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おっさんは聖女になりて異世界を憂う  作者: とくみつ ろゆき
人間の国編・フォンターレ領の渇きと聖女の憂い
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動乱の首謀者を抑える

戦闘が絡むと文字数が一気に跳ね上がってしまい区切りが悪くなってしまう今日この頃です。

レイネが中心となり獣王に此処までの経緯を説明している。おっさんはあくまで護衛と治癒が目的である事を先刻宣言したので黙って静かに二人の会話を聞く事とした。


「成程、そのような経緯で獣王国に再び参ったのか・・其方の勇気と決断に敬意を払おう。」

「わたくしの力など・・・聖女様のご助力と行動あってのものですわ。」

「聖女リア殿と申されたか、我が病を治癒し獣王国の混乱を招く前に情報を提供してくれたこと重ねて今一度感謝したい。其方らの平和に対する意志は予にしっかりと伝わった。報いるとしようぞ!」


スクっと立ち上がりタキに指示を出す獣王。暫くすると20名程の兵士が集まって一階の階段下に集められた報告が入る。


「予が支度をするまで暫し下で待機していて下され。」


獣王はたてがみを摩りながらそう言って羽織を脱ぎ捨てる。クローゼットから獣王家伝来の戦装束が出され着替えが始まるのだとわかった。


「では後程。」

「失礼いたします。」


獣王の私室を出てウルガンと共に一階の階段前広場へと二人は戻った。20名の兵士たちは訝しげにこちらを睨んでいる。その様子を見たウルガンは少し怒りを持った口調で兵士たちに語る。


「王直属近衛兵5名と戦い、一人も殺さずかつ無傷で切り抜ける事が出来るものがこの中にいるか?いればこの二人への物言いを許そう。」

「・・・・・。」

「王と我の信頼を得た者達だ、無礼は今後反逆だと知れ!!」

「はっ!!」


ウルガンはこちらへの不信感を一瞬で拭ってくれた。兵士たちからの信頼も厚いのだろうその後は態度を一変して少し憧れにも似た目でこちらを物珍しそうに見る様になり、少し恥ずかしい。


獣王の動きが無いままに暫く時間が経過した、ウルガンがいなくなったと思ったら先程戦った5名を連れて戻ってくる。


「聖女リア様だ、そなた等を敗った者の名を忘れずに覚えておくが良い。」

「聖女・・様・・だったのですか?この方が・・。」

「そうだ、お前たちの報告では一切刃物を使わず、魔法の行使すらなく一方的に短棍で蹂躙されたとの事だったな?人間の種族ではハイプリーストという神官にあたる職業だ、格闘職では無いのだぞ。」


5名を含んで全ての兵士が戦慄に震えている。獣人族は近接格闘におけるエキスパートの種族でありその自分達の能力に誇りを持っていた。それを人族の神官に蹂躙され、施しまで与えられてしまったのだ。


「聖女リア様のお力十分に拝見させて頂きました。ポーションのお礼をさせて頂きたい。」


一人の獣人兵士が前に出ておっさんの前に跪く、続いて4名も同様に跪き謝意を伝えてくる。


「魔法を使わなかったのは最初に眠らせようとして効果が無かったので、魔法抵抗を考慮しての事です。手を抜いたとか本気で戦わなかった訳では有りません。顔を上げて立ってください、争いに来たわけでは有りませんし皆さんが怪我が酷く無くて良かったです。」

「なんと寛大な・・・強く・・慈悲に溢れる・・聖女とはこのような者が体現者なのですね。」


タキとウルガンも納得して頷いている。獣王が早く戻って来てくれないとこのまま聖女伝説が加速してしまいそうだ・・・。おっさんの祈りが通じたのか階段からタキを伴って獣王が現われた。


「待たせたな。皆揃っておるか?」


全員が一斉に姿勢を正し敬礼する。流石の貫禄だ、金色の軽鎧にオープンフィンガーの手甲を装着し獣王はマントを翻しつつバッと右手を差し出して宣言する。


「これより国への反逆と謀反の疑いにより商業ギルドへ向かう。反抗するものは全て捕らえ、証拠の確保に努めよ。予の再起後の初仕事である、皆大いに励むが良い!」

「おぉおおおぉ!!」

「行け!」


20名の兵士が我先にと言わんばかりの勢いで王城から出ていく。獣王はゆっくりと歩きつつ正門へ向かう。


「其方らはここで待っておっても良いが・・どうされる?」

「わたくしは見守る義務があると思っております。」

「レイネ様の御傍にいるのが私の役目ですから、お供しますよ。」

「わかった、国内での身の安全は保障しよう。ウルガン!お前がレイネ殿を守るのだ。」

「そ、それでは陛下の守りが・・。」

「予は良いのだ・・何故だか力が漲って仕方が無い・・少し若返った気分だの。」


獣王国の兵士は移動に騎馬を用いる事は少なく自走で戦場に駆け付ける事が殆どらしい。砂漠を超えたり長期間の遠征の場合には砂馬や荷馬車を用いる事も有るが今回は国内でもあるし徒歩で向かう。

