり、聞こえる~?』

『聞こえてるよ』


初日に確認した夫婦間通信呪文で嫁が話しかけてくる

寡黙モードだと会話も少なくてちょっと寂しかったらしい


『今日はどのようなご予定なの?』

『ん~まだ確定では無いんだけれどね、教会について色々探っていくと貴族と諍いになる可能性があるみたいなんだよね』

『あらぁ、アナタ諍いとかってすごく苦手じゃない?』

『そう、強気に罵倒とかはできないし、嫁、君の力を借りることになるかも知れないから』

『了解、軽装備で動ける様にセットアップしておくわ~』

『お願い』


会話しつつも黙々と食事をするセシルを器用なものだと見つめながらおっさんは思考の海にどっぷりつかっていた


おっさんと嫁は互いに3~5種類の思考を脳内で任意に別々の角度で考察することができるタイプの人間である

IQが極めて高い人間にまれに存在するそれをたまたま夫婦で持ち合わせていた

会話を聞く主人格、受け取った情報を振り分けていく副人格、考察する第参以降の人格達、その全てがおっさんであり、また嫁もそうであった

表層にある主人格には思考する人格から上がってきた情報のうち確定して口に出せるもののみが浮き上がって言葉となる、つまり考えている大部分は考えているうちは思考の渦としてしか認識されない

女神スィーリズが思い悩んでいたのはこの能力故にであろう

ネゴシェーターに多く存在するというこの思考を一時的に停止できるという神がかったスキルをフル活用して常人よりも2~3倍の情報量を2~3倍の速度で理解し平然と生活しているのである


「支度が済んだ、行こうリア」


ぱっと見上げるとセシルが食事と支度を終えて部屋から食堂に向けて歩いて来ていた


「いこっかセシル」


リアはセシルの腕にしがみつくようにエスコートされて宿屋を出ていくのだった



教会に到着すると、教会施設の側の清掃を孤児院の子供たちが一生懸命行っていた

その中にはシスターの姿もあり、二人を見つけて手を止めて顔を上げ明るく迎え入れてくれる


「昨晩は本当にありがとうございました、感極まってしまってきちんとしたお礼が遅れてしまい大変申し訳無いですわ」


昨日はベッドの上で背中を丸めていたシスターを見ただけだった、60代中ごろかな?と思わせるような雰囲気だった

今日は本来の溌溂とした笑みを浮かべて子供たちを束ねている


「お力になれて良かったです」

「さぁコチラにいらして、お茶をお出しします」


シスターに導かれ礼拝室の裏手にある小会議室の様な小部屋に入る

6人掛けのテーブルに並んで座ると、お茶を準備したシスターがリアとセシルの前に座った


「さて、お二人はこの教会の何が知りたいのかしら?」

「まずは信仰からですかね、私達は遠い異国から旅をしてきたのでこの国の教会について殆どと言って良いほど何も知らないのです」

「まぁ、そうだったのですね、この教会の信ずる神は唯一神スィーリズ様になります」

「唯一神ですか?」

「ええ、聖典には創世の女神スィーリズ様以外の名は無く、神の教えは全て彼女のもたらした物である、とあるわ」

「なるほど、女神スィーリズ様以外を崇めている宗派や宗教なんていうのは存在するのですか?」

「人間の領地には少ないですけれども獣人などの亜人種族は自然崇拝、魔族などは破壊神を崇拝するという者もいるそうです、この国では異端扱いになってしまうのですが」

「そう、ですか」

「ですが、ここで私たちが子供たちに教えている教えは聖典が全て・・というわけでもありませんの」

「というと?」

「神名はなくとも自然への感謝は忘れてはなりませんし、破壊が無ければ再生も無いわけですから中央教会の高位神官が取り締まっている教会組織以外の中小の教会は自由意志、自由思想をある程度活かしていければと考えております」

「素晴らしいですね、中小教会を束ねている方のお名前をお聞きしても?」

「高神官レイネ様ですわ」

「ありがとうございますとても分かりやすい説明でした」


一旦話を区切って雑談などをしているとお昼に差し掛かろうとしていることがわかった


「シスターには沢山の事を教えて頂きましたし、お返しにお昼ご飯を孤児を含めて全員分作らせて下さい」

「シスターこの教会と孤児院で全部で何人いるのでしょうか?」

「神官長は只今中央教会の方へ出ておりますので、私と、巫女(シスター)見習いが2名、孤児が20名程になりましょうかリアさんお一人では結構な量になりますし大変なのでは?」

「構いません、奉仕こそ聖職者の喜びの一つですし」

「まぁ、素晴らしいお考えですね、では宜しくお願い致しますわ」


孤児院の厨房へと移動したおっさんはまず何を作るかを思案していた・・・・

子供、たくさん、大好き!


