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おっさんは聖女になりて異世界を憂う  作者: とくみつ ろゆき
人間の国編・フォンターレ領の渇きと聖女の憂い
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2国の今後の在り方について

転移を終えると、人王国の離宮の白い壁が見えた。


「ここは人王国離宮の広間を一時的に会談用にお借りしたスペースになります。周囲に結界を展開済みなので敵意や悪意の有る者は決して入れませんのでご安心ください。」


準備した椅子に二人を並んでかけさせて、おっさんはお茶の支度を始める。

獣王はきょろきょろと周囲を見回しつつ初めての転移の感動をレイネに語っていた。


「ん?この茶は・・・落ち着く味わいだな、口当たりは優しくのど越しは良いし渋みのアクセントが何ともいえん。」

「私も初めて頂く味です。聖女様これは何というお茶なのですか?」


グビっと飲み干してから不思議そうに獣王が尋ねるとレイネ様も気になるようで問いかけてくる。

獣王の手の大きさと緑茶様に準備したカップの大きさがミスマッチで微笑ましい。


「私の国では一般的な飲み物で緑茶といいまして、紅茶になる前の青い葉を醗酵が進む前に蒸して揉みこみ針の様に細く均一に仕上げることで茶葉の旨味を閉じ込めたものなのですよ。」

「聖女の国という事は異世界の?」

「そうです、食文化はそこまで大きな差異は有りませんのでご満足いただけたなら幸いです。」

「美味い茶だ、熱すぎないのも気に入った。」

「獣王様は熱いと飲むのに難儀されますものね。」


クスクスと朗らかにレイネ様は笑いつつ、おっさんの方を見て。


「おじさま・・人王は来られるのでしょうか?」

「はい、今回は人王と宰相のお二人を招いています。」

「そうなのですね、この衣装のお礼もしなければならないのでわたくしもお会いしたかったのです。」

「そろそろ来られる時間ですね・・・先に言っておきますが、今回私は中立的な立ち位置で2国の行く末を見守るという姿勢を取ります。給仕の人とでも思って居ないものとお考え下さい。」

「其方はそれで良いのか?」

「はい、政を行いつつこの世界を見まわる事は出来ないので、静観致します。」



そう言って会談用のテーブルの近くにある小さな椅子に腰かけるとタイミングを計った様に人王と宰相が護衛騎士によって開かれた扉から入室してきた。


「ようこそ人王国へ、久しいですな獣王。壮健の様で何よりですぞ。」

「そこにいらっしゃる聖女に国ごと救われました。この会談も彼女の助力有ってのもの、今回ばかりは女神に感謝したい気分です。」

「人王国も同じようなものです、今回は腹を割って和平の交渉を致しましょう。」


なんだかんだで面識のある4人は挨拶もそこそこに、すぐに草案の話し合いを始めた。



「まず、獣王国としては無条件での和平の条約を望みたい。それ以外の部分は予以外の者で話し合っても構わぬがこの点だけは譲れんのだ。聖女との約束であるからな。」

「是非も及ばず・・・断る理由がないのぉ宰相よ・・。」

「はい、全く以てその通りかと。」

「ありがたい。感謝するぞ人王。」


緊張した面持ちのレイネ様が胸お撫でおろしている。この一点が通れば後の事はついでと言っても過言は無い。少し穏やかなムードとなって来たのでおっさんはお饅頭を提供する。


