冒険者ランクアップ
翌朝宿屋の食堂で朝食をとり、冒険者ギルドに向かう前に少し打ち合わせをする。
「わたくし今日はリアでいきますから、セシルもそのつもりでお願いしますね?」
「・・・わかった。」
人王国と獣王国では事情を知っている者が多かったため、メイン人格を切り替える必要性がそこまで無くなっていた。しかし、新しい場所で後ろ盾が無い今、いきなりフランクに全てを晒していくわけにもいかないので、ある程度ボロが出ても寛容な人物と出会うまでは面倒ではあるがセシルに頑張ってもらいたい。
冒険者ギルドではクラーケン討伐の報酬と素材の引き渡し、商業ギルドではこの土地での拠点作成のための準備をしようと考えているのでセシルの頑張り次第で今後の予定が大きく変わって来る事が予想される。
しかしながら全く何をするにしても急いではいないのでどんなに残念な状態になったとしても嫁を責めたりする気はないし、マイペースな彼女に合わせて四苦八苦するのも慣れたものなので、私自身気負う部分は全くないのだ。
「・・行くぞ。」
静かに立ち上がるセシルの後に続いて宿屋から通りに出る。
中立商業都市は四国よりもやや狭い面積の土地に約200万人が暮らす、南北に都市が二つあり治めているのは中央議会という商人と貴族の代表が5人ずつで構成している自治機構である。
中間貿易をする者の集合体で、貴族も商人も金の前では等しい立場で向かい合いある意味円満な自治を成り立たせているそうだ。商いをせずに暮らすものはごくわずかで、船団護衛などを請け負う傭兵集団、貴族の従者達、食堂や宿屋の従業員、残りは冒険者といった者となる。
もちろん中間貿易だけでなく小売りもしているため、通りには店が立ち並び活気がある。
獣王国や人王国との関係も良好、反対側の大陸である魔王国との貿易も盛んで、多様な人種と文化を融合させた歴史ある都市なのだが、言語は一風変わっていた。
「リア・・・あれ・・・漢字っぽくないか?」
「そうですね・・どう見ても漢字ですね・・。」
一生懸命セシルしている嫁に感心しつつ、店先にある看板を見ると、布卸とか肉卸とかと書かれた看板が並んでいて間違いなく漢字の形で書かれ、女神の加護による翻訳でも意味はそのままだと理解できる。
「あれがこの都市の共通語の『商字』というものです。」
「蝶華詳しいね、感覚共有譲渡で意味は分かるけどボクあれ読めないよ知ってるの?」
「私が長に拾われたのはこの中立商業都市の孤児院に居た時、読み書きが出来ることを見込まれて養子となったのです。」
「そう、なのだな・・言い辛い事を聞いてしまうことになって、その・・申し訳ない。」
「ゴメンねボクもそんなつもりじゃなかったんだよ。」
少ししゅんとした雰囲気になってしまったのを振り払うように蝶華が笑顔で、
「気にしなくてもいいんですよ、長と出会ってから、皆さんと出会ってから、私の世界はとても明るくなりました。孤児だった昔を今尚恥じることはありませんから。」
「そうですか、お父さんとの出会いがあった場所がここなのですね。」
「はい!」
胸の前で拳を重ねてギュっと力を込めて笑顔の花を咲かせている蝶華を3人で微笑ましく見つめていると、目の前に冒険者組合詰所という看板が目に入り中へと進む、今までの街とは打って変わって身なりがきちんとした者が圧倒的に多い、固定の仕事を持ち信頼を勝ち取るためにはやはり第一印象がだいじなのだろう。
受付にいる少し耳の長い女性に声をかける、
「初めまして、この時間に副ギルド長のシヤさんから招集をかけられている冒険者のリアと申します。」
「はい、伺っております。全員のギルドカードをお預かりしてもよろしいでしょうか?」
何の疑問も持たず、全員の銅のギルドカードをまとめて受付嬢に手渡す。
「確認いたしました、では、執務室にご案内致しますね。」
