3章エピローグ
慌ただしかった数週間が過ぎ去った後人王の視察を終え、一か月ほどをフォンターレの復興と、人王国と獣王国の間で行われた講和会議の裏方業務をこなして過ごす一行。
一か月を経過したフォンターレは緑の青さを取り戻し、豊かな水を湛える美しい景色に戻っている。ルシエの顕現させた大精霊達はその役目を終えて静かに精霊界へと戻って行った。
講和会議は双方の国の提案もあり事の中心となったフォンターレ領で行われ、式典の準備に追われるレミアをレイネが献身的にサポートする姿が印象的でとても微笑ましかった。
聖女一行は必要な物資の輸送と要人警護や料理の制作などの裏方業務を請け負う形で貢献しただけだったのだが、両国の和平を無条件で受け入れるという調印が終わった後に会議が延長され、終わってみれば何故か議事録は聖女の名のもとに執り行われた正式な記録として両国間で一部ずつ丁重に保管される事が決定されていて全てが終わった後に報告を受けた、解せぬ。
講和会議終了から一週間で獣王とレイネの結婚式も行われた。無理やり牧師まがいの事を頼まれ何度も丁重にお断りしたのだが結局一国の長二人の推薦状の前に屈服し、渋々受諾。結婚式への参加後一週間ほど獣王国で全員で滞在し、今に至る。
「ふ~獣王国のモフモフも十分堪能した感じだねぇ~♪」
砂の固められた中央通りで買い食い中の嫁が串焼きを頬張りつつ言う。
「これからに向けての買い出しも済んだし。心残りは無いかな?」
「私はもっと触っていたかった・・・です・・ですが、旦那様とならどこへ向かおうと構いません。」
モフモフに最もご執心だった蝶花は少し残念そうだ。
「ボクは砂っぽいから早くほかの街に行きたいかな。」
飽きっぽい性分なのかルシエは次の事を既に考えているようだ。先ぶれを宿泊していた宿から出しているので4人で獣王の待つ王宮へと歩きながらそんな会話をしつつ、既に顔パスになっている宮内の離宮会議室へ到着した。
「突然の面会依頼に驚いたぞ、もう旅立つのか?」
「ええ、急ぐ旅ではありませんが色々な場所をみてみたいですから。」
扉を開けると察した様に獣王が声をかけて来た、レイネは隣で少し俯きがちに黙っている。
全員が席に着いたのを確認して、改めて深く頭を下げ獣王にお辞儀をして、
「この度は滞在を認めて下さり、宿から何から手配して頂き本当に有難うございました。」
「其方が頭を下げる事では無い気にするな、其方はわが国の英雄だ、この程度は当然の事。」
「わかりました、では早速本日この国を離れて、フォンターレに寄って挨拶をしてから出発します。我々一同陛下とレイネ様の末永いお幸せを願っております。」
「・・・・・」
レイネは押し黙って、少し震えている。
「レイネよ、折角の門出なのだ、祝ってやろうでは無いか?其方と妹君の両者を救い導いた聖女様が今旅立つというのだ笑って送り出すのが礼儀であろう?」
「・・・・です。」
「何?」
「寂しいです。そして聖女様達の旅を見守れないことが悔しいです。でも今の暮らしにとても満足している自分が居てとてももどかしいのです。」
顔を上げたレイネは笑顔で涙を浮かべていた。獣王は慣れた手つきでハンカチを取り出しレイネの涙をそっと拭い、
「寂しいのならば家族を増やさねばならんな、聖女にはいつでも転移で会いに行けるのであろう?ならばこの獣王国内で聖女が何時この地に戻っても胸が張れるように予の隣で笑っていてはくれぬか。」
「はっ、はい。申し訳ありません。」
「惚気ですね。」
「なんだかんだでラブラブだねぇ~♪」
「ボクたちも子作り・・・。」
蝶華が冷静に突っ込みを入れ、便乗して冷やかし笑いあう。ひとしきり歓談したのち誰とも言わず立ち上がり全員がそれに続き歩き出す。離宮を少し離れて出口に向かう通路と宮内に続く通路の分岐点、眼前に広がる美しい庭園を見ながら歩いていると獣王が立ち止まり、こちらに振り向いてスッと手を差し出す。
「聖女リアよ、其方と其方の家族の旅路に幸おおからんことを、いってくるがよい。」
「何時戻って来られても獣王国は皆さんを全力でお迎え致します。」
「はい、獣王陛下とレイネ様もお元気で。」
握手を二人と交わし、王宮を後にして、フォンターレ領の領主邸の食堂に転移した。
「そろそろ来られるのでは無いかと思ってましたわ。」
食堂から領主執務室の方へと続く通路から声がして視線を送るとレミアが微笑んでいた。
「2時間に一回は扉を少し開けてチェックしてましたもんね。ここ数日。」
「駄目ですよバラしては、レミア様のどや顔が恥ずかしさで震えちゃってますよ。」
かしまし娘の暴露に真っ赤になってプルプル震えるレミアを放って、侍女長が食堂の席を勧めてくれたので座って出されたお茶を啜っていると、復活したレミアも席に着く。
「今日にでもこの地から離れようと思っているので挨拶に来たんだよ。」
「おじ様からある程度お話は伺っております。そうですか、旅立たれるのですね。」
レイネとは打って変わって冷静に事を受け止めているようでレミアは少し黙って考え事をするような仕草をしている。
「レミア様お持ち致しました。」
「ありがとう。」
給仕の為に席を外していると思われた侍女長が二つの桐箱の様な物を携えてレミアに手渡している。笑顔で受け取ったレミアは丁寧にその桐箱を開け、包みの布を取り除き、
