支度とそれぞれの確認・・
何の確認作業をしたかは読んでもらえれば・・わかりにくいですがわかるかも?しれません
蝶華とおっさんの二人で行動するのであれば商会で買い付けた物を転移で直接輸送することもできるがそれを敢えて避け、一度領主邸から馬車で輸送してもらう。
領主による救済措置としての側面を残し、今後の領地をレミアが統治し易いものとして確立させていく狙いがあった。レミアの統治と国の援助を前面に出し、人々がこれからも安心して暮らして行けるようにとの配慮だ。
何を言わずとも直接村々を回る事で勝手に聖女伝説が既に独り歩きしつつある今、聖女の聖女による聖女だけの行いを秘密裏に行うなんてことは全く無く、感謝はされても構わないが崇められたり奉られるのはおっさんは遠慮したいと切に願っている。
見返りや賞賛で奉仕の中身を変えるのであれば、商人として領に貸しを作って物資を格安販売した方がマシだとも考えた程である。
歩きながらそんな事を考えていると蝶華がくるっと横を向き、むぅ~んと唸る様に腕組みをしつつ言う。
「損な性格なのでしょうね・・もっと旦那様は欲を持っても良いのでは無いでしょうか?」
「そう思う?でも性分だから・・仕方ないと諦めてね。」
「いいえ、敬意すら覚えます!」
「あ、うん。ありがとぉ。」
蝶華の熱い視線が痛い。おっさんはごくごく自然にフォンターレ領の救援活動に参加しただけだ。それを行う力があり、物資が有り、許可を得られたからこそできる奉仕活動。願いも聞かず頼みもされずに勝手に行う振る舞いでは無い。
持たない者が行えば共倒れ、力なきものが行えば自滅する。慈善活動には悔いが無いように見えても、損をしたと恨めしく思ってしまうのが人の心、偽善による慈善はたちが悪い。自己満足を損得勘定で行なうのだから仕方ないことなのだけれども・・・
様々な途上国でのキャンプで経験したものと比べてそんな考え事をしつつ、おっさんはため息を一つ吐き本日分の輸送は終了した。
「明日からまた一人だけど頑張ってね。わからない事や判断が出来そうにない場合はすぐに連絡を!」
「ハイ!報・連・相ですね、悪い状況から伝えるのが鉄則!!」
「うん、大変結構!」
自分ではわからない、出来ない、を如何に早く判断し誰かに伝えるかがホウレンソウにとっての重要なファクター。出来ることを行い、「出来ました!」などと言う報告は何時だってできるのだから。集団で行動するからこそ他者の意見を伺う事の重要性を蝶華には言って聞かせ、失敗や反省を多く生んだ方が成長できるよと諭した結果、蝶華は一人でも十分な働きを見せてくれる。おっさんは満足げに微笑み、転移の魔方陣を起動させた。
一番乗りでコテジへと戻ったおっさんと蝶華だったが今日は意外とやる事が多かった。
「私がいない間のコテジのメンバーの食事を作って、数日分のシスター達の昼食を作って、今日の晩御飯も作って、明日からの支度をしないとだ・・・」
「半分以上お料理ですね・・・。」
指折り数えているとエプロン姿になった蝶華が手伝いを申し出てくれたのでお願いする。
「蝶華はひたすらお米を研いで水加減終わらせるところまで、済んだらこのスープのアクをひたすら取ってて、私は切って、炒めて、煮て、揚げてを一気に出来るように下拵えする。」
「はい。頑張ります。」
大人数の分の調理は下拵えが胆となる。これさえ怠らなければ大きな鍋やパン(フライパン)でわ~~っと仕上げるだけで済む。仕込みを猛スピードでこなしつつも蝶華の様子をチェックして、次の行動を指示する。さながら旅館の厨房の朝の風景の様だった。
唐揚げ、エビフライ、イカリング、ホタテフライ、首都近郊で捕れた白身魚のフライ等々揚げ物各種。
筑前煮もどき、角煮、魚の煮つけ、大根と人参と油揚げと豆腐の炒め煮、ナスの煮物、鶏手羽のあっさり煮。
回鍋肉、チンジャオロースー、チキンソテー、野菜炒め、トンテキ、各種炒め物。
3時間近くかかって食事をひたすら作り続ける。パンは首都でも手に入るのでご飯は全ておにぎりにした。
一段落して蝶華と二人テーブルに突っ伏して少しうなだれる様に呟く。
「流石にあの量を一気に作るのは骨が折れるね、でも蝶華のお手伝いのおかげで殆ど終わったよ。」
「旦那様の動きに全くついていけずお恥ずかしい限りです。」
「料理は慣れだよ。」
顔だけ蝶華の方に向けてアハハと笑う。何だかエルフの里でもそうだったが本気で料理人にジョブチェンジ出来るのではないかと思ってしまうおっさんだった。
蝶華は段々と調理手順が身に染みてきていた。もうじき何か新しいレシピを教えてあげよう。嫁は頭に入っててもオリジナル料理が完成してしまう子なので、蝶華のようにレシピに忠実な子が嬉しく感じてしまう。
「レシピに忠実・・・ならばお菓子系がいいかな?レシピ命だし計量物は・・」
「お菓子も作るんですか?!」
「うん、またそれは今度ね、レシピ教えるから蝶華が作るんだよ。」
