〈閑話9〉人王国首都のギルドマスター
俺の名はシン、人王国のギルドを統べるギルドマスターだ!
今日はサブマスターのヴァイスプレと共に久々にギルド本部へと顔を出した。ギルドマスター以外の仕事も山積みだったため殆どの仕事をヴァイスプレに丸投げする形となり、お飾り同然のこの身だが定期的に顔を出す事で存在感を示している。
「キャっ!シンさんお尻触らないで下さいよぉ・・」
「おう、相変わらずいい尻してるなぁ受付嬢!」
「もぉ、バカぁ!」
若い受付嬢とすれ違いざまにスゥっと掌でヒップラインをなぞる、反撃の平手を頬に浴びせられ紅葉型に腫れた頬を摩りながらギルド内を進み、各所の仕事ぶりを見て回る。
各所での若手(娘限定)とのコミュニケーションを忘れずに行い、その度に罵声を浴びヒラヒラと手を振って応えつつ2階にある執務室へと足を進める。俺が席に着くとヴァイスプレが口を開き、
「久々のギルドで気持ちが昂っているのは分かりますが程ほどに願いますぞ、陛下。」
「陛下は止めてくれヴァイスプレ、ここに来るときはギルドマスターのシン。世を忍ぶ仮の姿なんだからな。」
「存じてはおりますが、目に余る場合は止めますぞ?」
「わかったわかった、レミアとレイネへの手土産を選んだら大人しく城に戻るからそんなに怖い顔するなよ。」
今回シンとして一般街へと下ったのはレミアへの手土産とレイネの結婚祝いを物色するためである。無論国王としての贈り物は別に用意されているのだが可愛い我が子同然の娘達に逢いに行くのだから足長おじさんを気取りたいのだ。親友の残した娘達、特別扱いしてしまうのは仕方ないことだろう?
幸いシンとして活動する回数もそこそこあったため一般街をうろついても王とバレる事は無く、隠密が常時護衛しているため危険も無い。商店が並ぶ通りをフラフラと歩きつつ物色して回る。
「おっシンさんじゃないか?久しいねぇ、街を離れてたのかい?」
「ああ、仕事でなぁ。ここらは変わりは無いかい?」
ある老舗の商会の旦那に声をかけられた。王室御用商人であるこいつはシンである俺の身分を知る数少ないもののうちの一人だ。商会の商談室へと入り一般街の様子とか商品の動向などを毎回報告してもらっている。
「やはりフォンターレの件があって食料品は品薄になりつつあるんだな?」
「はい、その他の商品は例年通りの推移と言った所でしょう。」
「食料品価格の大幅な変動を防ぎつつ一年は踏ん張れそうか?」
「難しいお願いですが・・・お断りする権限は私どもには御座いません。」
「苦労をかける、この件が落ち着いたら秘蔵の酒を持ってくるので期待しておいてくれ。」
「あり難きお言葉、商会の全力を挙げてお応えしたいと存じます。」
握手を固くしてから商会を離れ、屋台で串焼きを買って口に頬張りつつ通りを歩いていると一軒の露店が目についた。魔道具を専門に扱っている露店なのだが、一つ一つの完成度がやたらと高かったのだ。
「ちょっくら見せて貰っても構わないかい?」
「ハイハイ、こちらは高名な魔女が作成したという装飾品でしてね、先日たまたまふらりと立ち寄った魔道具師のお嬢さんから買い取り売らせて頂いているのですよ。」
「ほぉ、どれも一級品だな。」
俺はシルバーの様な素材で出来たネックレスと、金色の宝石付きの腕輪を手に取って眺めていると。店主が驚いた表情で説明を始めてくる。
「お目が高い。そちらは受けた攻撃を3度反射する結界魔法が付与されているネックレス。腕輪の方は疲労低減と毒無効の効果が付与されております。」
「ほ~う、じゃあこれをくれ。え~っと金は・・・これで足りるか?」
「大金貨5枚・・2枚あればおつりが出ますよ。」
「安いな、取れるところからは取れるだけ取っておけよ!」
「ははは、敵いませんなぁ。」