5名の近衛騎士が周囲を固め、中心に獣王、その後ろにレイネとウルガン、おっさんは最後尾で殿の様なポジションを取って進んで行く。万が一を考え無詠唱で全員に結界を張り様子を伺いつつ歩を進めた。


暫く歩くと先刻出発した兵士たちが商業ギルドの建物であろう大きな建物から捕らえた者達を縄で縛って外に連れ出している所だった。


「ギルド長は捕らえたか?」

「いえ、建屋内には確認出来ておりません!」

「あの狸め、鼻の利く事だ・・。」


獣王は少し考える素振りを見せ、方向を変え歩き出す。


「陛下、どちらに向かわれるのですか?」

「決まっておろう、奴の屋敷だ。今頃必死で逃亡の準備をしているであろうよ。」


獣王の指示により商業ギルド長の邸宅へと到着する。門を抜け、中庭に差し掛かったあたりで門がガシャンと閉じられ前方に人影が現われた。


「久しいの、ギルド長よ予が臥せっている間に好き勝手やってくれた様だな?」

「まさか・・本当に緩解されておろうとは・・・だがもはや止められん!!出せ!!」

「む・・あれは・・。」


屋敷の前に大きな檻が三つ並べられており、その行使の前面がバタンと倒れ中から四つ足の鷹の様な動物が現われる。グリフォンの様な三匹の個体は檻を開けた従者の指示を受けたのか真っすぐにこちらに向かって襲い掛かって来た。商業ギルド長は笑い顔を浮かべて屋敷の中へと消えて行く。


「兵士達よここは任せるぞ、余は奴を抑える。」


獣王は高速で駆け出し商業ギルド長を追い屋敷へと侵入する。ウルガンとレイネとおっさんも屋敷の中へと侵入し獣王の影を追う様に駆けて行く。獣王は鋭い嗅覚で的確に商業ギルド長の痕跡を捉え、地下へと繋がる階段の前で立ち止まった。


「ここから先は何が有るかわからん、心して付いて来るが良い。」

「覚悟の上です。」


獣王の言葉にレイネは即応じる。獣王は険しかった顔を少し緩めて。


「覚悟の決まった女性は人族であっても美しいものだな。行くぞ!」

「陛下・・お戯れを・・。はい、何処までもお供します。」


地下へ繋がる通路は石畳で周囲はレンガで固められており地中は外よりも温度が安定しているせいか少し肌寒い程の温度だった。長い長い階段を降り真っすぐ進む事暫くで大きな扉が目の前に現れる。


「この中だな、警戒せよ。」


バーンと扉を獣王が開けて中へと駆け込む、石畳だった床では無く乾いた土の様な床面になっており地下とは思えないほど広大な空間が目の前に広がっている。天井までは10m左右に巨大な鉄格子の門があり他に出口は無い。まるでコロシアムの様な空間に獣王、レイネ、ウルガン、おっさんと全ての者が空間の三分の1程度まで進んだところでまたも大きな扉は閉じられ正面の高い所から声がする。高笑いしつつ商業ギルド長が立っていた。


「ようこそ我が闘技場へ、陛下にもこの場所を一度堪能して頂きたいと前々から思っておったのですよ。」

「この期に及んでまだそのような戯言を!覚悟するが良い。」

「戯言かどうかはこれを見てから言って貰いましょうか!!」


巨大な鉄格子の右側が開けられスルスルと巨大なスライムが現われる。


「変異種のビッグスライムを合成したキメラです・・餌は無論あなた方の様な侵入者ですよ!!」

「非合法のモンスター育成とキメラの合成・・・幾つの罪を貴様は重ねれば気が済むのか!」


獣王はスライムに向かって突進し鋭い爪撃で引き裂く、しかしスライムが大きすぎて核へは攻撃が届かない。


「厄介な生物を作りよる!」


唸る様に呟いて獣王は何度かスライムに攻撃し、バックステップで距離を取る。

スライム自体は動きも緩慢で溶解液を躱せれば何という事は無い相手であるが、獣王には核へ届かせる攻撃が無かった。


「自慢の爪もこのスライムの前では効果が無いようですなぁ!持久戦になればこちらが有利ですよ・・」


開いたままの鉄格子からさらに3体のスライムがのそのそと現れる。大きさから考えても囲まれた場合に溶解液から逃れるのは困難となる。おっさんは一瞬で獣王に向かって進み近くでそっと耳打ちをする。


「分かった、其方の策に乗ろう!行くぞ!!」


獣王は真っすぐにスライムの体内目掛けて突進し、そのままスライムに取り込まれる形で埋め尽くされる。


「追い詰められてヤケでも起こしましたか?獣王ともあろうお方が嘆かわしい!」

「何とでも言うが良い。見よ我が闘気の猛りを!!」


スライム内に獣王は閉じ込められているが体はおっさんの結界によって無傷のままである。獣王は自らの体力を闘気に変換し結界内で圧縮し外へと外へと膨れ上がらせて・・


「今だ!聖女殿解除を!!」

「わかりました。」


結界が解除されると同時に獣王の体から弾ける様に闘気が放出されスライムの体はバラバラになって飛び散る。地面に降り立った獣王は瞬時に核目掛けて鋭い爪による貫手を繰り出し飛び上がる。爪先が触れると同時にガラス玉が砕ける様に核は霧散し、スライムは地面へと吸収されるように消え去った。


