進展と準備段階
王城に一泊後、朝から獣王の執務室で瘴気のつむじ風・・もはや竜巻だったが・・の対策について議論がなされた。執務室には獣王と宰相とウルガンさんとタキさんの4人、結論から言えば獣王国に対抗手段はほぼ無かった。
おっさんは前回同様正面から瘴気を浄化する気でいたので何の問題も無いが、獣王は国内問題に対して対抗策を見いだせない事に憤りを感じている様にも見える。
「それではレイネ様の護衛をお任せするという事で、私は結界を張って中心へと向かい核となる生物を浄化するという流れで宜しいですか?」
「うむ、こちらとしては獣王国内での事を人王国のリア殿に押し付ける形になってしまって申し訳ない限りだ。レイネの事は責任を持って守らせてもらおう。」
今朝からすごく距離感が近くなった二人を見ながら話をする。この4名にはおっさんが聖女である経緯を説明しておいた方が話が早いだろうと思い、女神に召喚されこの世界の住民では無い事、この世界を見ながら奉仕を続けていく事が目的である事を説明しておく。
「只者では無いと思ってはおったが、女神に召喚されし者・・であったか・・。」
「私の行動は人王国の意志とは関係ありませんが、今回は人王に一任された形ですのでその点は配慮頂ければと思います。」
「成程、納得のいく説明に感謝します。」
最後に発言した犬顔の宰相の尻尾がブンブンと揺れている。顔は真剣で真面目な状態なのに、好奇心が勝って自省が効かないのだろう。おっさんは手を口の前に当てて声を出さぬようにクスクスと笑う。
話がついたので善は急げとばかりにおっさんは席を立つ。
「では私は行きますね。」
「まぁ待たれよ、未届け人として予とレイネは瘴気の影響が出ないギリギリまでは付き添わせてもらおう。」
「王が参るのでしたら護衛が必要でしょう、私も参ります。」
結局絨毯に獣王とレイネを同乗させ、砂馬2頭をウルガンさんが連れて移動する事となった。フォンターレ領の事が気がかりなので出来れば最速で片付けたい案件なのだが致し方ない。
「では今度こそ参ります。」
「おお、浮いた、浮いたぞレイネこれは凄いのぉ。」
「わたくしも最初は驚きで声も出ませんでしたよ。」
何とも締まらない雰囲気の中砂漠を砂馬のペースに合わせて飛行する、2時間ほど経っただろうか?砂嵐が強くなり辺りに黒い靄が充満するように舞い始めた。
「ここまでですね。」
おっさんは約2メートル程で飛んでいた絨毯から飛び降りて砂上に降り立ち3名に告げる。
「時間があまりにかかる場合はウルガンさんが連れている砂馬に乗って王城へとお戻りください。」
「信じています、聖女様が浄化を成功されるという事を。」
「待たせて貰う、これも王の務めだ。」
「リア殿、ご武運を!」
女神に召喚されたことを説明した後からこの地でも聖女株がストップ高らしい・・信頼は有難いのだけれど安全には配慮して欲しいものだ、と思いつつおっさんは足早に砂嵐の中心に向かって歩いて行く。
段々と視界が瘴気によって暗くなり、竜巻の外周に到達する頃には真っ暗になっていた。それでも明確に中心がそこだと示すが如く一つの光る点がおっさんの視界には見えていた。
強風に逆らいながら一歩一歩ゆっくりと歩を進めて行くと何かの声が聞こえてくる。
『暗い・・寒い・・寂しい・・早く土に還りたい・・。』
言葉では無くおっさんの頭の中にそういった感情がストレートに流れ込んでくるようだった、核となる生物の意識が自らを滅してくれと痛切に語っている。
「姿は見えないけれど君が良い子で良かった、憤怒に身を任せ移動していれば獣王国やフォンターレ領は今頃どうなっていたか想像も出来ないからね。」
おっさんはその場で羽衣を纏って取り出した僧杖を砂に力強く突き刺し詠唱を始めた。
目を閉じて周囲に広がる全ての瘴気に対して効果範囲が広がる様に祈りを込めて・・羽衣がその意志に共鳴するように光を放ち上へ上へと真っすぐに昇って行く。
竜巻の上まで到達した光の柱は先端から拡散を始め光の雨が降り注ぎ、まるでキラキラと雲母が舞い散る様に周囲を明るく照らし出す。
効果範囲が全体にいきわたった事を確認できたおっさんは瞳を開き突き刺した僧杖に手をかけ引き抜くと同時に天を仰ぎ呟く。
【範囲浄化】
効果範囲をすっぽりと包み込むような光の壁が形成され範囲内の全ての瘴気が一瞬にして消え去っていく。
中心には一匹の手の平程のサイズのサソリが横たわっていた。
「さぁ、送ってあげるね。君のおかげで被害は最小で済んだ。」
おっさんはサソリを手の平で掬い上げる様に抱え、涙を浮かべつつ再び天を仰いでレクイエムの詠唱を始めた。
『去りし日の恨み現世に残さず、かの地へ向かう者其は勇敢な旅人なり、死は生の終焉喜びと共に在れ、生は常に不条理でも、ゆく場所に等しく救い多からん事を、先に行く全ての者へ捧ぐ詩【鎮魂歌】』