商品と釣銭を受け取って足早にギルドへと戻り、執務室に設置された転移の魔方陣をヴァイスプレに行使して貰い王城内の離宮の広間へと戻って来た。
「やはり便利じゃのぉヴァイスプレよ。」
「左様ですな、だからと言ってお忍びは月に一度が精一杯ですからお忘れなき様。」
「わかっておる、明日にはフォンターレに滞在する支度も済むようじゃし、執務も多い。我儘ばかりも言ってはおれんわい。」
「では、明日お迎えに上がりますので失礼いたします。」
再び転移の魔方陣を用いてヴァイスプレは去って行った。それを待っていたかのように宰相が広間へと入ってくる。
「陛下、フォンターレ領への持ち込み品の支度は順調に整いつつあります。」
「うむ。この品を包み別にして我が持ち物の中へ入れておいてくれ。」
「良い贈り物が見つかった様で何よりです。」
良い笑みを浮かべてこちらを見てくる宰相も元フォンターレ領主とは旧知の仲である。
外遊とか視察とかと銘打ってフォンターレを訪れた際には3人で杯を並べて飲み明かした数少ない友人だったのだ。元フォンターレ領主に先立たれたことにショックを受けていたと同時に、残されたレイネとレミアに心を割いてくれていた事も知っておる。
「花と酒の準備もぬかりは無いな?」
「はい、私も同行しますのでぬかりは御座いません。」
辺境領地という事も有り中々旧友の墓前にもたってやれなかったが、今回の一軒で幸か不幸か赴く事が決まり久々に挨拶してやろうと思っておる。
少し沈んだ雰囲気になり、二人してダンマリになってしまったが明日に向けてやる事はまだまだ有る。
「執務に戻る、用意は出来ておるのであろう?」
「はい、無論に御座います。」
いつも通りの雰囲気に戻った宰相と共に離宮から執務室へと歩く。
数日の事とはいえ前もってこなす執務の量は異様に多く、机の上に重なった書類の束を眺めて卒倒しそうになるが踏みとどまり淡々と執務をこなす。転移魔法が無かった時など2か月分以上の執務が待ち構えておったのだから、少ないものだ。
執務をこなしているワシに小声でしみじみと宰相が呟く。
「我が国に聖女が来られて本当に良かったですなぁ。」
「そうじゃのぉ、本当に。」
大笑いしつつ手を止めずに執務をこなし、夜中までには全てを終え出立の準備は整った。
明日が楽しみである、しかし民はまだ苦しんで居る。その点は忘れてはならぬ。
各領地から物資が到着するまであと一週間ほどはかかるであろうから、城の食糧庫からの備蓄を出させた。我々の移動に合わせて聖女の輸送班が輸送を担当してくれる算段になっておるので問題はなかろうが、浮かれた気持ちで向かってはレイネが侮られるやも知れぬので気を配らねばなるまいて。
床に就いても色々思い悩み、気が付くと外が明るんでおった。
「朝か・・・」
誰かが起こしに来るであろうから今のうちに寝てしまおうと二度寝を決め込んで目を閉じる。
「陛下、陛下、御仕度の時間です。起きて下さいませ。」
睡眠時間にすれば少ない筈だったが、思いのほか疲れは感じない。侍女長に叩き起こされ支度を済ませてワシはヴァイスプレの待つ離宮へと向かう。
王として、足長おじさんとして、堂々とせねばならぬ。気が引き締まる思いで転移の魔方陣へと向かい眩い光に包まれて気が付くとフォンターレ領の領主邸の前の広場に立っておった。
「おじ様・・いえ、国王陛下、宰相様、ヴァイスプレ閣下、お待ちいたしておりました。」
レイネが空気を読み静かに淑女らしい挨拶をしてくる。喜ばしい反面少し寂しくもある。だがこの娘の成長を喜び合う筈だった者はもうおらん、ワシたちがしっかりせねばならん。
転移の魔方陣から一歩踏み出してフォンターレの土を踏みしめてワシは友に心の中で言う。
「其方の娘達はワシの目が黒いうちは安心じゃぞ!」
少し誇らしい気分になりつつ、フォンターレ領主邸の中へと招かれ接待がはじまるのだった・・・