「右側が人王国、左側が獣王国、それぞれの王家の紋章入りの記章です。これを持つものはその国内で最高の地位にある者と同等の待遇を受ける権利を有する。と聞かされておりますわどうぞ御収め下さい。」
「うわ~手の込んだ彫金だねぇ~参考になるぅ~♪」
「あっ、コラ、勝手に触っちゃ・・・・似合いそうだから両方とも肩につけておいていいよ。これは元々仕組まれてたって事で良いのかな?」
「はい、講和会議が終わった後にすぐ受け取りました。褒章は何も受け取らないだろうから私から渡せ・・と両国の王から依頼を受けまして。」
「わかった、受け取るよ。受け取らないとレミア様が両国の王から文句言われちゃっても困るし。」
手に取ってくるくると角度を変えて細かい彫金を眺めている嫁の事は気にせずに話を進める、フォンターレの土壌は秋から冬にかけての植え込みの準備に取り掛かり春には収穫が期待できる程までに回復している事、村を離れて北に避難していた住民が戻りつつあり、12村に戻る予定である事、人王の配慮で2年間は税が無くなる事となり領地経営は不安要素が減ったことなどの報告をしてくれている。
「いいですね、みっちり教育した成果が見えてきています。」
「そだねぇ、収穫量は単作の4倍!ウハウハだよぉ♪」
エア眼鏡を正しながら蝶華と嫁がその成果に喜んでいる。
「皆様には感謝をしてもしきれないほど多くの物を与えてもらいました。」
「じゃあその分はフォンターレの領民とフォンターレ領に訪れた人に還元していってほしいかな。ボクの住んでいた里も旦那様に救われたんだけど、やっぱり旦那様は何も求めなかった、だからこそ旦那様の望む方向、目指す理想に沿える事を行い続けることが恩返しになるんだと思うな。」
珍しくまともなことをルシエが語っている。そんな風に考えていてくれたことが嬉しくて胸が暖かくなった。
「そう・・ですね、わかりました。穀倉地帯を復帰し、領民を潤した後は農民の稼ぎを減らさずに農産物価格を下げたり関税を減らしたりして少しずつ国内外へ還元してまいりますわ。」
「良い回答です。ですがそれでは80点です。」
今一度蝶華がエア眼鏡を揺らす。
「80点ですの?」
「旦那様はフォンターレ領の為に尽力されました。ですが、それは誰の願いを原動力として動かれたのかお忘れですか?」
「二人の騎士・・そして・・わたくし・・の望みを叶える事?でしょうか。」
優しく微笑んで蝶花はレミアを見つめている。一同はその様子を生暖かく見守る。恐らくこれが最後のレッスンであることを全員が理解して、静かにレミアの言葉を待っていた。
「90点です。では、領地が平定されたのちに旦那様は二人の騎士とレミア様にどうなってほしいと願っていると思いますか?」
「幸福で穏やかな、心の安寧を望んでいると・・・思います・・・領民より領地より国民より、自分を大切にしなさいといわれそうで・・・ヒグっ・・・す。」
蝶華は席を立ち・・レミアの頭を抱きしめて・・・
「100点です。卒業ですよレミア様。私達から教えることはもう有りません!」
「あ、有難う存じますわ・・・」
最後の回答をする前からグズグズに涙を浮かべていたレミアは幼い少女の様にポロポロと涙をこぼしながら蝶華にしがみついて泣いている。
「レミア様・・・」
「ええ話や・・」
「ですなぁ・・・」
釣られて号泣している侍女長と、雰囲気にのまれつつ涙を浮かべているのを誤魔化す為に茶化しているかしまし娘がいる。今日はお仕置きは勘弁してやろうと思った。
暫く名残惜しむかのようにここ数週間の話を振り返りつつして、レミアをはじめフォンターレ領主邸に務める全ての人たちに見送られ、領主邸の前から馬車が出発する。
馬車が見えなくなるまでレミアは手を振ってくれた。次に会うときは一回り大きく成長した領主になっている事だろう。そんな老婆心的な事を考えていると、
「旦那様~お腹減ったぁ~♪おやつ出して!」
「君もブレないねぇ。」
折角の雰囲気を台無しにする嫁の発言に苦笑いしつつも馬車はそんなこと気にせずに進んでいく。東へ東へと・・・・・
それから1時間後のフォンターレ領主邸
「間に合わなかったか・・」
転移の魔法陣が光り、人王と護衛がフォンターレ領の食堂へと現れる。
レイネは王の到着報告を受けて執務室から飛び出て人王へと駆け寄り挨拶をしてから、
「今しがた出発なされましたわ。」
「そうか、わしも一言礼なり褒美を授けるなりしたかったのだがのぉ。」
「そんなものリア様はお受け取りになりませんわ。」
「そうじゃな。聖女の言う慈善活動、奉仕、普通のそれとはかけ離れた尽力じゃから国として支えてやりたい気もするが・・・。ワシ等では手におえんのだろうな。」
「ええ、全ては聖女の御心のままに・・と獣王陛下とレイネお姉様もおっしゃってました。」
レミアの肩に手を添えてレミアを自分の方へと引き寄せて人王はにっこりと笑い。
「一国の長として聖女に恥じぬ生き方をせねばならんな。」
「わたくしもです。」
笑顔の二人は聖女一行の話題で大いに盛り上がっている。
季節は夏が終わり、秋へと移り変わる。人王国に聖女が滞在したのは僅か3か月あまりの出来事であった。
これにて3章終了。人間の国編も終了です。実家に戻ってまして、ネットワーク不具合でアップが遅くなり申し訳ありません。