「これで、あと3つか・・。」

「王、私も参ります!はぁああぁ!!聖女殿タイミングは任せますぞ!!」



片膝をついて息を荒げる獣王を見てウルガンも同様にスライムに特攻する。おっさんはすかさず【完全治癒(パーフェクトヒール)】を獣王にかけて、ニッコリと微笑む。


「流石は聖女殿・・底が知れぬの!!」

「何をしている全てのキメラを出せ!!奴らを生きて返すな!!」


商業ギルド長の悲痛な叫び声が空間に響くとさらに5体のスライムが投入される。恐らくこれで全てだろうと考えたおっさんは攻めに出ようとここに来て考えた。


まずウルガンが獣王同様に闘気を放出して一体、さらに獣王ももう一体を撃破、おっさんは一旦下がる様に指示を飛ばして前へと進み出る。6体のスライムを前にしておっさんは僧杖を出して構える。


「獣王陛下とウルガンさんだけだったらどうなっていたか分かりませんが、人族の地に手を出して私が来てしまったことが貴方たちの敗因ですよ!!」


捧げられし福音の矢(セイクリッド・レイ)


聖属性の単体攻撃では最高の攻撃力を誇る光の矢が一瞬にしてスライムの核を貫通し、一度に3匹のスライムを消し去る。


「なんだと?一瞬で・・・まさか・・そんな事が。」

「あなたのやったことは人々の平和を揺るがし、幸せになろうとした人々の願いを裏切り、つつがなく暮らしている人々の命を脅かした。人々の祈りの前に敗れなさい。」


言い切ると同時に残る三体のスライムも消え去り、商業ギルド長はおっさんの作った結界の中に閉じ込められている。


牢獄結界(プリズン・バリア)


10mある天井の付近までスーッと結界が浮き上がり獣王の手前に降ろされる。必死に大声をあげながら結界を壊そうとしている商業ギルド長だったがおっさんの結界はそう簡単には破れる事は無い。


「聖女が結界を解除したら直ちに捕らえよ!!」

「はっ!」


ウルガンが身構えた所でおっさんは結界を解除して瞬時に商業ギルド長を取り押さえ拘束することに成功した。


「人族と手を結ぶなど、誇り高き獣人族にあるまじき蛮行!恥ずかしくないのか!!」

「黙れ!」


ウルガンの強烈な打撃が商業ギルド長の鳩尾に入りガクっと気絶する。倒れ様に肩に担ぎあげつつウルガンは。


「こ奴を牢に連れて行って参ります。聖女殿陛下を宜しくお願い致します。」

「わかりました。」


ウルガンが気を遣ってこの場を離れたことは明確だった。おっさんもできれば早くこの場から離れたい。何故ならばレイネ様が獣王に寄り添って【中級治癒(ハイヒール)】を唱え恍惚とした表情だから。

しかし、護衛の観点から考えてこの場を離れる事は出来ない為、おっさんは遠くを見ながら呟く。


「終わりましたね。」

「其方には随分と助けられてばかりだ。しかしこれで其方の願いを叶える事もできよう!」

「私はそれで、それだけで十分です。あとはあまり聖女として大きく取り沙汰されないで頂ければ最高なのですが・・駄目でしょうか?」

「予は構わぬが、兵士の多くが其方を見ておるし、ウルガンも予を置いて行く程の始末・・抑えられぬやもしれんなぁ・・・。」

「聖女様は既に人間国でも獣王国でも十分に活躍されましたから、今更ですよ。」


パっと顔を上げて獣王を存分にモフモフしながら満面の笑みのレイネに止めを刺される。2国間の今後が救えたならばおっさんの外聞など安い物か・・・そう思って今回も諦めることにした。

ガックリと首を垂れてため息をついていると獣王が立ち上がり近づいて姿勢正しく敬礼後に跪き。


「この度の獣王国を発端とする動乱を治めて頂いたこと心から感謝致します。」

「まだ・・なんですよ。もう一仕事あるんです、多分・・ですが。」

「なんと?」

「人災は退けられました、次は天災・・というかなんというか・・。」

「瘴気の竜巻ですか?」

「そうなんですよ。」


レイネも共に目撃した大きな瘴気を溢れさせたつむじ風、あれを何とかしないとフォンターレ領への熱波も収まらないだろう。


一難去って王城へ向かって3人で歩きつつ対策を練る。前回の蜘蛛の比では無い瘴気に対してどの様に向かうべきか・・・ともかく一旦は仕切り直して休憩が必要かなとレイネと獣王を見ながら思うのだった。











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