「それは楽しみです、旦那様が居ない間も少し調理の練習をしてみますね。」
むくっと起き上がった蝶華はガッツポーズをこちらにしつつ訴える。おっさんも起き上がりお茶に手を伸ばす。直後リビングに設置された帰還石が光を放って・・
「ただいま~良い匂いぃ~♪」
「本当だね、ボクもお腹減って来ちゃった。」
嫁化が推進し蔓延する昨今、おっさんの悩みは増える一方なのかもしれない。
「手を洗って席に着いて少し待っててね、まだ人数足りないでしょ?」
「あ、そうだねぇ、レミアちゃんは自分で転移で戻ってくる予定なの?」
「そそ、練習も兼ねてやってみてって伝えておいたんだ。」
「成程~。」
夕食はけんちょうと角煮、サラダとスープをチョイスした。けんちょう煮込みはどこぞの郷土料理である。最近は冷たい物が多かったため少し控えて暖かい料理を多くしてみた。
並べ終えるころにはレミアがドヤ顔で転移してきて。
「出来た・・出来ましたわ、学院では魔法はあまり得意では有りませんでしたが、成功よ!」
「やりましたねレミア様。」
従者3名を伴ってレミアは席に着いた。おっさんが手を合わせると全員が静かに動きを同調させて。
「頂きます。(全員)」
もはやコテジに来る人は全員頂きますが出来るようになって帰っていく始末となった。苦笑いで各自にスープをサーブしていたおっさんは全員の顔を見ながら手を止めて話し出す。
「全員食べながらでいいから聞いてね、明日から数日間の予定でここを私が離れるのだけれどもその間の食事を嫁に預けます。シスター達の昼食も預けるので、決してつまみ食いしないように!見かけた人が居たらすぐに連絡を下さい、お仕置きするから・・」
「ひいいぃ!」
何もしていないのに嫁は小刻みに震えている。お仕置きに良い思い出が沢山有るのであろう・・おっさんは満面の笑みでその固まった嫁を見た。
「お仕置き!」
「ハード?ソフト?」
黙れ!とは口に出さずにおっさんはかしまし娘達を目で殺し、明日からの予定も述べておく。
「明日からはシスター達を移動させて、食料運搬、井戸掘り。これがメインの作業だね、まだ雨が降りそうにも無いから嫁とルシエは体調を気にしつつも頑張って欲しい。」
「掘るよ~掘っちゃうよ~♪」
「うん、頑張るよボク。」
「レミア様は今後は執務室待機メインで物資搬送組から状況を聞いて回って下さい。もちろん厩舎の関連の人々や屋敷のメイド、従者も含めて会話を大事にしていって欲しいのです。」
「わかりました、できうる限り努力致しますわ。」
一拍置いておっさんは自分の話を切り出す。
「私は早朝にレイネ様を伴って、まず国境詰所に向かい支援物資を渡します。王宮からの物資は早くてもまだ結構時間がかかりそうですしね。その後最短ルートで獣王国首都王宮へ潜入し、できれば獣王と面会して話を伺って、解決策を思案して、決行して、戻って来ます。」
「随分あっさりと解決して・・と仰いますが、何か策でも御座いますの?」
「ん~策って程では無いね、ohanashiして分かり合えれば好し、そうでなかったらわろしって感じで無策では無いけれど出たとこ勝負なのは変わらないかな。」
皆心配そうな顔でこちらを見つめる中嫁だけは毅然とした態度で話を聞いている。信頼が有るってあり難い事だなとおっさんは少しはにかんで、最後にもう一言付け加える。
「頑張る事は良いことですが、一人で無茶をすれば只の無謀です。私も気をつけてやるので、皆も無理せずお互いに助け合って、困ったら何時でも連絡して良いから・・頑張りましょう!」
「おぉ~!!(全員)」
おっさんは特に明日は早いためそそくさと後片付けを行い、入浴を済ませ、床に向かおうとする。
部屋の前に嫁と蝶華とルシエが待っていて部屋へと入ってくる。
一人ずつ順番におっさんを抱きしめて接吻し、離れ際に一言ずつ。
「心配はしてないけど、貴方がやりすぎないか心配、頑張ってね!」と嫁。
「一緒に行きたい!などと我儘は言いません。旦那様の望むままに、いってらっしゃいませ。」と蝶華。
「寂しいし、辛いけど・・ボクは帰って来た旦那様に褒めて欲しいから頑張るよ!行って来て!」とルシエ。
おっさんが返事をしないまま3人はスッと部屋を離れた。数日間とは言え3人と完全に離れるのは初めてとなる。心配させてばかりじゃいけないな・・とおっさんは考え床に就くと。
『皆の気持ちはあり難く受け取ったよ。皆愛してる、おやすみなさい。』
『おやすみなさい。(全員)』
嫁、蝶華、ルシエ3人が3人とも声にならずに部屋で少しの間泣いてしまっていた。悲しいわけでも辛いわけでも無い、それでも何故かとてもとてもこみ上げてくるものに抗えない3人の嫁達・・・・
いよいよ明日からは獣王国に入る予定だ、行き当たりばったりで何が有るかはわからないが、いくつかの策は既に思案済みのおっさんはゆっくりと息を吐き、眠りにつくのだった。




