寄り道と迂回
まだ辺りの暗いうちに起き出して、静かにおっさんは転移して教会へと移った。
マゴマゴしていると全員ついて来てしまいそうだった、おっさんがそう思うだけで妻たちはそうでも無いのかも知れないが兎に角静かに誰もいない教会の会議室で音を立てないように待っていた。
そう時間を置かずにレイネが会議室へ入ってくる。おっさんが既に椅子に座って待っていた事に驚きの声を上げる。
「既に、来られてたのですね、ああ、大きな声を出してしまって申し訳ありません。」
「驚かせてしまいましたかね?3人を置いて長期間離れ離れになるのは初めてなので、余裕を持って移動したのですよ。皆心配症ですから。」
「成程、大変仲の良い夫婦なのですね。」
レイネは納得の頷きと共に姿勢を正し、深々とお辞儀をしてくる。
「獣王国へは数回行ったことが御座いますが自由行動など出来る筈も無く、行動が許されたのは王宮内と大きな商店くらいのもので詳しくは分からないというのが正直な所です。足手まといかも知れませんが宜しくお願い致します。」
「こちらこそ宜しくお願い致します。」
挨拶を済ませた所でレイネ様を転移の魔方陣の上に誘う。少し大きめの鞄を一つ持ったレイネが恐る恐る陣の中へ入る。
「それではフォンターレ領主邸の外へまず向かいます。」
「はい。」
いつぶりの里帰りなのだろう?レイネ様は辛くなったりしないだろうか?そんな事を考える暇も無く転移は一瞬で完了する。到着と同時におっさんは地面に大人3人は乗れるサイズの絨毯を広げた。
「靴は手に持って、この上に今度は上がって下さい。」
「はい・・乗りました。」
ペタンと座って鞄と靴を持つレイネを確認してからおっさんも絨毯の上へと上がり絨毯の四隅に結界石を置き固定して防護の為の結界を張る。
「まずは国境にある兵士詰所へ向かいますよ。気持ち悪くなったり、怖くなったらすぐに教えてくださいね。」
「は、はい。わかりました。」
何が起こるのかさっぱりわかっていないレイネは少し困惑気味に返事を返してきた。おっさんは構わず絨毯に魔力を込めて地面から絨毯が浮き始める。
「わっ、わっ・・そこまでは怖くは無いですね。よかったです。」
「それはなによりです。では行きます。」
地面から3メートル程浮いたところで垂直方向から水平方向へと移動が移り、音も無く空気抵抗すら無い絨毯はリニアの乗り物の様に進んで行く。
結界は物理魔法防御、空気抵抗などの遮断がメインとなり隠蔽などは用いていない。
飛ぶ、と言うよりは空中を滑らかに滑るように真っすぐと国境に向かう絨毯。速度はぐんぐん上がり、すぐに国境の長城が見えて来た、門が有る部分の脇が兵士詰所であろう。
「はや、早いですね。一瞬でこんなところまで来てしまうなんて。」
「もう少し早くはできますが、レイネ様が怖がるといけないと思ってこれでも控えめです。」
「そう、なのですね・・。聖女様とご一緒だと驚くことばかり、何だか色々通り越して楽しくなってきてしまいました!」
「楽しみ過ぎては不謹慎ですが、初体験の事に好奇心が揺さぶられて楽しいくらいは許されるでしょう。ほら、もう着きますよ。」
大きな門の横に長城の内部に入れるようになっている扉が有り、扉の前に兵士が一人座って寝ている。
絨毯から降りたレイネ様が兵士をゆさゆさと起こしにかかる。
「もし・・もし・・起きて下さいませ。」
「んん?もう交代か?・・・まだ暗いぞ・・って!!レイネ様ではありませんか??!」
寝ていた中年の兵士はレイネの事を知るものだったようだ、座った状態で後ろに手を突きのけ反る様に起き上がる。
「その恰好・・獣王国へ再び向かわれるのですか?」
「はい、わけあって詳しくはまだお伝え出来ませんが、フォンターレと国の為に行きたいと思います。」
「そうですか・・・そちらのお方は?」
「聖女リア様です。今回のわたくしの旅を支えて下さる重要な方ですから丁重に迎えて下さいね。」
「はっ、リア様にお初にお目にかかり光栄です。私国境警備師団副団長を務めておりますカールと申します。以後お見知りおきを。」
