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おっさんは聖女になりて異世界を憂う  作者: とくみつ ろゆき
人間の国編・フォンターレ領の渇きと聖女の憂い
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〈閑話8〉女神のお仕事

短めです

わたくしはフィーリズいつもの様に執務の間に特異点を遠見の写し鏡から観察しています。今日は獣王国から人王国に戻り何やら井戸の前で領主の娘と話をしている所でした。

覗き込むように遠見の写し鏡を見つめていると、セドムが蒼い顔で呟き出します。セドムは獣王国方面の監視を続けていましたが、どうしたというのでしょうか?


「この人だかり・・この波動は・・・」

「どうしたのです?セドム・・まさか貴方、あの人だかりは・・」

「はい、恐らく・・いえ、間違いなく聖女が関係していると思われます。」

「そうですか、まぁ黙って見ていなさい。」

「ですが・・」


肩を落とし俯きがちになりつつ写し鏡を見つめるセドムに声をかけて私も注視する力を強めます。

セドムが見ている部分をさらに拡大し透過し、屋内まで見えるように象を調整すると3メートルはあろうかという聖女とその家族たちの姿を模した像が礼拝堂の様なスペースの最奥に鎮座しています。その場と庭園、街の通り全てが人で埋め尽くされ、人々はその場に膝をつき礼拝のポーズの練習をしているではないですか。


特異点がある程度下界へ影響を与える事は容認しようと思って居ましたが、流石に一国の一都市の人口をほぼ全て巻き込んで儀式を行うというのはあまりに大がかりすぎます。影響がどれ程になるのかを推察してわたくしも巻き込まれる可能性があることに気が付きました。


聖女は領主邸の前に結界を張りスィーリズに見られないように対策を講じている所です。間違いなく羽衣を用いて何かをするつもりなのでしょう。わたくしも支度しなくては・・・


「自室で支度します。」

「特異点は力を開放するのでしょうか?」

「ええ、間違いありません。」

「女神の手を煩わせる形となり大変申し訳ありません。」

「いいのですよセドム、まだまだ想定の範囲内です。」


わたくしはセドムと傍使えのバスティに簡単な説明をしてから自室に戻り、智杖(カッカラ)を手に取ると遊環ゆかんがシャランと音を立てます。床に立てるように智杖を構えたまま来るべき時に備え受け入れ態勢を整えていると、


『願わくば、この地に水と実りを戻し給え。』


聖女が祈りをこちらに通してきます、聖女の形を模した像からも同様に祈りの力が捧げられ聖女を一度通して願いや思いを祈りに昇華し、力として返還する儀式が始まりました。



人数が人数なだけあって、この間までの比じゃないですね・・



額に汗が滲み、立ったまま瞳を閉じ大きく深呼吸して杖を握り聖女の流し込んでくる力を受け入れ祈りを力に変換して聖女に還す作業を淡々と行っていきます。


地球人類が約80億人その全ての人々が同時に祈りを捧げたとしてもここまででは無いでしょう。聖女というフィルターを介し、増幅された祈りの力は3万人と少しであるにも関わらず異世界デルエールを全て包み込むほどの波動を湛えて静かにわたくしに流れ込んでいるのでした。


行使するのは大地を再生し豊饒なる大地を形成する事、雨の恵みを取り戻し乾いた大地を潤す事。


その時思い浮かんだのは精霊魔法の使い手が召喚術式を展開していた事、とっさに流れ込んでくる力をデルエールの精霊達への干渉へ用いていきます。水と大地の精霊の顕現に事象を変換してそれらに行使させる力を分配していくことでわたくしの負担は軽減して少しずつ落ち着いてきました。


ふぅ、このくらい顕現する能力を与えれば十分でしょう。


受け取った波動の大半を顕現する時間の延長に、少しだけ行使する為に用いる事象干渉力へと回すことに成功しました。わたくし頑張りました、流石に問題無い筈です。

智杖を元の場所へと戻し、自室から執務室へと戻るとスッとバスティが汗を拭って微笑んでくれました。


「お疲れ様ですフィーリズ様。」

「事象干渉を最小限にしつつ、聖女と人々の願いを叶え、受け止めた力を溢れさせぬように制御しきる・・流石です。」

「骨が折れる事には変わりないのですよ。」


椅子に座ってため息を一つついてから遠見の写し鏡をバスティに移動させてもらい覗きます。

大きな力は大精霊2体の同時召喚、継続した顕現への対応、大精霊の寵愛という形で術師へと還元、事象改変により大地の再生。4点に分散して上手く散らすことができたようで、安堵しました。


全くあの聖女は・・・・毎回これだと大変だわ、今回の様に何かに変換するのがよさそうですね。


次に何かあった時の為に対策を考えつつ、バスティの出してくれたお茶を一口。

一息ついてやっと落ち着いて会話ができる様になったことを確認するかのようにセドムが口を開きます。


「あと3か所でも同様の事態になる可能性があるのですね・・・。」

「そうです、しかも事態の解決の際とその後の後処理の2回に分けて・・都合6回。」

「申し訳ありません、主を止められず。毎回フィーリズ様頼りとなってしまって。」

「いいのですよセドム、スィーリズから特異点貸し出しの打診が来た時点からこの程度までは全て想定済みです。聖女の行使する祈りの濃さが想像以上な点を除けば・・・ですが。」

「はい、目の当たりにする度に思い知らされます。」

「そして、徐々にですが人々の祈りや願いはスィーリズの元へも届き、あの子もまた力を蓄えて次の行動へと移っていくでしょうから、努々気を許さない様になさい!」

「肝に命じます。」

「全てが終わった頃には・・・」

「?」


一旦口に出そうとして思わず会話を止めたことにセドムは疑問を覚えて質問をしてくるかと思いましたが彼は言葉には出しませんでした。


「お楽しみは最後まで取っておきましょう。」

「は・・・ハイ。」


父へも伝達し了承も得ている案件ですしまだ先の事、安易に口にするのはよしておきました。楽しみなのは本当ですし早く終わってほしいと願っているのも事実なのですが・・・・



今はまだその時ではありませんね・・・




ここまでの間にずっと悩みに悩んでセドムとバスティはスィーリズに対する言い訳の仕方を何通りかに分けて作成し、草案をこちらに提出してきました。最もそれらしいものをチョイスしてアドバイスを加えて返却すると笑顔でセドムは自らの主の元へと戻っていきました。いつでも顔を出して良いと言い含めてあるのでそう時を置かずしてまたすぐに表れるでしょうが、


「バスティが寂しがりますしね・・」

「何か言われましたか?」

「いいえ、何も。」


茶目っ気を少しはらませた笑みをバスティに投げると、すごく嫌そうな顔で訝し気に睨んできます。

執務室の椅子から立ち上がって私は次の行動に移るべく執務室を後にしました。



これからが本番、気を引き締めないと。



地球方面の世界秩序は安定し、そこまで手を加えるような状況に無いのが幸いです。もしそっちに手を取られていたならばここまでの異世界干渉は不可能だったに違いありません。



世は並べて事も無し、その幸福に気が付かぬ事こそが幸福である。



ニンマリと口角を上げて、わたくしは先に進むのだった。










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