帰還とビーフシチュー
おっさん視点に戻ります。
次の日になって獣王とレイネ様、獣王国宰相と文官数名とのフォンターレ領復興支援についての話し合いの場に参加していた。
獣王国の王復帰の熱は凄まじく、王が民衆の元に早期に現れ(レイネ様に良い所見せようと奮起した結果)健在ぶりをアピール出来たために獣王国内の問題は殆ど無いそうだ。元々獣王心酔派が多く、商業ギルド中心に有った反獣王派はギルド長が捕らえられた事により空中分解し、解体された組織は心酔派監視の元以前のものよりも強固に結束が固まっているとの事。
獣王国の東側に広がる穀倉地帯には今回の瘴気の影響はほぼ皆無で、砂漠以西の地域に熱波と瘴気の影響が出ていたのみである。獣王国からは保存可能な食料と香辛料、調味料等が一年間フォンターレ領へと無償で送られる事となったのだが、問題となったのは輸送経路で、
「海路を使おうにも港は無く、陸路だと砂漠を越えねばならず大量の物資を運ぶには難が有りますなぁ。」
獣王国宰相はこめかみを押さえつつそう獣王へと発言する。
「聖女よ、この問題に関して其方の助力は得られそうか?」
「可能では有ります、しかし一年間この国に滞在する事は難しいので・・・。」
そこまで言って一旦思考のポーズをとり、少し黙る。
獣王は転移にて人王国へ移動済みの為、転移魔法は使えないかという暗黙のフリを見せた。無論使えるのだが、一年間獣王国に滞在する予定は無いためおっさんはレイネ様の方を向いて言う。
「レイネ様、この獣王国に嫁いだ後も聖職者として獣王国と人王国の架け橋となって頂けますか?」
「勿論で御座います聖女様。」
にこやかに即答するレイネ様におっさんも笑顔で応える。レイネ様は唯一神推進派では無いので自然崇拝の獣人たちにも分け隔てなく接することができるだろうし転移魔法も使えるので安心だ。
「わかりました、では獣王陛下、レイネ様の為にささやかな教会を建設して頂けないでしょうか?獣王国は自然崇拝を軸に女神も崇拝するものも少数存在すると聞き及んで居りますので教会はあっても問題無いでしょう?そこの長としてレイネ様を置き、輸送の要となって頂くという流れですが如何でしょう?」
「ふむ、一年間の輸送のコストを考えれば教会の一つや二つ安いものであろうな、丁度商業ギルド長の屋敷の跡地の利用についても議題が上がっていた所だ。改装し教会とする事としよう。」
良いこと考えついたぞ!というようなドヤ顔で獣王は言い放ったが、ギルド長の屋敷ってかなり大きくて広かったような気がする。どう考えても ささやかな の範疇を超えていそうなのだが・・・場所が決まったなら問題無いか、とおっさんは話しを進める。
「転移の魔方陣は軍事などに転用した場合脅威になりますので、私の認可した者のみ使用し通過できるようにしてあります。人王国内に設置したものも同様ですのでご安心ください。」
「成程、聖女様の御墨付で無いと使用も通過も出来ぬ仕様なのですな、承知致しました。」
獣王国宰相の理解も得られて教会施設の詳細な内容がレイネ様によって詰めた内容で語られている。おっさんは獣王国内に足掛かりを築ければ程度に思っていたのだが、殊の外大掛かりなものとなり少々申し訳なく思えて獣王に提案する。
「獣王国内では回復魔法が得意な方は少ないのでしたね?」
「うむ、基本的に獣人族は魔力が低く、魔法戦闘にも向いてはおらんし、回復魔法の得意な者は少ない。」
「では、レイネ様にはこの魔法スクロールをお渡ししておきますので、見込みの有る方がいれば使ってあげて下さい。」
「わかりました、人王国同様全力でやらせて頂きます。」
「ま、魔法スクロールをこんなに・・・。」
おもむろに魔法スクロールをテーブルの上に10枚ほどバサッと置いて、驚く宰相と文官を見ながら。
「これは平和への投資の様なモノです。国と国は自分たちに無いものを求めて争う事が多いので、回復魔法が使える者が少しずつでも増えれば魔法の格差も徐々にですが埋まる筈ですし。」
「我々は其方に返す物が無いというのに・・さらに投資するというのか・・。」
「はい、平和を継続するというのは言うのは簡単ですがとてつもなく難しいので。打てる手は全て打っておきたいのです。」
知恵ある生物の欲は計り知れない。何時どのような場面で平和が崩壊するかはわからない。でも、一日でも長く平和であって欲しいと願う。それだけは変わらずにおっさんの胸の中で強く訴えられていた。
レイネ様の提案で何とか教会兼両国間の窓口としての大使館の様なものとして改装計画が決まった。一月以内には改装が済む事とわかり、今回の会議は幕を閉じた。
「我々は和平の講和会議に向けての会議が有るのでもう少しこの場に残るが聖女殿はどうされるかな?」
「今夜は自宅に戻る予定だと家族に伝えてますので、一度転移で戻ります。客間を暫くお借りしても?」
「構わぬ。タキに掃除をさせる以外は何人も立ち入らせぬ様に伝えておこう。」
「有難うございます。それでは何か有ればレイネ様は私の元へ転移出来ますから連絡は取れますので、一旦失礼致します。」
「わかった。此度の其方の助力。獣王国民を代表して最大の感謝を・・むぐ・・!」
礼を重ねる獣王の口をレイネ様が閉じさせ、瞬きしている獣王に言う。
「謝ったり、感謝したりするのは平和を確立してからです。聖女様との約束を果たさなければ、獣王国は聖女様にただ与えられた国になってしまいますよ。」
