思考と反芻
既に蝶華から報告を受けていたヴァイスプレ閣下に会い、王と宰相から許可を得た事を確認し会談の予定地となる王城の離宮へと向かう。
数十年にわたり隔たりがあった2国の和平への一歩を踏み出す為の会合。
この会合で決定では無く草案をまとめるための事前交渉と言うべきもので、今回持ち帰った話を精査して各国でみっちりと吟味し、より良い2国の在り方を模索してほしいと考えた。
人王国サイドは王と宰相に情報を前もってヴァイスプレ閣下から流してもらっており、獣王国は獣王とレイネが獣王国の面々と今まさに支度をしている筈である。
離宮の広間に会談用のテーブルと椅子を支度し、お茶とお茶菓子を準備する。おっさんは今回も前には出ずに二国の長に全て丸投げして静観の構え。最悪の状況さえ脱してしまえば後はゆっくりと時間をかけてこれまでの空白の時間を埋め合わせていければ良いと願いつつ、帰還石を設置して床に転移の魔法陣を書き込む。
王と宰相に会う時間にはまだ早いために厨房へと向かう。
「聖女様?厨房で何か作られるのですか?」
「夕食前の忙しい時間帯にすみません、隅っこでやりますので」
おっさんはアイテムボックスからこの世界で摂れた長芋の様な芋を取り出すと真中丸さじを出して芋の皮を剥く。手で持つ部分の皮を少し残したままで剥いた部分を細かいおろし金で擦っていく、この時に擦りおろした物をすぐには落とさずに擦ったものをさらに擦り合わせて細かくすることでキメが細かくなる。
そうして擦り終わったら次に砂糖を篩にかけて均一にし、今回は関西風なのでそのまま芋と混ぜる。このほうが浮きが良くふんわりとしておっさんと嫁は好みだ。芋のコシを確認しつつ丁寧な作業をしていく。厨房には数人の王宮調理師がおっさんの作業を物珍しそうに眺めていた。
「芋に砂糖・・・、一体何ができるんだろう?」
「焼くのかな?揚げるのかな?」
興味津々の調理人たちをしり目に淡々と作業を続けていく、この料理はかなり難易度が高い・・膨張剤を一切使わず芋のコシだけで完成させるモノだから集中力を要するのだ。混ぜ終えて今度は餅粉を篩にかけその中に先程混ぜた芋を落として少しづつつついて回す様に合わせていく。馴染ませていくうちに粒子が粗い粉が外へ外へと押し出されて残るが無理に混ぜずに理想のコシへと近づけていく。残った粉を手粉にしつつ空気のはらみ具合、硬さ、手切れの音などを細かく確認して皮を一旦寝かせて餡の仕込みをする。
餡は無論事前に製餡、練りこみまでを行って保存していたもの。均等な大きさに丸く仕上げて、いよいよ包餡へと移る。蒸し器にクッキングペーパーを敷いてから手早くそして美しく包餡だ。厚みは7・5・3。上7、横5、下3となる様に包んでつまむ際に熟練の手捌きが必要で、数をこなすことで上達する。洋菓子と違い分量通りレシピ通り作っても全く上手くいかないのが和菓子の難しさ、その奥深さをおっさんは久々に楽しんでいた。
「蒸すのか・・、あの黒い餡は何が入っているのだろう?」
「砂糖が入っているからには甘い物なのだろう、デザートの一種なのかも知れん。」
正解。今回のお茶受けにと薯蕷饅頭を仕込んでいる。型には入れずに丸いままの饅頭を蒸す。蒸しあがったら底面を少し指で触り蒸し上がりを確認し、粗熱を取っていく。完成したものを見ていた料理人たちに振る舞う。
「お饅頭という名前のデザートの一つです。私の育った国では一般的なお菓子なのですよ。」
「おお、これは上品な甘さと細やかな食感。」
「美味いです。」
喜びの声と共に一応希望されたのでレシピを紙に書いて手渡す。
「失敗したらまず皮を見直して下さい。」
「失敗が前提ですか?」
「はい、私の国では一級の職人のテストにも用いられている技能になりますので。」
「成程・・精進します。」
芋が沢山あったために調理師の皆さんの分、会談用、取り置き用と50個くらいを作ったが、浮きも程よくバランスの良い甘さで、おっさんは納得の行く饅頭に上機嫌だった。
