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おっさんは聖女になりて異世界を憂う  作者: とくみつ ろゆき
人間の国編・フォンターレ領の渇きと聖女の憂い
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正面突破?

昨日半分に分けるか悩んで・・寝てしまい・・何とか長めですがまとめました。

それでも前半です

「猫耳・・猫尻尾・・すごく毛並みがいい・・手触りも・・ふふっ。」


自分の頭とお尻に装着した装備の手触りを堪能しつつレイネ様は今日一番の笑顔を見せる。

おっさんも一応装備をして正門から王城へ向かう。


朝が早いため門戸は固く閉ざされ衛兵が二人並んで立っているだけだった。おっさんは何食わぬ顔で門の前の衛兵に近づき。


「何者だこのような早朝に王城の門は開かぬぞ!」

「わかっていますよ、お二人とも立ちっぱなしでお疲れでしょう、暫し休んでいて下さいな。」


睡眠(スリープ)


おっさんが無詠唱で眠りの魔法により衛兵を無力化する、壁にもたれかかる様にストンと眠った二人の衛兵を尻目におっさんは床に転移魔方陣を描き少し離れた所に待たせていたレイネを呼ぶ。


「中の構造は先程の説明であらかた承知してますが、確実に信用できる方が王城内に何人いそうでしょうか?」

「王の専属護衛のウルガンと専属侍女のタキならばわたくしの話を聞いて下さると思います。その二人は私の婚約に肯定的で常に親身になって下さっていましたから。」

「成程、では参りましょう。」


おっさんは帰還石を王城の門を超える様に投げる、放物線を描いて帰還石が地面に落ちたであろう頃合いに転移魔方陣に魔力を込める。事前にレイネには作戦の説明と王城内の簡単な構造を打ち合わせしていたのですんなりと事は運ぶ。



門の内側へと転移するとすぐに物資搬入用の使用人通路へと進む二人、音を立てないように慎重に進み数名の従者が朝から仕事をしている風景が目に入ってくる。


範囲睡眠(エリアスリープ)


パタパタと範囲内の従者が全て眠ったところで二人は通路の奥の王城内部への侵入口へと向かう。物資搬入口は王城の向かって右手の塔の真下にあたる、王は中央の塔の中に私室が有るという事なのでまず塔への入り口のある二階を目指す。


レイネ様は今日の為に衣装を新調していた。淡い紫色のブラウスにチュールスカート、派手さは無いが良い生地が使われており謁見でも十分見劣りしない誂えである。

動き易さも十分の様でおっさんにしっかりと付いて来れているので、よく考えられた衣装だなぁ・・と少し関心すらしてしまった。


階段を上ると塔の前の広間に衛兵が5名並んでいる。流石に王の部屋に繋がる通路だけあって警備が厳重である。おっさんは眠りの魔法を無詠唱で唱えた。


範囲睡眠(エリアスリープ)


しかし衛兵は何事も無かったように階段を警護している・・何かしらの状態異常無効の装備を装着しているに違いない。


「効きませんね、荒事は好きでは無いですが致し方有りません。」


おっさんはアイテムボックスから2本の短棍を取り出す。エスクリマで使用されるような細身で短めのドブレ・バストンを握りしめ少しレイネの方に顔を向けて。


「レイネ様には結界が張ってありますので、ゆっくり歩いてこのお札を床に貼って階段に向かって下さい。」

「聖女様はどうされるのです?」

「こうします。」


【身体強化3】


無詠唱で身体強化を用い全速で衛兵に突っ込む、身体強化はLV1~10までありLV3までが共通スキル扱いでそれ以上のLVは近接格闘職しか使えない。それでもカンストのハイプリーストなのだから身体強化3とはいえ衛兵程度に後れを取る訳がない。


左手は真っすぐ下げ、右手は胸の前で短棍を構えたおっさんは一瞬で衛兵との距離を詰める。


「何者だ!取り押さえろ!」


5名獣人の衛兵はレザーアーマーで兜は被らず武器は持っているが無手でこちらに掴み掛かってくる。鋭い爪と獣人ならではの高い身体能力が売りなのだろう。おっさんは繰り出された鋭い左手の爪撃を右手の短棍で前に押し出すようにスッと誘導してすり抜け様に延髄に左手の短棍で軽く打ち付ける。すぐさま二人の獣人が左右から飛び掛かってくるので前転して躱した後振り返り構えを取る。