前回の時よりもその詩は重みを増し、感情が溢れて声がかすれても尚美しく、ただ小さなサソリの旅立ちを送り先にある安寧を願い祈りを込めて歌う。
聖母の様であり、般涅槃の様でもある。うっすらと俯きがちに目を細めて少し笑顔の様にも見える表情の聖女は両手を大きく天へと突き出し杯上になった手の間から見えるサソリが光に包まれ始めた。
静まり返った周囲には何も無く、風も収まり、静寂と微かな余韻だけが残っていた。手の平にあったはずのサソリは光の粒となって綿毛の様にふわふわと上へ昇っていき・・・消えた。
一人になって、暫し流入する様々な感情を飲み込み、落ち着いてからおっさんは絨毯のある方へと歩き出す。
「ご無事で何よりです聖女様!」
「先ほどの神々しい輝き・・神威を?・・いや、何も聞くまい。獣王国は其方に大恩を蒙った、感謝する。」
「私にできる事を私が目の届く範囲で行なっただけです。フォンターレ領に赴く事が無ければここには来れなかったでしょうし、教会でレイネ様と出会っていなくても同様だったかも知れません。私に出会った人々がこの国とフォンターレ領を想い、救いたいと願い、動いた結果ですよ。」
獣王は少し考え込むように俯いて腕を組み頷く、その後王城に着くまで終始穏やかに時間は流れていく。
砂馬に合わせての移動はゆっくりとしたペースで王城が見えてからも暫く時間がかかる。そんな時だった。
『やほ~旦那様ぁ~♪何かしたぁ~?』
『さっき瘴気の竜巻を消し去ったよ、今回は小さなサソリが核になって熱波を引き起こしていたみたい。』
『なるほど~ルシエが大気に漂う水の精霊の力が戻りつつ有るって大騒ぎしてるの。』
『ルシエも聞こえてるんだろう?』
『うん、旦那様。すっごい大気から力が急に溢れて来て精霊がざわついてるんだ。ボクもその影響で少し情緒不安定になっちゃってて・・セシルに連絡を頼んだんだよ。』
『ふむふむ。蝶華も聞いてるね?』
『はい、もちろんです!』
『ヴァイスプレさんに連絡して、王と少し話さなければならない案件が有るので伝達お願いしてもいいかな?』
『承ります。』
『今晩遅くならない程度の時間で王と宰相に会いたい。獣王との会談に関する案件ですって伝えて。』
『了解しました。』
『獣王ってモフモフだったぁ?』
『それはもぉモフモフのワフワフだったよ。』
『いいなぁ・・。』
『フォンターレ領の現状が改善されたら改めて皆で挨拶に来ようか?』
『それまではお預けだねぇ。』
『井戸掘り頑張って終わらせるよ!』
『国王と宰相の予定次第だけれど、明日か明後日にはそっちに戻れると思うから皆頑張ってね。』
『はい!(全員)』
皆元気の様でおっさんは少し沈んでいた自分の気分が晴れやかになった事に気づく。
『たった少しの期間でも皆に会えないのは寂しいものだね。』
『つっ!/////』
ざわっと全員の通信から慌てたような照れ臭い様な雰囲気が伝わってくる。思わず思考が通信に出ちゃったので不意打ちになってしまったらしい、誰一人その後は通信はしてこなかった。
これって帰ってから大変なパターンかも?
おっさんは対策を練りながら絨毯を獣王国内へと進めて行く。やっぱり中央の通りは人だかりとなり凱旋ムード一色だった。思いつめた顔をしていた獣王も流石に顔を上げて手を振り声援に応えている。
王城内へと着くとおっさんは絨毯を地面に降ろし。
「お疲れ様でした、獣王は今夜予定は空いておられますか?」
「予か?何もないが・・どうしてだ?」
「いえ、お連れしたい場所がありまして。勿論レイネ様もご一緒で構いません。」
「ふむ、其方が招待してくれるというのであればどこへなりとも赴くぞ。」
「わかりました、では夕食後に正装で執務室にてお待ちください。」
「聖女様はこれからどこかへ向かわれるのですか?」
「はい、打ち合わせが少々有りますので、王をお招きするわけですし。」
「わたくしはこの地で待っていても宜しいのです?」
「構いません、獣王と一緒の方が安全でしょうし。」
少し照れたようなレイネ様と共に客間に戻ると床に転移の魔方陣を描く。
「王様と宰相と少し話をしてきます。獣王陛下をお願いしますね。」
「成程、わかりました。わたくしも支度しなくては・・・。」
パタパタとレイネは湯浴みの支度を整えてタキに浴場の使用許可を取っている。やっぱり本物の女性は何かしらが有るときには気合を入れておめかしするんだなぁ・・・っとおっさんは他人事の様にその姿を見送り転移の光と共にヴァイスプレ邸へと向かう。
さて、国王と宰相はどんな対応をしてくれるかな?
おっさんは一仕事終えた気分で伸びをして気配を察知して現れるジェントを待つのだった。