バッと敬礼されておっさんはどう挨拶するか悩み。
「そんなに畏まらなくてもいいですよ、初めまして旅の聖職者をしておりますリアと申します。本日はレミア様から支援物資を預かっておりますのでそちらの納品とこの門の通過の許可をお願いしたく参上致しました。食料と水はどちらに運び込みましょう?」
「なんと!!皆喜びましょう。こちらです。」
扉を開けてカールが長城の中へと案内してくれる。食糧庫はすっからかんで水が少し残るだけだった。おっさんはこれではいけないと少し多めの食料と水をドサっとアイテムボックスから出して置く。
「ものすごい容量のマジックバッグですな・・流石は聖女様。これで国境警備兵も安心して任に就けます。本当に有難うございます。」
「昔からこれしか使ったことがないので、自分ではわかりません。喜んで頂けたなら本望ですよ。」
少しはにかみつつ上を向いて微笑みつつおっさんはカールに答える。おっさんは小さいから自分よりも大きな人と話す場合はどうしても上目遣いになりがちであるが、決して狙ってやっている訳では無い。
少し顔を赤くしたカールはパっと背中を向け吐いてきた方の扉へと戻っていく。
背を向けたままのカールがレイネに問う。
「レイネ様と聖女様は国王から通過の許可は得られたのですか?」
「はい、今回の事は王からの密命を帯びておりますので他言無用でお願いしますね。」
「成程わかりました、では門を一瞬だけ開けますのでその間にお通り下さい。」
レイネ様の解釈は至極耳障りが良い。ぶっちゃけ王様から丸投げにされた任務で有るのだが、さも王の采配が素晴らしく聞こえてしまう。少し腹立たしいがもっともらしい説明をしてくれるレイネに申し訳ないので、おっさんは黙って頷いていた。
閂を二本抜き大きな門が大人一人通れる程度開く。
「砂馬無しで行かれるのですか?かなり距離はありますが・・・」
「構いません、聖女様のお力で移動して行きますので。」
「そ、それは是非見てみたいものですな。」
羨望の眼差しを向けられ困ったおっさんは仕方なく門の外側で絨毯を広げレイネと共に乗り込み。
「これも他言無用ですよ、悪戯に噂を広めないで下さいね!」
「承知致しました。レイネ様と聖女様の旅路の無事を祈っております。」
「カール、人手は減ってしまっているでしょうがもう暫くの辛抱です。王宮からの物資もいずれ届くでしょう。貴方の健闘も祈っていますよ。」
「あり難きお言葉。光栄の極みです。」
敬礼をしたままで見送ってくれるカールを残しておっさんとレイネを乗せた絨毯はスーッと離れていく。スピードが上がり、似たような景色ばかりで目の錯覚かと思う程だ。砂と砂山と時々草が少し、砂漠は本当に殺風景であった。
暫く進むと大きな砂嵐が見えて、おっさんは迂回するようにぐるっと砂の壁の外側へと舵を取る。砂嵐の中心に大きな黒みがかったつむじ風があり、目を凝らすと瘴気がにじみ出る様に蜷局を巻いているような状態だった。
「この距離でも嫌な感じがビンビンします・・。」
「不浄な穢れが何かを覆って、地上の瘴気を吸い上げているようですね。何と恐ろしい。」
「しかし今は獣王国へ入り、王に会うのが先決です、少し飛ばしますよ!」
砂漠の中央突破はできなかったものの日が昇る前には獣王国らしき街並みが遠目に視認できた。
「あそこで間違いないですか?」
「はい、奥に見える三本の塔がある建物が王の居城です。」
何やら苦虫を潰したような顔に一瞬なりつつも平然と答えてくれるレイネ、二度と来ることは無いであろうと思っていた土地に自ら出向いていく・・これは精神的な疲労も大きかろうなぁ・・っと心中でレイネを気遣いつつもおっさんは絨毯を獣王国の付近まで飛ばしていく。
まだ薄暗い事もあってすんなりと外壁の上を通過し王の居城の付近で絨毯から降りる。
「レイネさまこれを身に着けて下さい。」
「こ、これは?」
おっさんが取り出したのは猫耳カチューシャと猫尻尾だった。
長くなりそうだったので分けました。