そうこうしているうちに王と宰相に会う時間となり、おっさんは足早に執務室へと足を運ぶ。
執務室の扉を開けると既に二人は椅子に座って待ち構えていた。
「リア殿、其方が獣王国へ向かってまだ2日程なのだが・・和平条約の草案を作ってほしいとは・・。」
「そのままの意味ですよ。獣王陛下とお約束してきましたから。」
「何と、直接お会いして来たと申すのか?」
「はい、共に悪者を成敗して、瘴気の竜巻の原因も収めましたからフォンターレ領も時期に雨が戻るでしょう。あとは・・ですね・・」
「まだ何かあると言うのか?構わん!!この際だ全て申せ!!」
おっさんは席に着き言いにくそうに人差し指で頬を掻きながら・・・
「レイネ様と獣王の婚約を再度承認して頂きたく・・・・。」
「なっ・・!!」
「むぅ・・・。」
驚く宰相に対して腕組みして唸る王様、王様はレイネ様の事が良く分かっている様子、これは意外とすんなり了承を得られるかも知れないな、とおっさんは甘く考えていた。
「レイネは獣王と会って幸せそうであったか?」
「それはもう、見たことの無いほど嬉々として、少女の様にされているのが印象的でした。」
「ふ・・む・・。そうか・・、その件に関しては直接話をしている時に答えても良いか?」
「はい、構いません。ですがレイネ様を悲しませない方向でお願いしますね。」
にっこりと釘を刺され、少し引きつった笑顔で王はコクコクと頷く。一方の宰相は黙ったままこちらと王様を交互に見ながら考え込んでいる。
「私は思うのです、2国の隔たりを生んだ婚姻を次こそは2国の和平の象徴にできたら素敵だろうなって。そのためには王様の承認が必要ですし、国民の理解を得るために宰相の力も必要です。無論国内世論の動向は無視できぬ事と思いますが、同じ失敗は2国ともしたくないと言うのが本音でしょう?」
「わかっておる、皆まで言うな。」
「はい、では、夕食後に離宮にてお待ちください。安全は私が保証しますので、兵は付けず、護衛騎士は離宮の外へ当てて下さいね。」
「うむ。」
深く頷いた後に王様も考え込むように押し黙った。この国の事はこの二人に考えていただこう。
おっさんは二人を執務室に残したまま離宮の転移魔法陣から獣王国王城の客間へと戻る。
獣王とレイネ様は早めに夕食を取り、会議室で草案をまとめた後に既に執務室で待機しているとタキさんから報告があった。二人きりの空気に長居するほど野暮では無い、少し客間で休憩がてら羽を伸ばしつつ自分が夕食を食べていないことに気づく。
「お饅頭食べたし、まぁいっか・・・。」
会談の予定時刻までは後1時間程に迫っている。ぼんやりと暮れていく夕日を見つめながらおっさんは2国が良好な相互関係を保てるようにする策を思考する。丸投げにしつつもやっぱり最善策を模索してしまうのは癖の様なもので、自分の思考通りになることが全てでは無い事は重々承知だ。
でも、それでも、思考を放棄しては何も生まれない。
国におんぶに抱っこ、何かあれば国のせいにして、環境に流され自分たちで出来ることを思考しなくなってしまうどこかの国の様になってはならない。おっさんは自分を律する気持ちで再度反芻し出来うる可能性を総当たりで思考し続ける。
おっさん位の年齢の大人になると行動と思考の全ては反省と後悔の連続である。最善の選択であったとしても、たらればを考えてしまい純粋に迷いなく正解など導けるものでは無い。
2国の関係が平和的である事。完全なる平和などあり得ない、完全なる平等などあり得ない。それを分かった上で相互の関係が良い関係に感じられる道を探すのだ。
あっという間に時間は過ぎ、獣王とレイネ様の待つ執務室へと向かうおっさん。
「では参ります、支度は宜しいですか?」
「問題ない。転移魔法とは、聖女は本当にびっくり箱の様な存在よな。」
「そうですね、わたくしも今日まで驚かされてばかりです。」
和やかなムードのままに転移の光の中3人の姿は獣王国の執務室から消えていく。
2国間の会談が始まろうとしていた。
今日中にはもう一本は書ける・・ハズです!