「御茶うけにこちらもいかがですか?これも私の国の菓子になります。」

「頂こう。」

「白いな、団子か?」

「饅頭と言って、芋と穀物の粉と砂糖だけで皮を作り、中の餡も豆を砂糖と塩だけで味付けしたもの。豪華さは有りませんが手に取って食べてみてください。」


珍しい物を見る様に4人は饅頭を手に取り口へと運ぶ。


「これは上品な甘さ、口どけの良さ、そしてこのお茶に合う。素晴らしい菓子だな。」

「豆から作られたとは思えぬ程きめ細かく、滑らかな口当たり。塩梅も程よくて・・旨い。」

「初めて食べますがどこか懐かしい様なホッとする味ですね。美味しいです。」

「数ある御茶うけの中でもこれに匹敵するものは少ないでしょう、感服致しました。」


べた褒めされて何だか恥ずかしくなってきた。

饅頭は田舎で良く作らされていたので慣れているメニューで、小豆を作る農家では意外と家で自作する。

嫁は関東出身だがおっさんの実家は西の果ての僻地、こういった菓子は日常的に作られていて、軒先で客人等に振舞われる。芋も餅米も豆も自作でその家の味が出る、饅頭を褒められると何だか自分の事以上に嬉しくなるのだった。


「お褒めに預かり光栄です。」


少し顔を赤くしつつもおっさんはお茶のお替りを淹れる。獣王の猫舌を考慮して玉露にして正解だったようだ。低温でじっくり抽出したお茶は饅頭の甘さに負けない。いい仕事した・・と自画自賛する。


終始穏やかにその後の話し合いは進み、無条件の和平条約締結、通商の自由化(関税は今後の課題として残す)、兵士の合同訓練の実施等が盛り込まれた草案が2時間ほどの会談で決まったのだった。


「良き出会いに感謝を。」


唐突に獣王がこちらに向かって頭を下げる。驚いておっさんは両手を体の前でわちゃわちゃしながら返答する。


「前にも申しましたが、レイネ様に感謝して下さい。私だけだったらここまでは至らなかった。人王、例の件は如何なのですか?」

「何の問題も無い、国交の正常化と共に式を行う方向で良い。功労者には報いんとな。」


バチーンっと不慣れなウィンクをして人王は歯を出してニッと笑う。


「おじ様・・有難うございます。今度こそ幸せになりたいと思います。」

「うむ、その前にフォンターレ領の復帰が急務となる。まずはそこが片付かぬことには安心して嫁には出れぬであろう?」

「はい、レミアにも祝ってほしいですから。」

「フォンターレ領への援助は獣王国からも行おう。これから平和条約締結までの間の地盤作りとしても申し分ない事であろうしな。」

「獣王様・・有難うございます。」


隣の席に座っている獣王にレイネ様は飛びつく。人目を憚らないレイネを父の様な目で見ながら人王は。


「さて、熱くて敵わんのでここらでお開きにするかのう?獣王よ。」

「うむ、快く認めて貰って嬉しく思う。大切にするぞ。」

「今後の予定は聖女様を通じてという事で、それでは先に失礼致します。」


立ち上がった人王と宰相は先に離宮から姿を消した。ひとしきり抱き着いて獣王をモフモフしたレイネ様は顔を赤くしつつ。


「嬉しすぎてはしゃいでしまってすみません。」

「いいのだ、第一王妃を失って10年になる。良い区切りなのかもしれぬ。」

「それは初耳です。あとで教えてくださいませ。」


イチャイチャが止まらないようなのでおっさんは離宮の片付けをせっせと行い、転移の魔方陣の上で少しだけ待った。


「待たせたな聖女よ戻ろうでは無いか。」

「はい、では参りましょう。」


転移を終えて獣王国の執務室へと戻った3名。夜も遅くなってくる頃合い、今日はここまでとして残りの話し合いは明日以降へと持ち越しとされた。


当然の様にレイネ様が獣王の部屋へ向かって行くのを見送りつつ、おっさんは客間へと戻る。

客間へ戻ってすぐに転移の魔方陣でコテジに戻り、キッチンのテーブルの上に饅頭をラップして置き卓上蚊帳(キッチンパラソル)を広げそのまま転移で客間へとUターンした。


「明日の夕飯には戻れるかな?」


独り言ちて少し考え事をした後におっさんはベッドに横になる。


次の日の朝に嫁から饅頭の感想が一番に届くのは想定の範囲内の事だった。







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