4章プロローグ
「海~♪」
「海ですね・・・。」
「久しぶりにこの辺りまで来たよ。」
「ルシエは初めてじゃ無いんだっけ?」
「そうだね、定住前の放浪してた頃に何度か行き来した事はあるけど。」
「けど?」
「逃亡中だったし、あんまり良く見て回れてない。」
「そっか、そうだよね。」
揺れる馬車の中から海が見え、港町までもうすぐの所まで聖女一行は来ていた。潮風が頬を撫でて心地よい。まだ暑さは残っているため、泳ごうと思えば海水浴も出来るかも知れない。
「皆、泳げるよね?」
「知っての通り私は泳げるよぉ~♪」
「泳ぎは諜報にも必須スキルになってますから。」
「泳いだ事無いよ、水浴び程度かな。」
「ふむふむ、機会があれば水泳の練習をしようかルシエ。」
「うん、旦那様となら何でもするよ。」
一応水着も各種アイテムボックスには入っているし、問題ないだろう。ルシエだけずるいとか私も教えて欲しいとかっていう嫉妬の意見はあっさり無視して港町へ向かう街道の先を見つめていると程なく到着した。
港町に入り、中立商業都市行きの定期船の予約をしてから、話し合いの結果出航までの時間は各自自由行動時間となりぶらり観光気分で嫁とルシエと共にマーケットを見まわる。
海沿いならではの果実、海産物や雑貨、見慣れない魔道具などそれまでの街や村などには無いものが並んでいて好奇心をくすぐるが、中立商業都市で買い物も行う予定なので無駄使いは禁止して屋台で昼食用の簡単なものを買う程度にして船着き場へと向かう。
生き物はアイテムボックスで運べないため馬車を収納して馬のみ運ぶ事となる。蝶華が一人船への馬の積み込みの注意などを受けるため一人残ってくれていた。
彼女と合流してから船着き場近くで屋台の軽食を食べ、乗船時間となったので甲板の上に降り立つ。
「ほわー大型の帆船~♪横浜で見た事しか無いよぉ~!」
「横浜って言ってもこちらでは誰もわからないよ。」
50メートル近く伸びるマストを見上げて嫁が騒いでいる。確かに日本丸に似ているが、帆の数は少なめで少しなだらかな外観から考えると定期船らしく速度よりも安定性を重視した船であることがわかった。
「この帆船アミーチェ号は3代目で、大型化と積載量増加を進めて行った結果この形になったそうですよ。」
「へぇ詳しいんだね、蝶華。」
「馬の積み込みが5分程で終わり・・残りの時間はこの船の歴史をひたすら船員から聞かされるだけでしたので・・・・・。」
「それは、なんというか、お疲れ様。」
そんな風に甲板で4人で今か今かと出航を待ちながらワイワイ甲板で騒いでいた。
中立商業都市冒険者ギルド内執務室
「人王国と獣王国が平和になって護衛とかの危険任務が減って良かったですねギルマス。」
机の上にお茶を出しながらニコニコ顔の猫獣人がそう語る。
一番奥にある執務机の傍に立っている大男、ギルドマスターである彼は都市の街並みを見下ろしながら少し目を細めて言葉を返す。
「そうだな、しかし冒険者というのは何時危険が待ち構えているかわからんものだ。」
「まぁそうなんですけど。ところでその平和の懸け橋となった聖女って知ってます?」
「金髪碧眼のプリーストだったか?」
「そうそう、聞く所によるとちっちゃくてすごくカワイイらしいですよ。私会ってみたいなぁ。」
「お前はサブマスターなんだから会う機会もあるんじゃないか?一応冒険者登録もしているのだろう?」
「ええ、ですがほとんど依頼も受けてませんし最下級のまま。個人情報も人王国ギルドの方で改ざんされているようではっきりとした素性が分からないというのが本音です。」
「お前が調べても埃が全くでなかった・・・と?」
「そうです。手抜きじゃないですよ?」
「そうか・・。人王国のギルマスからそちらに行くことがあれば宜しく、という風な手紙が先日届いた。」
「来る、という事を暗に示唆していると?」
「そうだ。この都市に入ったら上手く誘導して連れて来てくれないか?あってみたいんだろ?」
「わかりました。」
サブマスターの猫獣人が執務室を離れ、二階から一階の受付カウンターの傍に差し掛かったあたりで大声を上げてギルドに飛び込んで来る者がいた。
「大変だ!クラーケンが・・・最近じゃちょっと見なかったサイズのヤツが現れた!!」
「えっ?本当ですか、で・・では、ギ・・ギルドで対応を・・・・」
「私が対応しましょう。どのあたりで目撃されたのですか?」
「サブマスター。」
飛び込んできた漁師風の格好の人間の勢いに押されて慌てる受付嬢に代わって事情を聴く猫獣人。
「猫人さん、丁度港町からここへの航路の真ん中を過ぎたあたり、青魚が獲れる漁場があるあたりでさぁ。」
「私は中立商業都市都市ギルドサブマスターのシヤです。この件はギルドで全面的に対応致しますのでご安心を。」
「有難う。恩にきるぜ。」
足早に去って行く漁師を見送り、ギルド内のホールに向けてシヤは声を上げる。
「皆さん聞いていましたね?緊急招集です!大型クラーケン討伐クエストを発動します!!船はギルド武装船2隻、最大メンバーは4PT16名と私で参ります。中級冒険者以上を参加条件とし報酬は4分割、さらに緊急対応としてギルドからも褒章が出ます。今から1時間後に出航予定ですので準備が整う方を優先します。」
シヤが凛とした声でそう言い放つとホール内の冒険者達はざわついていた雰囲気を一瞬にして冷静なものに変えてPTのメンバー達と会議を始めた。
「俺達は参加するぜ!」
「『双牙の団』ですか、近接、魔法共にバランスの良いPTですね。了解しました支度をしたら一番艦へ。」
「わかった。」
『双牙の団』は上級者2名中級者2名の中立商業都市冒険者ギルド内ではトップクラスのPTである。アタッカーの双剣使いディフェンスの大盾使いが軸となり、魔法使いと弓使いが後方支援をするというバランスが取れたPTで彼らの参加により、安心感が出たのか残る3PTもすんなりと決定した。
「では締め切ります。一時間後に船着き場、各指示された船に乗船ください。皆さんの奮起に期待します。」
「おおおおぉぉおおおぉ!」
迷宮が溢れる事でも起きない限りは平和なギルド内が異様な熱気に包まれている。シヤも獣人であるので戦闘前のこういった熱気は嫌いでは無かった。
クラーケンも数年に一度は航路や漁場の周りに出現するモンスターで対応したのも一度や二度では無いため冷静に対応できている。
一時間後に支度を整え2隻のギルド武装船は出航。
シヤを含めて全ての者がいつも通りの狩りになることをある程度予想していたが勿論毎回上手くいかないことを誰しもが理解していた。
していた。筈だった・・・・・
「何アレ・・・。」
「でけぇ・・・。」
通常のクラーケンの3倍はあろうかという大物、30メートル近い体が水面から見えている。
「これは、久々に気を引き締めなければなりませんね。」
甲板の上でシヤは長剣を手に取り握りしめ、そうため息交じりに独り言ちた。