短棍は細く短いためこういった乱戦向きであり的確に急所を突けば相手の無力化も容易な優れた武器で、おっさんは刃物が付いた武器を嫌い無手や棒などという装備を好む。

ハイプリーストが装備できる下級装備にこういったものが多いというのが正直な話だが普通のハイプリはまずこんな戦い方はしない。PVP戦闘に特化して編み出したおっさんと嫁ならではのオリジナルアーツの一部だった。


前方に二人後方に二人、囲まれる形となっておっさんは4人が同時にしかけて来るのを待った。先ほどの攻撃を見るに飛び掛かるのが好きな様なので好きに攻めさせてみる。

案の定4人が同時に飛び出してきた、おっさんは一人目の攻撃を紙一重で躱し両手の短棍で二人目に一人目が軽く当たる様に押す、体勢が崩れた二人目の位置にスッと前に出てから三人目の攻撃を正面から短棍をクロスさせて受け同時に弾き出す。弾いたと同時に両手の短棍は開いているのでそのまま4人目の首を挟むように絞め上げて落とす。


体勢を立て直した一人目と二人目がまた同時に仕掛けて来る、少ししゃがみ込んで下から突き上げる様にして下顎よりやや下に短棍を一気に二人同時に打ち込む。丁度頸動脈の露出する部分にクリーンヒットして2名は綺麗にブラックアウトする。人であれ獣であれ血が脳に届かなければ意識は刈り取れるのだ。


残るは一人となった所で衛兵は大声をだす。


「出会え、敵襲だ!!」

「声は届きませんよ。」

「なっ・・」


声を上げている一瞬の隙におっさんが高速で踏み込み短棍の突きが鳩尾に刺さり、倒れる瞬間に延髄に打ち付けが追撃で入る。5人を無力化し一応縄で結びつつおっさんはレイネに声をかける。


「お札が役に立ちましたね。」

「ええ、そのようですねこれほど立ち回っても音が周囲に響かないなんて。」

「森の魔女特製の物ですから。さて、先を急ぎましょうか。」


中央の塔の中程に王の私室は作られており、入り口の前には護衛騎士のウルガンが一人佇んでいた。レイネはネックレスを取り出して差し出すような姿勢でウルガンの前へと進み出る。

ネックレスを覗き込むウルガンは狼の様な顔をした獣人で淡い紺色の毛並みで他の者と同様にレザーアーマーを着込んでいた。

警戒しつつも敵意の無いレイネに対してウルガンは攻撃の意志は見せず会話が始まる。


「ご無沙汰しておりますウルガン様、わたくしフォンターレのレイネです。覚えていらっしゃいますか?」

「驚きました、覚えております。しかしこんな時間に・・しかもその恰好(すがた)は・・?」


困惑しつつもレイネが敵でないことをわかってもらえた様で猫耳と尻尾を外して向かい合う二人、これ以上の荒事は回避できそうだなとおっさんは安堵した。


「獣王陛下の体調が悪い中、フォンターレの者と獣王国商業ギルドとが結託して外患誘致を行っている事が発覚し、一刻も早くこの事を獣王陛下にお伝えしなければならないと思いこのような無理を通させて戴いたのです。」

