〈閑話7〉バスティの見るもの
私はバスティ、地球の女神フィーリズ様にお仕えしている天使です。
前回同期のセドムが来てから暫く時が経ちますが、数日に一度は手土産と共に再び現れては女神スィーリズの愚痴を零しつつ遠見の写し鏡を覗いて溜息を吐いて去っていきます。彼は一体何をしているのでしょうか?
今日もまた彼がやって来て手土産を渡しつつ。
「今日は下界に寄って来たのでこれを君にもおすそ分けだ、受け取って欲しい。」
「そんな、私はフィーリズ様にお仕えしているだけで仕事中なのです、受け取れません!」
「硬い事言わないで貰ってあげたら?綺麗な花じゃない?」
フィーリズ様に促されて渋々私は彼の持ってきた花束を受け取ります。
何故私に花束をおすそ分けするのでしょうか?訳が分かりませんがとても良い香りです、折角ですからこの部屋に飾っておきましょう。
私が花束を花瓶へと移し水を差しているとフィーリズ様はご満悦の表情で。
「セドムも中々良い趣味してるわね。」
「さすがにここまであからさまなマネはしょっちゅうは出来ませんよ。」
なにやら不穏な会話の様ですので私は聞こえない振りをします。
最近のセドムは何かとフィーリズ様にスィーリズ様関連の相談事が多いらしく大変忙しい様子。
こっちにも相談が回ってきますが、女神に対する言い訳等良いものがそうそう思いつくはずも有りません。毎回試行錯誤の連続で結構な時間彼はこの女神の間に滞在してあちらの女神の元へと戻っていきます。
「長居してしまい大変申し訳ない。また来ます。」
「別に気にしなくていいわ、何時でも好きな時に来なさい。」
「・・・女神がそう仰っておられるから、また来ても良い。」
私はセドムを少し突き放す様に言いました、そんな言い方をするつもりは毛頭無かった筈なのですが・・おかしいですね。疲れているのでしょうか私は?
またそれから数日後に彼はやって来ました。
「今日は下界のお菓子を買って来たので女神様と君で食べてくれ。」
「わかりました、お受け取りします。」
「お茶入れて~バスティ~。」
「フィーリズ様砕けすぎです。もう少し女神らしく振舞って下さい。」
「いいのよ、セドムなら、知らない相手でも無いし。」
女神は最近セドムに甘い気がします。どうしたというのでしょう?私はお茶を淹れて女神に給仕し、一応セドムにも客人らしくお茶を振舞い席に着きました。
「あ、聖女が映ってるわよセドム!」
「本当に来ましたね、フィーリズさまの仰ってた通りに。」
私は立ち上がって二人が覗いている遠見の写し鏡をチラリと覗きます。砂漠を絨毯に乗った聖女と見知らぬ者が二人、砂馬2頭を連れた獣人と共に黒い砂嵐に向かってゆっくりと進んでいます。
「あれがセドムの言っていた黒の結晶を核にした瘴気の中心なのですか?」
「そうだよ、あれの対応をする相談の為に度々ここを訪れてたんだ。」
「でもソレだけじゃないわよね?最近は。」
「それ以外の部分はわきまえながら進んで行きます。」
「へぇ、言う様になったわね。」
そうこう話をしているうちに聖女は絨毯から飛び降りて何やら残りの人々に話しかけています。その後単独で僧杖を構え黒いつむじ風の中へと消えて行きます。
「アレ、平気なのでしょうか?」
「問題無い筈よ、すぐに終わるから見てなさい。」
暫くすると黒い瘴気の中心付近から眩いばかりの光が垂直に上がってから拡散し始めます。
「あれは神力の波動!羽衣を用いて【範囲浄化】を行っているというのですか?」
「驚くべき順応性、人の魔法と神力をこれほど短期間に融合させてしまうとは・・・。」
「既に上位天使の貴方達と同格か、亜神並みのポテンシャルは備えている様ね。」
黒いつむじ風をすっぽりと光の壁が包み込み、その半円形の頂点の部分から光の壁が消えると共に黒い瘴気も中和されるように消えて行きます。一番下の部分に達した所ですっかりと瘴気も風も収まり砂漠には一時の静寂が訪れていました。
聖女は砂漠にポツンと一人立ち、小さなサソリを手にして涙を浮かべつつ天を仰ぎ謳い出します。
「この歌は・・鎮魂歌・・ですか?物憂げで儚く、それでいて暖かい。優しき詩・・。」
「聖女の心の色は青、時に澄み、時に濁り、時に寒色の様であり、時に暖色の様でもある。うつろう人の形をした何か、ツユクサの様な命の短さを表現したような貴色ね・・・。」
「言い得て妙・・ですね。」
遠見の写し鏡越しでも聖女の歌ははっきりと聞こえます。フィーリズ様が同調して涙を浮かべ淡く輝きだしていました。
「あの子の波動は凄く深くて重いから結構堪えるのよ。」
「傍から見てもそんな感じがひしひし伝わります。」
歌が終わり、再び静寂が辺りを包み込みます。
聖女は絨毯と砂馬の方へとゆっくりと歩いて行き、絨毯に乗って獣王国方面へと消えて行きました。
「これをどうスィーリズ様に報告するかが今回ここへ来た最大の課題なのだ。悪いがもう少し付き合ってもらうぞバスティよ。」
「はい、貴方が抱えた問題を少しでも軽くできる様助力しましょう。」
何故だかその時私はとても素直にそんな会話が出来ていました。
今になって考えてみればセドム相手に何故そんな風に答えてしまったのか・・・この時の私はまだ知る由も有りませんでした。
再び風の吹き出した砂漠は少し涼し気な風が吹いている様にも感じられ、一人残って遠見の写し鏡を見つめ続けている女神フィーリズはポツリと呟きます。
「ツユクサの花言葉は『変わらぬ思い』『尊敬』『懐かしき関係』等色々あるわ、でも色によってさらに多様な花言葉を持つのがこの花の特徴なの。貴方は何色に染まっていくのかしらね?」
聖女に語りかけたのか、我々に語りかけたのか、自分自身に語りかけたのか、わたしにはわかりません。
女神はその後黙って椅子に腰掛け瞳を閉じて、少し余韻に浸る様に深く息を吐き。
「あと3か所だったわね?セドム、この代償は高くつくかも知れないわ。」
深く低い声で女神はそうおっしゃったのです。
真っ青になりながらも平静を保ち私と向かい合うセドム、彼の力になりたいと願う萌芽は既に芽生え、私を変えていく、私がそれに気づく前に、あまりにも早く。
「では、頑張って下さいねセドム、私応援してます。」
「ああ、有難うバスティ。また来るよ。」
「そういうのは他所でやってよねぇ・・・。」
さっきまであんなにシリアスだった女神がニマニマしているのが段々腹立たしくなる私でした。