スリットの入ったタイトスカートで上はブラウス、首にはギルド職員の証である緑色の宝石がはめ込まれたペンダントが輝いていて、長身でとてもスタイルの良い受付嬢の後を4人はついて行く。
冒険者ギルドの建物はほとんどの造りが同様になっていて執務室は二階の右側の部屋、扉を開けると低めのソファに副ギルド長シヤと大柄な男が座っていた。
「お待ちしていました、リア様とそのお仲間の皆様、どうぞお掛けになって下さい。」
私は『様』と言われたことに引っ掛かりを覚えつつも、言われた通りにソファに座る。私、嫁、蝶華、ルシエの順に奥から座り、私の前に大男、一人分スペースをあけてシヤが座る形になった。
「まずは挨拶させてもらおう、中立商業都市冒険者ギルドのマスターをしているディオンという今後ともよろしくな!」
頭を下げるディオンに合わせて全員で頭を下げる。
「それではまずは形式的に報酬の授与と冒険者ランクアップの報告をさせて頂きます。今回討伐されたクラーケンは冒険者ギルドで緊急討伐対象に指定されたモンスターであり、報酬は戦いに参加された全てのPTに等しく分配されます。」
そう言ってシヤは布袋に入った金貨を手渡してくる。蝶華が丁寧に受け取り鞄にしまう。
「さて、冒険者としての活動は皆さんほとんどされていなかった様ですが、実際に戦う姿を拝見して『銅』冒険者の枠には収まらないことが確実なので『銀』の冒険者として扱うことを決定させて頂きました。」
「報告を聞いて驚いたぜ、4PTで手も足も出なかった相手に一瞬で勝っちまうとわなぁ・・・この都市の上級者PTには連絡済みで了承も得ているから安心して受け取ってくれ。最後になっちまって悪いがここの管轄の冒険者達の命を救ってくれてありがとうよ、心から感謝するぜ。」
「という事で全員分の上級ギルドカードと特別報酬金貨100枚です。併せてお受け取り下さい。」
これも蝶華が黙って丁寧に受け取り、全員にギルドカードを手渡す。
「一つ良いでしょうか?」
「何でしょうリア様?」
「クラーケンの解体された後の部分は多少でも貰えたりしますか?」
「そうですね、基本的には報酬で相殺する仕組みなのですが今回は事情が事情ですし・・・どのような素材が欲しいのでしょうか?」
「食すととても美味しいと聞きましたので、食べられる部分であればどこでもいいです。」
「・・・・・。」
「・・・・・。」
目の前にいる二人ともがハテナ顔で押し黙ってしまった。なにか変なことを言ってしまったのだろうかとおろおろと周囲を見回していると、
「わ、わかりました、美味しいとされている甲の一部と目の部位をお渡しするようにします。何分大きなもので少量をすぐにお渡しして、残りはもう少々お時間がかかると思いますが宜しいですか?」
「鮮度管理さえできていれば問題ありません。」
「・・・・・。」
「・・・・・。」
似たような変な間が空いて電源が入った様にシヤが言う、
「解体所は海に面しているため魚系のモンスターが多く集められます。鮮度管理のため氷の魔石を使用してますので問題ないですよ。3日後には残りの分全てをお渡しできると思いますのでまたこちらにいらして下さい。」
「了解しました、私達はシヤさんに勧めて頂いた宿に暫く滞在して都市を見回っていますので、また伺います。」
用事は済んだとばかりに頭を下げて挨拶をして、私が立ち上がると3人も同様に頭を下げてから立ち上がり執務室を後にする。
都市を見回ったり、買い物をしたりと初めての街は刺激に溢れている。一旦宿に戻って作戦会議でもしようと話しつつギルドをあとにする一行だった。
「・・・・。あれが聖女・・・様・・か?」
「・・・・。はい・・・間違いありません、小さくてカワイイ、強くて堂々としてて・・でも何だかそんなに遠い存在には見えませんでしたね。」
「そうだな、引き続き監視を頼む。」
「了解しました。」
執務室の二人は何だか聖女のえも言えぬ雰囲気に少し顔がにやけていたのだった。