「成程、最近の兵の動きが不穏なのはそのせいでしたか・・して、そちらの御仁は?」

「ああ、紹介が遅れましたわ、旅の聖職者のリア様です。当方の国では聖女の称号を与えられている方なのですよ。」

「立ち居振る舞い、身から溢れる闘気・・只者ではないとお見受けしましたが、聖女とはまた。」

「急ぎの事でしたので少し手荒な挨拶となり申し訳ありません、下の方達も暫くすれば目を覚ますでしょう。お詫びに後程これを渡してあげて下さい。」


おっさんは武器を収納してポーションの12本入った箱をウルガンに手渡す。


「あの下にいる5名を相手にして無傷、しかもこの配慮、まさに聖女に相応しい。有り難く頂戴致します。」


なんだか一瞬にして聖女が認定されてしまっている。そのおかげで話が早くて済むならまぁ良いかとおっさんは諦めた。


「再開を喜んでいる中申し訳ないのですが、獣王の容態を診させて頂いても構いませんか?私の力で癒すことが出来るかも知れないのです。」

「わかりました、こんな時間ですがこの部屋の中なら人目に付くこともまず御座いませんから。」


静かにウルガンは王の私室の扉を開け、中へと入る。驚いた顔の侍女がウルガンに駆け寄る。


「こんな時間にどうされたのです?その方達は・・?」

「王国から遥々火急の用にて陛下に面接に来られた方々だ。タキ、お前も良く知った者だと思うが?」


タキと呼ばれた猫耳の侍女は暗視が効くらしく少し目を細めてコチラを睨む。


「まさか・・フォンターレのレイネ様・・なのですか?」

「そうですよタキ、お久しぶりです覚えていてくれて嬉しく思いますわ。」

「私は旅の聖職者のリアと申します、今回は獣王様の治療とレイネ様の護衛が主な役割で参りました。」

「治療、と申されましたか?もうここ5年近く獣王様は意識があったりなかったりで不安定な状況なのです。国内の医師たちも匙を投げてしまい、現状維持のための投薬のみとなって・・・お願いします陛下の身が救えるなら後で私がどうなっても構いません。宜しいですね?ウルガン。」

「構わぬ、お前と同じ様に私もこのお二人をこの部屋に引き入れておるのだからな。」


やはりレイネ様を伴って来たことに間違いは無かった。警戒心が殆ど無くなり獣王の治療もすぐに行える、彼女の決意がこの流れを引き寄せたのだろう。


おっさんは獣王の眠る寝台の天幕越しに【全解析パーフェクトアナライズ】を唱え症状の確認をする。

目の前に表示される情報に目を通しつつおっさんは確信を持った声で言い放つ。


「獣王は毒を盛られた上に呪術による昏睡を受け、瘴気の影響下で衰弱している状態です。すぐに医療を行いたいのですが宜しいですか?」

「構いません。」


タキの即答を受けて瞳を見て頷きおっさんは獣王の治療に入る。【解毒】【解呪】【状態異常回復】【治癒】と四段階に分けて各呪文とも詠唱込みで唱えていく。無詠唱よりも効き目が良く、回復量も多いため時間が有るときは完全詠唱で治療を行うのだった。


「ん、んん・・・朝か?まだ薄暗い様だが・・・・。」

「陛下?陛下がお目覚めに!!」

「おお、何と・・素晴らしい治療魔法だ!」

「流石はリア様ですね。」


感動で涙一杯のタキとウルガンに病み上がりの獣王は困惑気味に体を少しだけ起こしこちらを見つめる。


「其方が予の治療をしてくれたのか?」

「はい、奉仕こそ我が務めですので。」

「名は何と申す?獣人ではあるまい?匂いでわかるのだ。」

「このような格好で申し訳ありません、わたくしはリアと申します。」


おっさんは猫耳と猫尻尾のままだったのを失念していた為即座に外して挨拶をする。獣王は元々体力がかなり高かったおかげで回復魔法の効きが良く、みるみる元気になっていく。


「もう動けるのですか?」

「うむ、何事も無かったようにな・・これまでが嘘のようだ・・治療に感謝するリア殿。礼はどのような物を所望する?」

「出来る事ならば、獣王国と王国の和平を望みます。そのために此処へ参りました。」

「ふむ、何やら訳有の用だな・・話を聞こう。」


獣王がスッと立ち上がるとタキが上から羽織るものを獣王にかける。寝台から離れた所でレイネが獣王の胸に飛び込み。


「お久しぶりで御座います、フォンターレのレイネです。陛下に再びお逢いできて・・・・」

「其方・・其方はまだ・・・」


少し目を伏せるようにして獣王はレイネの頭をひと撫でして肩に両手を添え。


「再開できて予も本当に嬉しく思う。まずは状況の整理をさせてくれぬか?起きて間もないのでこの状況が頭で全く整理がつかぬのだ。」

「あっ、そうでした、そうですね。失礼致しました。」


パっと離れて恥ずかしそうにしているレイネは少女の様だった、別れた日からもずっと獣王を慕い続けていたのだろう。意外と一途な一面におっさんはほうほう・・・と感心していた。


「ゴホン、では話を伺おう。お二人とも座るが良い。」


私室の椅子に腰掛けた獣王は少し恥ずかしそうに切り出す。タキはお茶の準備へと向かい、おっさんとレイネは準備された椅子を勧められ腰掛ける。


王との謁見では無いが、面会が始まろうとしていた・・・・












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