「カレーだな」

「カレぇ~♪」

「芋の皮むきと、玉ねぎ刻むのは任せたよ」

「りょ」


甘口カレーを作ることにした、材料はほとんどアイテムボックス内の物を使用、この街の人はお米になれていないだろうから、ナンをフライパンで焼いていく

甘口ということで玉ねぎをひたすら炒めて、マンゴーチャツネを加えて、少量のニンニクとバターも加えてネバネバした茶色い何かが完成する

香りに釣られて何人かの孤児たちが扉の隙間から覗いているのが見えているが、お楽しみは後に取っておいてもらおう

大鍋で初日に使用した鶏肉の残りで出汁を取って硬い物から煮込み、ネバネバを投入、カレールーはオリジナルの物である、薬師の調合のついでに色々研究して薬研で作ってしまったという代物だ


「味見してみて、辛い?」

「ん~ん丁度いい!」


嫁は根っからの甘口派であるので丁度いいと言えば間違いなく甘口カレーの完成である

孤児院の食堂は長い長いテーブルに全員が座れるようになっている、まず一皿目に大きめのナンを2枚、行きわたったところでカレーを少し深みのある器に、大鍋をワゴンに乗せた状態で一人ずつ配っていく


「良い匂い」

「でも、茶色いね」

「なんだろう?これ」


子供たちはカレーを見たことが無いようなので挨拶代わりに一応苦し紛れの説明をすることにした


「皆さんこんにちは」

《こんにちわ(孤児含め全員)》

「私は聖職者をしているリアです、本日はここからず~っと遠くの国のお料理を皆さんと食べたいと思います、服を汚してしまうと中々落ちないので、たくさんありますからゆっくり食べましょうね」

《ハーイ(嫁含め全員)》


シスターが静かに手を前に組むと、孤児たちも一瞬にしてそれに倣って手を組み目を閉じる


『神が今日も我々に日々の糧をお与え下さいました、恵みを享受する我らは敬虔でありましょう、勤勉でありましょう、多くを望まず、今日を出し切り、明日を生きましょう、感謝の祈りを』

『感謝の祈りを(シスター以外)』


初めての料理におっかなびっくりな孤児達だったが、一口食べた後、目を見開いて全員が一心不乱に食べてくれた

食後の清めは孤児たちの仕事らしく、食後は再びシスターと小会議室の様な部屋に戻っていた


「大変美味しい料理でした、リアさんセシルさん有難うございます」

「いえいえお気になさらず」

「炊き出しは慣れているので問題ない」


向かい合って座るシスターに頭を下げられてこちらも頭を下げ返す


「午後からは少し込み入ったお話を聞かせて頂きたいのです」


リアが切り出すとシスターは何の話だろう?と首を傾げつつ


「と言われますと?」

「率直に伺います、現在この教会の運営資金はどこから出してもらっているのでしょうか?」

「国から補助金が組まれて、街を通して、市民ギルドから捻出されているはずですが、何か問題でもあるのでしょうか?」

「なるほど、ではその補助金は十分に衣食住あとは神事などの資金も賄えていますか?」

「それは・・十分とは言えません、ですが足りないとは言える立場には教会はありませんので」

「それは教会が国や街に隷属することを暗に示唆するものと考えてもよろしいですか?」

「結果的には、そうなりますね」

「わかりました、こういった話はシスター以外には聞けないもので責めるような言い方になってしまって大変心苦しい限りです」

「リアさん、は法の番人かなにかなのでしょうか?」

「いいえ違います、ですが唯一神から一応承認は・・得ています、と言ったらわかるのでしょうか?」

「リアさん、あなた、いえあなた様は!!」


平伏そうとするシスターを手で止めて椅子に座りなおして貰う


「ああ、改まらないで下さい、今まで通りで結構です」

「ですが・・」

「私とセシルは同じ人として、この世界の・・今はこの国とこの街を見、聞き、学び、そうしてから手の届く範囲だけでも多少の幸福を配っていけたら良いと思っているだけなのです」

「リアさんは聖女なのですね?」

「名目上はそうなりますか・・」


やれやれといった表情で少し項垂れるリアをシスターは何か神々しい物でも見るかのように見つめている

リアは顔を上げて人差し指を立てて唇の前で止め


「今この国でこれを知っているのはシスターだけなので、内密にお願いしますね」

「ええ、ええ、間違っても、口が裂けても口外致しませんわ」

「ありがとうございます」


そこまでの話を終えてお茶が冷めてしまったとシスターがお湯を取りに一度下がった

リアは腕組をしたまま目を閉じているセシルの脇をくすぐる


「アハハッ、クッ、何、寝てない、寝てないよ!」

「本当に?」

「うん、もしかしたらチョッとだけ寝たかもだけど・・」


ジト目で睨みつけると、嫁はシュンと小さくなった

リアはセシルの両肩に手を置いて少し力を込めて


「シスターの話から、まずは市民ギルドを洗って、余裕があれば街の会議の方も洗ってくれる?」

「うん、お金の流れと人の出入りでいいの?」

「そうだね名簿と議事録なんかもあれば満点かな」

「了解!」

「何か問題や気づきがあれば通信頂戴ね」

「うん」


音もなくセシルは扉を開け教会から出かけていく、リアはシスターが戻るのを待ちながら再び幾つかの思考を重ねて最善策を模索していた


私に何が人の為に行えるだろう?そう問いかけながら・・・

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