「そうか、そうであったな。聖女よまた会おう!次に会うまでには更なる平和の安定について考え抜いておこう。」
「はい。期待してます。」
椅子から立ち、ペコリとお辞儀をしておっさんは退室した。残った者が顔を合わせて。
「敵わんのぉ。」
「そうでしょう?」
「ですなぁ。」
室内に居た誰よりも小さく、見た目は子供の様な聖女。しかし平和を望み、2国間の長きに亘る隔たりを打ち壊す原動力となった。見返りは求めず。ただ平和の継続のみを願い、笑顔で去って行った聖女。
見送った後にレイネ様が何となく提案する。
「わたくし聖女様から教わったレシピが御座います。今夜はそれを厨房で作って頂く事に致しましょう。」
「おお、それは良い。料理長も会議に出席させよ・・講和会議はこちらで行なう可能性も有る。食事等の話も出来るであろうし、事はついでだ。」
レイネが言う聖女のレシピ・・うどん・・嫁レシピが国を超え広まっていることをおっさん一行は知る由もない。
おっさんは獣王国の客間からコテジへと戻って来ていた。椅子に腰掛けフォンターレ領の土地を復興する算段を思案し、紙に書き起こしながらあれこれ考えてはブツブツ独り言を呟いて数時間テーブルで過ごす。
復興計画のあらましを書き終え。まだ時間的にはお昼を回ったばかりで、皆が戻ってくるまでには時間が相当あったためおっさんは夕飯に少し手間のかかった豪華な物を作ろうと計画した。
「手間がかかって、豪華、皆が楽しめる料理・・・・ビーフシチューあたりかな?」
パン食が多いこの世界であるし、それに合わせて久々に一から作ってみようとおっさんはキッチンに立つ。
まずは、この世界の小玉玉ねぎとセロリと人参と石キノコを大きめに切る。さらに包丁で叩いたニンニクを準備し。仔牛の骨付き部位をフライパンに乗るギリギリのサイズで切り分け両面をさっと焼く。湯引きして皮を剥いたトマトと共に全ての材料を水の入った寸胴に入れてとろ火でひたすらアクを取りつつ沸騰させずに煮込む事2時間。濾して時間を確認する。
「うん、時間的に無理だね。作り置きと合わそう。」
本格コンソメと並んでフォン・ド・ヴォーもきちんと1番2番を作って合わせていると二日はかかるので、作り置きの物をアイテムボックスから取り出して2番の代わりにする。
ブラウンルーに合わせたスープを加え、和風アレンジとしてケチャップとウスターを少々足す。塩と胡椒で味を調え、かさが減ってとろみがついてきたところに酒精強化ワインの メイオ・ドセを加え風味と香りをつけてドミグラスソースは完成。さっぱりとしつつもコクのあるソースである。
この完成したソースに赤ワインを少しに立たせ加えた後、煮込みの合間に別鍋で作っておいたシチューに加える具(ジャガイモ・人参・石キノコ・小玉ねぎ)を投入。ローリエも加えて1時間ほど煮込む。おっさんはジャガイモをカットせずそのままの大きさで入れてとろみを出すのがお好みである。
最後に肩ロースの芯の部分を4センチ角程度に切り、バターを多めに引いたフライパンで全面を解けたバターを回しかけつつ火を通し、煮込みの終わった寸胴へ投入する。後は火を止めて余熱で十分。肉の旨味は出汁に入っているのでビーフの部分はロゼで仕上げてシチューとステーキを食べるようなモノという趣向だった。
「緑の具材は彩だから食前ギリギリに入れよう!完成かな。」
4時間近くかかって何とか誰も戻って来ていないうちに調理を終えた。皆が戻って来てすぐに迎えられるように支度を全て終えて、お茶を淹れてやっとソファに腰を降ろす。
お茶を啜ってローテーブルにカップを置き、自分から少し遠い位置まで茶器を全て遠ざける。
3・2・1!
「ただいまぁ~いると思った~お帰りぃ~♪良い匂い、今夜はビーフだね?お腹減った~!」
嫁である。
身体強化まで使って一瞬で飛びついて来た挙句マシンガンの様に話しかけてくる。
「出遅れちゃった・・ボクもいるよ。お帰りなさい旦那様。」
ひしっとおっさんの腕を控えめな谷間で包みながらルシエもおっさんの帰還を喜ぶ。
「戻りました。旦那様おかえりなさい。お戻りを心待ちにしておりました。」
蝶華も丁度間を空けずに戻って来たのできちんと立ち上がって3人と向かい合っておっさんは
「ただいま。皆もお疲れ様、今日は腕によりをかけてお料理したから一緒に食べようね。」
4人で流れる様に入浴を済ませ、夕食を取る。物資の話、井戸の話、シスターの話、砂漠で蠍を鎮めた後気候が穏やかになり暑さがぐっと和らいだ事などの報告を受けつつ全員揃って笑顔の夕食となった。
夕食が終わってそわそわする3人に対して、
「今日はちょっとアレだから、明日にしよう?ね?」
「アレって何~?」
「いけずだね・・旦那様。」
「はい、枕を濡らします。」
後ろ髪をグイグイされつつ何とか襲撃を防ぎ自室へと戻ったおっさん。流石にフォンターレ領の事を考えるとまだ手放しに喜べる状態では無い。手は考えてあるが上手くいくかどうかは確証は持てなかった。
「少し可哀そうな気もするけれどね・・・」
そう独り言ちてからおっさんは真っ赤になる。じぶんから したい と思う事等ほぼ無かった事なので、自分の思考に追いついて行けない。
『いい傾向では無いか?』
脳裏に女帝の声が聞こえた気がする。
振り払うようにおっさんは枕を抱きしめて布団に潜り込むのだった。




